第23話 動画のレコメンド機能が作品の魅力を消していく|MacFan

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第23話 動画のレコメンド機能が作品の魅力を消していく

文●矢野裕彦(TEXTEDIT)

テクノロジーの普遍的ムダ話

ネット上には情報が多すぎて、もはや検索では必要な情報にたどり着けないという場面が多々ある。そんなときに便利なのが、レコメンド機能だ。タグなどが打たれていないユーチューブ(YouTube)の動画や、SEO対策に負けて検出されづらいアマゾン内の良い商品が見つかったりする。

レコメンド機能は、仕掛けるほうにしてみれば商品が売れたり視聴時間の延長につながったりするわけだから、当然ながらどんどん仕掛けてくる。一方のレコメンドを享受する側も、普通に便利なのでどんどん利用するようになる。この「あなたの好きな世界を創ってあげる」という仕組みが、徐々に生活を覆い始めているように思う。

レコメンドにゆだねると、たとえば視聴体験はとても気楽だ。ユーチューブでは放っておけば関連動画が次々と再生される。ネットフリックスなどの動画サービスでは数え切れないほど作品があるのだから、いくらでも提案が続く。両者にとって居心地が良い関係性だ。

しかし、ある日気がついたことがある。オススメコンテンツがこんなに並んでいるにもかかわらず、積極的に見たいと思う作品が見つからないのだ。いや、実際にはそんなことはないのだが、普段は見ないジャンルや知らないシリーズを見てみようというモチベーションがどうしても上がってこない。何か探そうとしても似たような作品が提示されるし、新作にあまり興味が持てるものもないし、同じ時間を割くなら無駄は避けたいという懸念から、作品を選べずに画面を閉じることがよくある。

挙げ句の果てに、何度か見たことがある作品をもう一度見るという行動に出たりすることもある。これは映画館で見た作品に感動したので、再び同じものを見たいという行動とは趣旨が異なるものだ。どちらかというと、作品を見たあとに自分が何を感じるのかわかっているので、その気持ちと時間を担保できるというのが理由だろう。信じられない消極性で我ながら驚くが、それも手軽さゆえで、おそらく同じ経験をしている人はそれなりにいるように思う。そんなわけで、映画「インターステラー」はおそらく20回以上見ている。

サブスクリプション契約をして、数千本の作品から選び放題。しかもオンデマンドで、好きな時間に見られるオススメの作品がズラリと並ぶ。音楽も同様だし、雑誌や書籍といったサービスもある。しかも作品数は、時間が経てば基本的に増えていく。おそらく我々は、これまでの人類が経験したことのない量の選択可能なデジタルコンテンツに囲まれている。これはコンテンツ産業にとっても、ユーザにとっても未体験ゾーンだ。こういう状態に置かれたとき、人はどうなっていくのかをリアルタイムで体験しているとも言える。ちなみに私にとっては、この「オススメ動画が常に並んでいる」という状況が、面白いものを探してみようというモチベーションの低下につながっているように感じるのだ。

昔は良かったという話をするつもりはまったくないのだが、テレビやラジオが映像コンテンツの中心だったときは、視聴に対するモチベーションがより高かったように思う。限られた楽しみだったというほどコンテンツの数が少なかったわけではないと思うが、集中力が違った。そして、それらは決してレコメンドされて集まってきたものではなかった。むしろ守備範囲を超えた予想外のものに出会う面白さと期待感が、気持ちを高めていたように思う。次世代のレコメンド機能にはこの部分に期待したい。ただ、最終的には限られた時間が増えない点に問題が帰着しそうで、レコメンド機能には五次元空間を実装してもらい、時空を超える必要がありそうだ。

 

 

写真と文:矢野裕彦(TEXTEDIT)

編集者。株式会社TEXTEDIT代表取締役。株式会社アスキー(当時)にて月刊誌『MACPOWER』の鬼デスクを務め、その後、ライフスタイル、ビジネス、ホビーなど、多様な雑誌の編集者を経て独立。書籍、雑誌、WEB、イベント、企業のプロジェクトなど、たいがい何でも編集する。