教育・医療・Biz iOS導入事例

生徒の探求を手助けする「ICT Diffuser」の挑戦

文●中務彩夏三原菜央

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

早くから「生徒1人1台端末」体制を整え、2016年度よりiPadを導入した上越教育大学附属中学校。2019年には日本の国立校としては初となる、「Apple Distinguished School」に認定された。ICT教育先進校として注目されている同校で、学習者主体の授業デザインを追求する大崎貢教諭に迫った。

 

 

国立校として初のADS

新潟県上越市の上越教育大学附属中学校は、国立大学法人上越教育大学の附属校だ。2012年より、生徒1人につき1台の学習者用端末の環境構築を進め、ウィンドウズPCによる4年間の取り組みを経て、2016年度から本格的にiPadによる1人1台を実施。現在は生徒用端末が323台稼働している。同校にて、学校全体のICTを推進する「Learner Success Manager」をまかされているのが大崎貢教諭(理科担当)だ。

「本校の生徒にとって、iPadは特別なものではなく筆記用具の一部。あって当たり前の存在であり、授業を構成するときには欠かせないものです」

2019年、先進的な教育活動が評価され、同校は日本の国立校としてはじめてADS(Apple Distinguished School)に認定された。他校との交流の中でADSの存在を知り、自校をADSにしたいという目標の延長線で、自身のADE(Apple Distinguished Educator)認定を果たした大崎教諭。ADEに認定されたことで起きた大きな変化は、人とのつながりが増えたことだった。

「本校にも、学校や授業を変えようとしている先生方はたくさんいますが、全国や世界には見たことのない取り組みをされている先生が大勢いて、正直驚きました。コロナ禍で直接はお会いできていませんが、そうした先生とオンラインで簡単に交流できるようになったことはありがたいですね」

子どもたちにiPadを当たり前の存在として定着させた大崎教諭は、自身のもうひとつの肩書きとして「ICTディフューザ(diffuser)」と名乗っている。

「ICTという言葉だけで、苦手意識を持っている方には拒絶されてしまうこともあります。自分がやっていることが『アロマディフューザ』のように広まって、誰かの助けになればいいなと思いながら活動しています」

 

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大崎 貢教諭

新潟県内の公立中学を経て、現在は上越市のApple Distinguished School(Apple認定校)である上越教育大学附属中学校・教諭。担当教科は理科。Learner Success Manager/ICT Diffuserを名乗り、学習者主体の授業デザインを追求している。Apple Distinguished Educator Class of 2019、GEG Joetsu Leader、ロイロ認定ティーチャー・シンキングツールアドバイザーなど、校内外の研修を担当して精力的に活動中。

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。 世界45カ国で2000人以上のADEが、Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。

 

 

iPadとSTEAM教育

iPad導入による最大の変化は、教員から生徒への一方通行だった授業が、いわゆる協働学習へと切り替わったことだった。授業で使用するiPadのアプリは特に指定しておらず、キーノート(Keynote)で絵を描いたりiMovieで動画編集をしたりと、子どもたちが必要に応じて自由に使えるようにしている。

「中学1年時には各アプリの使い方だけでなく、ホワイトボードを使ったミーティングの進め方やインタビュー時のメモの取り方など、学習活動における基本的なトレーニングもしっかりと行っています。本校では、文部科学省が考える『学習の基盤となる資質・能力』を踏まえつつ、自己調整、創造性、人間性といった要素も育み、ICTを活用しながら『AI(人工知能)時代を主体的・共創的に生き抜く生徒の育成』の具現化を目指しています。たとえば、写真の撮り方ひとつでも、どのように撮ったらあとで資料として使いやすいかを考えてもらうなど、学習の基盤となる資質や能力をいかに伸ばせるか、常に考え実践しています」

大崎教諭は現在、ICTを1つのツールとして活用しながら、学校全体の「総合的な学習の時間(以下、総合)」の改革を進めている。同校では総合を「T&Q(たんきゅう)」と呼び、ターゲット&クエスチョン、つまり目標設定と問い・疑問を大切にしているという。コロナ禍で学校行事の中止などさまざまな制約ができてしまったが、このような状況の中でも取り組めることは何か?という前向きな気持ちを大崎教諭は忘れない。

