ふるてつのおもひで『握手』 | マイナビブックス

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ふるてつのおもひで『握手』

2014.06.03 | 古川徹雄

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 大山康晴十五世名人を見たのは、いまから30年近く前。支部名人戦全国大会の前夜祭でした。のちに奨励会三段となってNHK杯戦の記録係を務めることになる、弟分の佐藤佳一郎君と団体戦のチームを組み、初めて出場した全国大会です。
 前夜祭の会場に大山先生は途中から入ってこられたのですが、その姿が見えただけで会場がざわつきはじめます。雑誌やテレビで見るイメージとは違い意外と小柄な大山先生でしたが、その存在感と、オーラというのか迫力は驚くほどで、福島から来た田舎者は遠くから拝むようにしてその姿を眺めていました。
 一通りのあいさつが終わり、懇親会となったときに小学生くらいの子が「サインしてください!」と色紙とマジックを持って大山先生のもとへ。あっいいなあ、俺も色紙持ってくればよかった、と強く後悔していると、「関屋さん書いてあげなさいよ」と大山先生。隣におられた関屋喜代作先生(現八段)の「エッ?」という顔と、小学生の「エーッ」というようなガッカリしたような顔がおかしくて、気の毒ながら笑いをこらえるのに必死でした。サインをしなかったかわりに小学生と握手をされた大山先生を見て、おそるおそる私も握手していただいたのですが、「選手なの? 頑張って」と声までかけていただいて、そのふっくらとしたやわらかな手の感触はいまだに忘れられません。お陰で3位入賞できたんだと思います。本当にカッコいい素敵な先生でした。 

 米長邦雄永世棋聖と初めてお会いしたのはいまから15年くらい前。実際にはお会いしたというより、偶然見かけたというのが本当のところ。いまはもうない、飯田橋のトンカツの名店「いもや」でご飯を食べた帰り、外に出て少し歩いたところで、米長先生にそっくりな人を発見。見れば見るほどよく似ている。大の将棋ファンのふるてつにとって、米長先生はまさに大スター。じーっとその姿を見つめながら少し尾行(笑)。やっぱり米長先生だ、と確信を持った瞬間、我に返って悩みました。いい年をして握手してくださいってのも恥ずかしいなあ、と。でもこれを逃すと一生お会いすることも叶わないかもしれない……、えいっ、ままよっ! と意を決して「よ、米長先生、ス、スミマセン握手してください!」、と声をかけた瞬間、先生30センチほど飛び上がられました。後ろからつけてきている怪しげな男の気配に、敏感な先生のこと、気付いておられたのかもしれません。不審者となってしまった申し訳なさと恥ずかしさで、私が固まってしまっていると、米長先生はバツ悪そうに手を出して、笑顔で「ビックリしたね」と言ってギュッと握手してくれました。とてもエネルギッシュで、いつもさわやかな先生でした!

 谷川浩司会長と初めてお会いしたのは、将棋世界編集部に入ってからのこと。3年位前に就位式の取材でお見かけしたのが初めてでした。
 私のなかで、いや、私の世代では谷川先生以上のスターはいません(大山先生は別格)。そのお姿を間近に見られただけで、将棋界に入ってよかったと思ったものです。就位式では「うわっ、谷川先生がカレーを自分でよそって食べてるよ、ひえーっ」と変なところで感動。当然ですがその際には、名前と所属をお伝えして、あいさつをするのが精一杯でした。以後、いろいろなところで取材等をさせていただくようになり、谷川先生に名前を覚えていただくことはできたのですが、当然ながら記者ですので、棋士の先生に握手をしていただくような機会はまずありません。
 谷川先生に本誌「感想戦後の感想」100回記念に特別ゲストとして登場していただいた昨年末、取材終わりに「先生、握手していただけませんか」とお願いして握手をしていただきました。 記者が握手をしてくださいというのも変な話で、訝られても当然のところを、締め切りに終われる忙しい生活で擦り減っていた私を察してか、谷川先生は何も聞かずに笑顔で握手をしてくださいました。握手をしていただいたという、ただそれだけのことなのですが、とてもとてもうれしくて、疲弊していたはずの自分でしたが、谷川先生の霊験あらたかなパワーで元気になり、前向きになることができました。

 本日発売の将棋世界7月号で、マイナビ女子オープン第4局の観戦記を書いたのですが、そこにも谷川先生が握手をされるエピソードが出てきます。是非お買い求めいただいて、お読みいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。