アップルにも認められたAirレジ、日本の、そして世界のレジ環境を変える|MacFan

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アップルにも認められたAirレジ、日本の、そして世界のレジ環境を変える

文●牧野武文

日本企業として初めて、アップルのモビリティパートナーに選ばれたリクルートライフスタイル。その大きな要因は、同社が提供する無料POSレジアプリ「Airレジ」の存在だ。サービス開始以降着実にユーザを増やしてきたAirレジだが、国内でもグローバルでも、次なる展開を図ろうとしている。

量販店に法人向けのカウンター?

iPhone、iPadさえあれば本格的なPOSレジ機能を無料で利用できる「Airレジ」が、来たる消費税10%時の軽減税率導入に向けて、多方面での展開を始めている。

その中でも関係者を驚かせたのが、今年4月にビックカメラと提携し、東京の有楽町店をはじめとする複数の店舗にAirレジ サービスカウンターを設置したことだ。実際にiPadが設置され、Airレジとその関連サービスが体験できるほか、導入や活用に関する相談もできる。また、アプリを利用するためのiPhone、iPadのほか、レシートプリンタやキャッシュドロアなどの購入も可能だ。いわば「Airレジ版アップルストア」が誕生した。

Airレジは、分類上は業務支援アプリであり、その顧客は量販店の来店客層とは異なるクラスタに属するように見える。しかし、実のところ、Airレジユーザの中心である小規模店舗のオーナーといったSMB(Small and Medium Business)の人々は、ごく普通の消費者に混ざり、ビックカメラなどの量販店で業務用途の電化製品を購入している場合が多い。つまり、ビックカメラの来店客の一部は、ビジネス用途の買い物をしているという着眼点だ。量販店の客層=コンシューマーという固定概念を捨てたことに、今回の提携の意義がある。

Airレジは2013年11月にサービス提供開始をし、2年後の2015年11月に21万アカウントを突破した。「わずか2年で21万アカウントというスピードには満足をしています」と語るのは、Airレジを提供するリクルートライフスタイルの大宮英紀氏。しかし、筆者はこの数字は小さすぎるのではないかと思う。なぜなら、Airレジというサービスがとにかくすごいからだ。

小売店舗に必須の業務機器であるレジスタには、スタンドアロンの電子レジとネットワーク接続されたPOSレジの2種類がある。Airレジは、iPhoneまたはiPadとWi−Fi環境さえあれば、POSレジと同じ環境が無料で構築できる。つまり、数万円といわれる電子レジ程度のデバイス代で、高価なPOSレジと同じように売上分析、経営分析が可能になるのだ。しかも、クラウドを活用し、遠隔地からでも分析グラフをチェックできる。正直言って、日本国内すべての小規模店舗がAirレジを選ばない理由が見つからない。

 

 

Airレジは、iPhone、iPad用のレジアプリ。Wi-Fi環境があれば、高性能POSレジとほぼ同等の機能を無料で利用できることから、飲食店、小売店などでの導入が進んでいる。

 

 

東京・ビックカメラ有楽町店のAirレジ サービスカウンターの様子。ほぼ同時期に新宿東口店、赤坂見附駅店にも開設された。カウンターのディスプレイ方法には、アップルのアドバイスが活かされている。

 

 

「日本の店舗数は約540万店。そのうち、レジを使う可能性がある業種に絞ると約300万店。これがAirレジの潜在市場です」

そう考えると、100万アカウントというのが当面の目標になってくるだろう。それには、乗り越えなくてはならない壁が2つある。1つは交換タイミングの問題。レジは5年間のリース契約で導入されている場合が多く、その交換時期にしか見直しの機会がない。これがAirレジの導入を阻む要素になっている。この点で、消費税増税に伴う軽減税率の導入は、Airレジにとって大きなチャンスとなりうる。POSレジは多くの場合、ソフトウェアの更新によって軽減税率に対応できるが、電子レジでは場合によって買い直しとなる可能性もあるからだ。

もう1つの壁が、Airレジを試用できないという点だ。アプリもアカウント作成も無料なので、iPhoneかiPadがあればすぐに使い始めることができるが、それらがないと、どのような使い勝手になるかわからない。ビックカメラのAirレジ サービスカウンターは、このようなオーナーに、実際に試用してみる機会を与える場として設置された。

 

 

株式会社リクルートライフスタイル執行役員、大宮英紀氏。Airレジのサービス運営を担う。

 

 

アップルとの提携とグローバル展開

Airレジのもう1つの大きな展開が、今年2月に発表されたアップルとのモビリティパートナー契約だ。このモビリティパートナーには、ボックス(法人向けクラウドデータ保管サービス)、ドキュサイン(電子書類クラウド処理サービス)、マイクロストラテジー(法人向け経営分析サービス)など、法人向けサービスを提供する革新的な企業が名を連ねているが、日本では初めての契約となる。

