教育・医療・Biz iOS導入事例

「算数と日常をリンクさせる」iPadを使ったクリエイティブな授業

文●中務彩夏三原菜央

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

進学塾や専門学校での講師経験を経て、現在は近畿大学附属小学校で算数科の担当として活躍している外山宏行教諭。2019年にADEに認定されたが、もともとはICTに対して苦手意識があり、算数も専門教科ではなかった。そんな外山教諭がADE認定を通じて視野を広げ、ICTの能動的活用を広める立場になるまでの軌跡に迫った。

 

 

算数×iPadの活用

奈良県にある近畿大学附属小学校で算数を担当する外山宏行教諭は、進学塾や専門学校での講師経験を経て、現在に至る。小学校への転職の決め手は、挨拶ができない専門学校の学生たちに対する課題意識だった。

「専門学校時代、職員で相談して挨拶運動なども実施してみたのですが、そもそも挨拶は自分からするもので、促されて挨拶するのでは意味がないですよね。挨拶の習慣がないまま育ってきた子が、大人になってから習慣化するのは難しいと感じ、そのような根っこの部分を育てるのは小学校ではないかと考え、小学校教諭になることを決めました」

近畿大学附属小学校では高学年で教科担任制を導入している。外山教諭の専門は社会科だったが、当時校内に担当が少なかった事情から、算数科を受け持つことになった。

近畿大学附属小学校の高学年は、学校で選定したiPadを個人で購入しており、1人1台環境だ。4年生以下は、120台の共用iPadを活用している。今でこそADE(Apple Distinguished Educator)として同校のICT教育を牽引する外山教諭だが、2015年に教員へ1人1台のiPadミニが配られた当時は、機器に対する苦手意識から、1年ほどカメラ機能しか使っていなかったという。しかし、入試広報担当として学校の説明に飛び回る中で、端末1台あればほかの道具を持って行かずに済むことに気づき、積極的にiPadを使い始めた。

「最初は独学で活用していましたが、それで何とかなるのがiPadのすごいところだと思います。特にキーノート(Keynote)に関しては、プレゼンだけではなく、さまざまな使い方ができるなと、活用の可能性を感じました。画面や操作がとてもシンプルで、子どもたちでも直感的に使いこなせると確信し、まずは子どもたちの身の回りの算数的な事象を動画で撮影することから始め、少しずつ授業に取り入れていきました」

 

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外山 宏行教諭

近畿大学附属小学校教諭。進学塾や専門学校での講師経験を経て、2006年より近畿大学附属小学校に勤務。ICT教育推進委員として高学年の1人1台iPad導入を実現し、現在では学校外の先生向けにもiPadの活用方法やアイデアを提案。2019年、Apple Distinguished Educator認定。

 

 

コンフォートゾーンを抜け出そう

外山教諭がADEに応募したきっかけは、すでにADEだった校長からの「こういう取り組みがあるから、動画を作って送ってごらん」の一言だったという。言われるがまま、これまでのiPadを活用した事例を動画にまとめて応募し、見事2019年に認定された。オーストラリアで開催されたADEインスティテュート(研修・研究会)では、世界から集ったADEの前で英語のみでプレゼンテーションを行った。

「もともと自分は積極的に外へ出るタイプでもなく、英語でプレゼンするなんてとんでもない!と思っていました。しかし、インスティテュートに参加した際、“コンフォートゾーン(居心地のいい場所)を抜け出そう”という言葉に出会い、自分の得意分野を守るのではなく、飛び出していくという姿勢が得られたことは、大きな収穫でした」

ADEを通じ、もっとも広がったのは“自身の視野”であったと語る外山教諭だが、他国の教員の発表に「こんなことをしてもいいのか!」と驚き、日本との違いに衝撃を受けたという。

「海外の実践事例などを聞くと、もっと学びは自由でいいものだと感じました。インスティテュートで関わった先生方とは今でも仲良く、さまざまなところでコラボさせてもらっています。新しい刺激をたくさんもらえるようになったことは、とても大きな変化ですね」

