教育・医療・Biz iOS導入事例

ネイティブからプログレッシブへ-転換点を迎えた業務アプリの世界

文●牧野武文

Apple的目線で読み解く。ビジネスの現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

「iOSの業務アプリは新たに開発すべきではない」。長年iOSアプリ開発を行ってきたフィードテイラー代表取締役の大石裕一氏はそう語る。そして、これからはWEBアプリの時代がやってきそうだ。業務アプリの開発の現状に迫る。

 

 

「その後」が面倒なネイティブ

iPhoneはこの10年、世界を再定義してきた。生活を変え、ビジネスの世界も一変させた。その中心にあったのは、やはりアプリの存在だ。しかし、「iOSの業務アプリは新たに開発すべきではない」と、iOSアプリ開発を専門に行ってきたフィードテイラー代表取締役の大石裕一氏は語る。いったいなぜだろうか。

「iOSの業務アプリを開発してほしいという依頼が過去にも現在にもあります。iPhoneやiPadの業務利用が始まった当初は、確かに自社専用のアプリ開発を行う企業が多くありました。しかし、今は状況が異なります。業務アプリは容易に開発すべきではなく、最終兵器なのです。なぜなら、これまでの業務システムを開発するようなノリで作ってしまうと、後々大変なことが待ち受けているからです」

iOSの業務アプリが従来のPCベースの業務システムと大きく異なるのは、頻繁なアップデートが必要になる点だ。必要がなければ変更しなくて済む従来の業務システムと異なり、iOSは企業都合をよそにアップルが容赦なくアップデートを行うため、業務用アプリもそれに追随しなくてはならない。これを怠ると、業務アプリが使えないという事態に陥り、業務が止まってしまうという最悪の事態にもなりかねないのだ。

iOSアプリ開発に必要なアップルとの契約の有効期間は1年間。継続の手続きを取らないと、アップストア(App Store)に公開したアプリのアップデートなどができなくなるだけでなく、アップストアを介さずに配布している業務アプリの場合は起動そのものができなくなる。また、新しいiPhoneやiPadは常に最新OSが入った状態で出荷されるため、安定稼働する古いiOSのまま利用し続けるのも難しい。

「業務アプリを開発するのであれば、人的・時間的・金銭的コストをかけて毎年継続してアップデートし続けるという覚悟が重要です。しかし、こうした点を知らないばかりにアプリ開発が無駄になってしまうケースをよく見てきました」

なぜ、アップルはこのようなアップデート対応を業務用アプリにまで課すのだろうか。ここにアップルの戦略がある。iOSはアップデートされるたびに新しい機能が次々と加わり、進化をしていく。一方で、旧態依然として変わろうとしないアプリはどんどん切り捨てられていく。こうすることで、アプリの世界は立ち止まることなく進化をしてきた。この進化があったからこそ、iOSアプリは世界を一変させるインパクトを与え続けることができた。

「iOSの進化というと、コンシューマー向けの機能ばかりに光があたりますが、実は着々とエンタープライズ向け機能も進化してきています」

たとえば、MDMに対応することで社内のデバイス管理などは極めて効率的にできるようになった。VPP(Volume Purchase Program)が導入され、業務で使用するアプリの一括購入ができるようになった。DEP(Device Enrollment Program)の導入で箱を開ければMac、iOSデバイスがすぐ使えるようになり、キッティングという非生産的な作業をしなくて済むようになった。このアップルが切り開いていく技術を業務に利用したいのであれば、アップルの背中を追いかけていく必要があるし、変わりたくないというのであれば業務を進化させることはできない。アップルは、企業にこの二択を突きつけているのだ。

 

 

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株式会社フィードテイラー代表取締役・大石裕一氏。数々の業務用iOSネイティブアプリを開発してきて、今、ネイティブからPWAへ時代が動いていることを感じているという。

 

 

新世代のWEBアプリ

では、この狭間を解決できる方法はないのか。その答えは、大石氏の言葉どおり「iOSの業務アプリは新たに開発しない(自作しない)」だ。つまり、いちから作るのではなく、ベンダーが提供している既製品アプリを使うのだ。これならばiOSのアップデートに追随する責任をベンダーに転嫁することができる。商品のカタログアプリなどは、多くの企業がこのような手法で導入をしている。

もう1つの解決策は、WEBアプリを開発することだ。「iOSの進化の歴史はモバイル版サファリの進化の歴史でもあり、ネイティブアプリでしかできなかったことが、どんどんモバイル版サファリでできるようになっています」。