会計機能の充実やiPhone版/iPad版の統合など、さまざまな改善を行っているAirレジだが、そこには米アップルのエンジニアたちによる全面的なバックアップがある。開発言語もスウィフト(Swift)に変更し、そのエンジニア育成においてもアップルの協力が得られている。また、前述のAirレジ サービスカウンターでもディスプレイ手法などについて、アップルからアドバイスを受けていたようだ。

「アップル本社のエンジニアと直接やりとりをして開発を進めています。アップルのレギュレーションはとても厳しい。でも、その裏にはきちんとした設計思想、デザイン言語があることに気づかされるのです。非常に勉強になっています」

現在提供しているアンドロイド版Airレジは、6月下旬でサービスをいったん終了。当面、開発にかけるリソースをiOSアプリに集中させる。

モビリティパートナー契約はグローバルなものなので、当然Airレジのグローバル展開ということも視野に入っている。英語版Airレジはすでに昨年リリース済みで、現在はテストマーケティングを行っている段階だという。「商習慣、文化の違いなどは意外に大きくないという印象を持っています。それよりも、税制に対する仕組みや考え方の違いのほうが大きいですね」。しかし、それは十分乗り越えられる壁であり、グローバル展開に向けて確かな手応えを感じている。

ただし、Airレジの本格進出にはそれなりの準備が必要だ。Airレジは単体で利益を出す事業ではなく、関連サービスの利用を促すことでマネタイズにつなげている。Airウェイト(受付管理)などの関連アプリの中には、一部機能が有料となるフリーミアム方式を採用しているものもある。また、Airペイメント(カード決済サービス)などでは手数料方式を採用している。そのほかにも、リクルートのホットペッパーなどへの広告出稿を促せることも大きい。つまり、単体で利益を上げようという考え方ではなく、グループの事業全体で利益を上げていくモデルを採用している。グローバル展開をするには、このようなビジネスモデルを現地で構築するか、あるいは日本とは異なるマネタイズ方式を構築する必要がある。

 

 

カウンターでは、Airレジ以外にも、関連アプリAirウェイト(受付管理)、Airペイメント(カード決済サービス)、モバイル決済 for Airレジ(携帯電話、スマホ決済)についてのデモ、試用ができ、サポートが受けられる。

 

 

Airレジ導入に必須のiPadをはじめ、卓上スタンドやレシートプリンタなど、周辺機器の購入も可能。

 

 

現場に接地したカジュアルなアプリ

Airレジには、クラウド会計や仕入れ、集客、従業員管理といった提携サービスも数多く用意され、単なる「レジアプリ」を超え、SMB向けの経営プラットフォームに近いものに成長してきている。当然、誰もが考えるのがフィンテック(FinTech=金融テクノロジー)業界のリードカンパニーを目指しているのではないかということだ。

「もちろん、フィンテック的な世界観をAirレジなりに作っていきたいと考えています。でも、その前にまだまだやれることはたくさんあるんです」

たとえば、レストランの場合、オーナーは一番の売れ筋メニューの売れ行きは注視するが、2番手、3番手メニューに関しては注意を払わない傾向があるという。多くのオーナーは、自店の強みである味に関心を向けるからだ。「でも、2番手、3番手メニューの売上が安定すると、食材の仕入が効率化されコストが下がります。その余力で新メニューを開発して、顧客に常に新鮮さを印象づけられるようになります」。Airレジの経営分析グラフはシンプルだが、手元のデバイスで簡単に見ることができる。頻繁にチェックすることで経営的な気づきが生まれ、それが成長のきっかけになることが多いのだという。

Airレジは、確かに分類上、法人向けサービスに分類されることになるが、その強みは、“現場に接地”したわかりやすさ、使いやすさにある。そのため、法人向けサービスというよりも、私たちが普段使っているカジュアルなビジネスアプリの感覚をふんだんに備えている。そういう特性をもったAirレジが、アップルと提携、さらにはビックカメラと提携してカウンターを設置するというのは、当然の流れでもあるのだ。軽減税率の導入がきっかけになって、店舗のレジ風景が様変わりするかもしれない。

 

 

Airレジユーザは、WEBサイト「Airマーケット」にて、さまざまな他社製のサービスを連係、利用することができる。仕入れ、従業員管理、会計などのクラウドサービスが用意されている。単なるレジアプリを超えた活用の幅広さと、直感的かつカジュアルに利用できる使い勝手の良さがAirレジの特性だ。

 

 

【展開】
ビックカメラ内のAirレジ サービスカウンターは、すでに開設された都内3店舗以外での展開は未定だが、大型店に順次拡大していくことを考えている。

 

【補助金】
Airレジは、中小企業庁の消費税軽減税率対策補助金の対象サービスになっている。これを利用すると、iPadの購入についても、半額が補助金で支給されるほか、プリンタやキャッシュドロアなども補助金対象となる。店舗オーナーにとっては、iPadを手に入れるチャンスだ。