現在は6年生の算数を担当。iPadのキーノートを活用して、点対称をテーマに作品を作ったり、「敷き詰め模様」を考え、表現するといった、多彩な授業を展開している。子どもたちのクリエイティブな発想を簡単に形にできるのは、iPadならではだ。このような活動は一見算数とは関係ないようにも見えるが、授業後にアンケートを取ると、多くの児童が算数の理屈をよく理解していることや、身の回りのものに対する見方に変化が起きていることがわかるそうだ。

「算数という教科は計算などが重視されがちですが、社会に出るとそのスキルはもうテクノロジーに代替されているケースが多く、今後もその流れは加速します。大切なのは、算数で導き出される結果が、なぜそうなるのかという理由や見方・考え方を身につけることなので、授業のアプローチとしても、そこを意識して設計しています」

 

交流・創造・表現に焦点

校内外問わず、教員向け研修にも力を入れている外山教諭。教員のICTスキルの格差に危機感を持ち、ADEに認定される前から有志の先生方と研修を実施していたが、認定後はより活発に授業におけるICT活用を広めている。活用頻度でクラス差がでないように「何のために活用するのか」の答えを「Communication&Creation(交流・創造・表現)」として、下位の目標も設定した。研修は堅苦しいものではなく、まずは教員が楽しめることを第一に意識しているという。

「どんな先生でも、どんな子どもたちでもできることを前提に、もともとiPadに入っているアプリを上手に活用していくことが大切だと思っています。動画教材作成、交流体験、学び合い体験など、教員スキルに合わせた個別最適化研修にこだわってきました。その結果、板書の量が圧倒的に減り、協働学習が活発になり、ペーパレスが実現するなど、さまざまな変化が起こりました」

校内研修では全教員一律に時間を取ることが難しく、教員個々のスキルも異なるため、アプリの使い方などを説明した動画を配信し、それを使いたいタイミングで見てもらう工夫もしているそうだ。今後の目標は、ICTが苦手な教員に対して、授業を通じてそのイメージをひっくり返していくことだそうだ。

「ICTは、調べる・見る・問題を解くといった受け身の使い方ばかりでなく、自分を表現する手段を増やす道具であり、能動的に活用するものであるということを、子どもたちはもちろん、教員や保護者たちにも広めていきたいです。子どもたちがテクノロジーに頼り過ぎると実体験が乏しくなるという偏見を持つ方も少なからずいらっしゃいますが、テクノロジーを介すことで社会の見方はより広がるということを示していきたいです」

ADE認定をきっかけに、自身の視野を広げながらICT教育の実践を重ね続ける外山教諭の姿は、周囲の教員の背中を力強く押している。自身の強い好奇心から生まれる魅力的な授業は、これからも多くの子どもたちの心を惹きつけ、世界への見方を広げていくだろう。

 

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児童がKeynoteを使って制作した創造力あふれる「敷き詰め模様」。算数と日常をリンクし、学ぶ意欲につなげた実践だ。

 

 

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学習支援アプリを通して全員の考えやノートをシェアできるようになったことで、自分から挙手しない児童の考えを皆に知ってもらえるようになったという。

 

 

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子どもたちは写真を使って問題を作ったり、作図の方法や計測の様子をビデオで記録したりと、紙と鉛筆ではできないような表現のためにiPadを使いこなしている。

 

 

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外山教諭は、動画教材作成、交流体験、学び合い体験など、教員スキルに合わせた個別最適化研修を実施する教員研修にも力を入れている。

 

 

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校内外問わず、教員向け研修に力を入れている外山教諭。ADEの仲間とともに、イベントを企画・開催することもあるそうだ。

 

外山宏行教諭のココがすごい!

□ 独学で算数×iPadの取り組みを広げ、ADEに認定された
□ 算数と日常をリンクさせ、子どもたちの算数の世界を広げている
□ 校内外問わず教員向け研修に力を入れ、ICTの能動的活用を広めている



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