隻腕の射手|MacFan

文●藤井太洋

第46回星雲賞日本長編部門を受賞したSF作家、藤井太洋氏のApple小説です。

イラスト/灯夢(デジタルノイズ)

 

 

曇り空が柔らかな陰影を落とすウランバートルの射場に、タンという音が響き、的(ターゲット)の中央に黒光りする矢が突き立った。

七〇メートル先では、車椅子に座った男が次の矢をつがえるところだった。おれは、その男─依頼人のボルジギン・バートルのところへ歩いていった。

徴兵されたバートルは南スーダンで右腕と両脚を失い、アーチェリーをはじめた。キャリアは二年だが二〇二〇年の東京パラリンピックに出るという。

口で矢をつがえたバートルはおれに目を留めて動きを止め、弓を掲げた。

「ジャンボさん、よく来てくれたね」

バートルの手はバンデージで弓に縛り付けられていた。爆弾の破片が脊髄を貫き、右腕の運動機能も損なっているため、弓と手の固定が認められているのだ。バンデージの代わりに使うグローブを、おれは持ってきていた。

「どうぞ。ルールに抵触しないように、手首はぶらぶらだ。Apple Watchは要望通り、薄い初代だ」

バートルは、差し出したグローブを親指で引っかけるようにして受け取り、ウォッチをペアリングはじめた。




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