今年8月にiOS系エンジニアを歓喜させたのが、PWA(Progressive Web App)への対応が開発段階に入ったというニュースだ。PWAは古典的なWEBアプリと一線を画すもので、オフラインでも動作できるようになる。WEBアプリというのは本来WEBページの技術を使ってアプリ風に見せているものなのだから、古典的なWEBアプリはネット接続をしなければ動作しなかった。オフライン動作に対応することで、アプリとほぼ同じ感覚で使えるようになる。

さらに、PWAはWEBベースなので、iPhoneだけでなく、アンドロイドやMac、ウィンドウズなどさまざまな機種で動作する。iOSのネイティブアプリの標準言語であるオブジェクティブCやスウィフト(Swift)がわかるエンジニアに比べて、WEB系のエンジニアは圧倒的に数が多いのでエンジニアの調達もしやすくなる。業務アプリをマルチプラットフォーム対応させるのであれば、確実に開発コストは下がるはずだ。また、PWAが実現すればWEBアプリはネイティブアプリと同じようにMDMで企業配布が可能となる点も大きい。現在グーグル・クローム(Google Chrome)がPWAへ対応し、Edgeとサファリも対応に向けた開発が始まっている。

もちろん、ネイティブアプリに比べて、PWAにもまだできないことはある。

「おそらく最後まで対応が難しいのは、ブルートゥースやWi−Fiを利用する通信層の機能だと思います。デバイスのハードウェアに依存するような機能は、やはりネイティブアプリで各機種ごとに作る必要がありますが、逆に言えば、それ以外のことであればほとんどPWAでできるようになるでしょう」

 

 

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アップルはiOSのエンタープライズ向け機能も進化させてきた。図は2008年~2017年にiOS向けに追加された主な機能。iOSの進化はエンタープライズへの歩み寄りでもある。

 

 

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当初WEBアプリがあまり開発されなかったのは、上に示すようなブラウザの制約によるところが大きかった。しかし、ブラウザの進化により、こうした問題は徐々に解決されてきた。

 

 

再び時代はWEBへ

フィードテイラーではWEBサイトを静的化する「エスパー(espar)」というサービスを展開している。これは、WEBサイトの全ページをHTML化してファイルとしてサーバに保管し、更新されるたびに毎回HTML化(静的化)を行うホスティングサービスで、現在のWEBが抱えている「スピード」と「安全性」の課題を見事に解決する。

まずエスパーで静的化を行うと各WEBページは画像のような状態となるため、HTMLのソースやスクリプトを読み込む必要がなく、高速に表示されるようになる。また、WEBサイトはPHPなど種々のスクリプトに悪意のあるコードを挿入することで攻撃されるが、画像のような状態になっている静的化WEBでは、コードを侵入させようがなく、セキュリティを高めることができる。

「エスパーはWEBサイト向けのサービスですが、アプリ開発にも応用することができます。たとえば株式会社Tooが手がけたエフ・ジェイホテルズ様のアプリ開発の案件ではエスパーが使われています。エフ・ジェイホテルズ様ではこれまで来客者向けのホテル案内やアンケート、予約などの各種アプリをネイティブアプリとして開発されていたのですが、新たにワードプレス(Wordpress)で作ったWEBアプリに変更されました。アプリ更新が必要最低限になっただけでなく、自社内でワードプレスを使ってコンテンツを手軽に更新ができます。そしてエスパーを使ってコンテンツを静的化させることで、ネイティブアプリ同等の軽快な動作を実現しています」

このようにアプリ開発の現場では、時代は再びWEBへと傾き、プログレッシブWEBアプリファーストの時代を迎えようとしているのかもしれない。

 

 

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2016年5月のGoogle I/Oで話題の中心となったPWA。PWA(Progressive Web Apps)は、モバイルデバイスでネイティブアプリのように動作させるための技術から成り立っている。レスポンスの向上、プッシュ通知が可能、アップルデート/リリース審査が不要、GPS補足が可能、オフラインコンテンツ利用が可能など従来WEBアプリが抱えていた弱点がなくなる。Googleの開発者向けサイト内の「はじめてのプログレッシブ ウェブアプリ」に詳しく解説されている。【URL】https://developers.google.com/web/fundamentals/codelabs/your-first-pwapp/

 

 

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福岡にあるエフ・ジェイホテルズ(https://www.fj-hotels.jp)の客室設置iPadアプリはWordPressで制作されている。esparで静的化を施しているので、ネイティブアプリ同等の軽快な動作スピードを実現。

 

 

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esparは、WordPressやDrupalなどのCMSと連携して悪意ある第三者攻撃を無効化する静的化ホスティングサービス。スマートフォン1台を社員に支給する程度の料金で、第三者攻撃の無効化、サイトの高速化、SSL対応、CMSメンテナンスの省力化など、昨今のCMSサイトが抱える多くの課題を一度に解決することができる。【URL】https://espar.biz/



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