2020年度の中学3年生の個人探究活動では、STEAM教育の一環として1人1鉢のミニトマト栽培を行った。

「iPadを活用すれば写真がすぐに撮影できるので、ミニトマトの栽培記録を残すのに便利でした。ただの記録ではつまらないので、国語科と一緒にミニトマトを題材に俳句を作る授業も行いました。そのほかにはエブリワン・キャン・クリエイト(Everyone Can Create)の教材を利用してミニトマトの写真に絵を描いたり、ガレージバンド(GarageBand)を活用してミニトマトをイメージした歌を作ったり、本当に多彩な授業を取り組みました」

最終的には台湾のADE仲間の教員とと連係。お互いの学校の生徒同士でディスカッションを行った。台湾の高校生は自分たちが受けているSTEAM教育の話を、大崎教諭の生徒はミニトマト栽培の実践を一人ひとりが英語で発表したそうだ。コロナ禍だからこその実践で、両国の子どもたちにとって貴重な機会を作ることに成功した。

 

教員はコーディネーター

将来は映像や音楽制作などのクリエイティブな仕事に就きたいと考え、高校時代には友人と映画の制作に没頭していたという大崎教諭。しかし、高校3年生で進路を決める際、自身のクリエイティビティを活かして、子どもたちに物事を伝える教員になることを担任の先生から提案され、地元の教育大学に進学した。

「大学に進学したあとも映画を作ったりバンド活動に勤んでいました。しかし、教育実習で学校現場に直に触れたときに『教育って面白いな』と直感したんです」

大学の卒論は「力学」について執筆。さらにパソコン好きが高じて、国家資格である「基本情報技術者」の取得にも挑戦した。

「教員になってからは専門である理科はもちろん、基本情報技術者として学んできたテクノロジーの知識と、子どもの頃から好きでやってきたクリエイティビティを活かしながら、子どもたちに自分自身の価値観や学んだことを表現することの大切さを伝えています」

授業は子どもたちが主役であり、教員は知識を伝えるだけでなく、子どもたちが自身の夢を見つけるきっかけを作るコーディネーターとしての役目があると語る大崎教諭。今後の目標は、評価システムの構築だそうだ。

「多くの先生方が新学習指導要領で示された『学びに向かう力』や『人間性』の評価に悩んでいると思います。子どもたちが粘り強く学習に取り組むことに対しては、教員だけでなく、子どもたち自身が自己評価することも大切だと思います。教員がそれを支援していくことで、子どもたちはよりよい学びを育めるのではないでしょうか」

子どもたちが主役となる学びの場づくりの支援ツールとして、1人1台端末の活用にさらなる熱い想いを寄せる大崎教諭の姿は非常に頼もしい。今後も自身のクリエイティビティを大いに発揮しながら、多くの革新を起こしていくだろう。

 

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2016年度より、BYOD(Bring Your Own Device)でiPadの1人1台環境を実現。同校は「iPadは保護者の持ちもの。生徒はそれを借りて使う」という方針を示している。

 

 

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同校の生徒にとってiPadは特別なものではなく、すでに筆記用具の一部。「あって当たり前の存在であり、授業を構成するときに欠かせない」と大崎教諭は語る。

 

 

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同校では授業で使用するiPadアプリは特に指定しておらず、Keynoteで絵を描いたりiMovieで動画編集をしたりと、子どもたちが必要に応じて自由に使えるようにしている。

 

 

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STEAM教育の一環として、1人1鉢のミニトマト栽培を実施。iPadを活用すれば写真がすぐに撮れるため、栽培記録を残せるのも便利だ。

 

 

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ADEになって、人とのつながりが増えたという大崎教諭。授業でもその縁を活かし、台湾のADE仲間の教員と連係し、それぞれの生徒同士でのディスカッションが実現した。

 

大崎貢教諭のココがすごい!

□ 学習の基盤となる資質・能力の育成とICT活用を両立し、国立校として初のADS認定に導いた
□ iPadを自由に活用し、子どもたちの創造性を引き出す探究活動を推進している
□ コロナ禍だからこそできる実践に着目し、他国のADEとオンラインで連係している



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