教育・医療・Biz iOS導入事例

 

iPadが導く、スムースな健康診断

文●木村菱治

東京の日本橋ハートクリニックでは、iPadを使ったユニークな健康診断システムを採用している。このシステムは初代iPadの発売から間もない頃に開発され、すでに3年以上の稼働実績を持つ。同院にシステムの詳細や利用状況などを聞いた。

 

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日本橋ハートクリニックは、2006年東京・日本橋にて開院。診療内容は内科診療を基本に各種健診、健康相談、人間ドックを行っている。

 

健康診断はiPadとともに

東京・中央区にある日本橋ハートクリニックは、内科、循環器内科などの診療に加え、健康診断や人間ドックによる予防医療を行っている。多いときで1日約60人、年間では約1万人が健康診断のために同院を訪れる。受診者の中心は、周辺の企業の従業員だが、定年退職後も引き続き同院で健康診断を受け続ける人も少なくないという。

そんな同院で健康診断に用いられているのが、40台のiPadを使用した独自の受診システムだ。iPadが問診票のほか、診断情報の入力や確認、さらに受診者のナビゲーションなど、1台でさまざまな役割を担う。

 

 

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健康診断に訪れた人は、受付でiPadを手渡され、携帯しながら画面上に表示された指示に沿って検査を進めていく。

 

同院で健康診断を受ける際には、まず受付で着替えとともにiPadが手渡される。iPad上には専用の健診アプリが起動していて、院内の予約情報に基づいて個人情報や受診する健康診断のメニューなどのデータが表示されている。iPadを受け取った受診者は名前や年齢といった個人情報に間違いがないかを確認し、画面の確認ボタンをタップ。すると、次にどこに行って何をすればよいかを示す案内画面が表れる。

具体的には、まず「更衣室に行って着替えてください」というメッセージと一緒に、地図で行き先が表示される。着替えを終え、再度iPadのボタンを押すと、次に行う検査とその場所が示される。

 

 

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1つの検査が終了すると、次に行く場所をiPadが案内してくれる。

 

そして案内に従い検査室に入ると、持っていたiPadを看護師に渡すよう指示され、看護師は検査結果をそのiPadに入力していく。このとき、入力画面は受診するメニューに応じて自動的にカスタマイズされており、検査しない項目は入力できないようになっている。また、極端に高い身長などの異常値に対してはエラーが表示されるなど、入力ミスを未然に防ぐことができる。1つの検査が終わると画面には再び次の行き先が表示され、この流れを繰り返して健康診断が進められていく。ひととおり健診が済んだら、iPadを返却して終了だ。

 

 

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検査結果の入力画面。極端な異常値は、入力時のチェックで受け付けないようになっている。

 

一般的な健康診断では、受診者はあらかじめ送付された紙の問診票に最近の状態などを手で記入するが、ここでは待ち時間にiPadを使って入力する。また、受診者は昨年の健康診断データを参照することも可能なので、今年の結果と比較して健康状態の変化を自覚できるようになっている。

 

【健康診断】
毎年、多くの人が受ける健康診断は、病気が発症や深刻化する前に治療を開始する予防医療の重要な柱の1つだ。日本では、企業が1年以内ごとに1回、従業員の健康診断を実施することが労働安全衛生法で義務づけられているほか、四十歳以上の人に対しては各地の自治体が健康診断を提供している。

 

ペーパーレス化と省力化

同院は医療法人社団東京ハート会によって経営されている。同団体の狩野篤史事務局長は、iPad導入のメリットについてペーパーレス化を第一に挙げた。

「従来の健康診断では大量の紙を使用していました。かつては現場で紙に記録したデータを人の手でシステムに入力し、その後データに間違いがないかどうかを紙に仮出力して、元の紙と照らし合わせていました。最後に正式な報告書として出すときにも紙でチェックしなくてはなりません。1つのデータに対して何度も出力してチェックするのは紙を多く消費するだけでなく、人件費もかさみます。また、あとから問い合わせがあった場合に備えて紙の記録を保管しておくスペースも大きな問題になっていました。健診の段階からiPadでデータ入力することで、チェックにかかる手間とコストを大幅に抑えることができました」

また、このシステムでは受診者が今どの検査を受けているのかをデータベース上で把握できるため、スタッフによる誘導もスムースに行えるようになった。スタッフ用のiPadの画面には、待機中の受診者がリスト表示されるので、上から順番に呼んでいくだけでよい。従来は、院内のカメラ映像をモニタで見るなどの方法で受診者の待機列をチェックしていたというから、ここでも大きな省力化につながっていると考えられる。

受診者自身がiPadを操作する点については、利用者の多くが30~40代の現役世代であることから、むしろ歓迎する向きが多いとのこと。操作が難しい高齢者などは、スタッフがサポートしている。

 

 

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受診者はiPad上で問診票の入力を行う。紙よりも文字が大きいので、中高年にはありがたい。

 

 

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指でのタッチ操作が苦手な人向けに、受付でタッチペンを貸し出している。

 

iPad活用の草分け

システムは、ファイルメーカープロとファイルメーカーGOの組み合わせで実現している。iPad上のファイルメーカーGOで入力した情報は、ただちにサーバ上のファイルメーカープロのデータベースに記録されていく。このデータベースは、受診者管理や予約処理、診断結果の印刷などの機能を持つ既存の健康診断専用のシステムに接続されている。iPadで入力されたファイルメーカーのデータは、この健診システムに転送され、逆に昨年のデータや予約情報は、健診システムからファイルメーカーに転送される仕組みだ。

このシステムは、初代iPadが発売されて間もない頃に開発された。今でこそ、医療現場でのiPad活用は珍しくないが、当時はまだほとんど事例がなかったので驚きだ。もともと同院は、設立時から電子カルテシステムを採用し、PACS(医療用画像管理システム)もいち早く導入するなど、医療のデジタル化に積極的である。本システムも、発売されたばかりのiPadを見た同団体の松川星四郎理事長が、「これを使って新しい健診システムができないか」と考えたのが開発のきっかけになったという。

開発プロジェクトを主導した同団体の森本和洋事務長は、既存の健診システムとの連携に苦心したと話す。

「健診システムのメーカーから情報を提供してもらい、ファイルメーカーと連携できるようにしました。しかし、最初はデータがうまく転送されなかったり、上書きされてしまうなどのトラブルがあり、その解決には苦労した記憶があります」

すでに3年以上の稼働実績を持つ本システムは、医療現場におけるiPad活用の草分けといえる。

「将来的には、検査結果を紙で配るかわりにIDとパスワードを発行して、受診者がネットでいつでも確認できるようになればよいと思います」と森本氏。長期の健診データが自分で確認できるようになれば、受診者の健康管理や病気の治療にも役立つはずだ。

 

 

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医療法人社団東京ハート会事務局長・狩野篤史氏。

 

 

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医療法人社団東京ハート会事務長・森本和洋氏。

 

【人間ドック】
体の異常を早期に発見して病気の予防や早期治療につなげるという目的は同じだが、一般に企業や学校、自治体が行うものを健康診断と呼び、より精密な検査を任意で受診するものを人間ドックと呼ぶ。人間ドックの場合は、費用が自己負担となる代わりに検査項目の選択の幅が広くなる。

 

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