レギュレーション|MacFan

アラカルト Tales of Bitten Apple

レギュレーション

文●藤井太洋

第46回星雲賞日本長編部門を受賞したSF作家、藤井太洋氏のApple小説です。

イラスト/灯夢(デジタルノイズ)

 

シンガポールのカペル埠頭(ピア)では白いコンテナが真上から日射しを浴びていた。扉のアップルロゴは、熱帯の日光でひび割れていた。

「中身は話したよね。あげるよ」

トビーが開いた扉を指の背で叩く。塗膜がぱらりと落ちてきた。カートンボックスをひとつ抜き出して変色した封シールをはがすとApple独特の香りが立ちのぼる。

「コンテナ一杯のUSBパワーアダプターか。ありがたい」

「G型のね」とトビーは顔をしかめる。

トビーが指摘したのはACプラグの形だ。G型、通称UK仕様の三つ叉プラグが使えるのはイギリス──いや、イングランドだけになった。好事家向けのレストアをしてるおれだからこそ金にできるが、ゴミ同然の代物だ。トビーはおれの肩越しにパッケージを一つ抜いた。

「見ろよハチヤ。ジョニーはこんなアダプターですら美しく作った──」

「それで仕事は?」おれは詩を読みかけたトビーを遮った。無償(タダ)なわけがない。

トビーは一瞬だけ不服そうな顔をしてみせてから、コンテナに顔を向けた。

「この中に、EU標準型のACプラグのアダプターが混ざってる」

「EU標準プラグ?」おれはコンテナのボルトシールを確かめた。「待てよ。このコンテナは二〇一六年に封印されてるぞ。EU標準プラグが始まったのは二〇二〇年、五年前だ」




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