教育・医療・Biz iOS導入事例

子どもの自由な発想をiPadで形にする「映像制作」

文●中務彩夏三原菜央

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

偶然まかされた学校行事の動画編集をきっかけに、2010年から授業実践として「映像制作」を取り入れてきた榎本昇教諭。多彩な実践を重ねてきた結果、世界規模の映像コンテストで、サポートした児童の作品が3年連続最優秀作品賞を受賞した。ICTを活用した表現活動に尽力し、児童の可能性を拓く榎本教諭の歩みに迫る。

 

 

1人1台の環境を整備

神奈川県横浜市緑区にある創立100年以上の歴史を持つ森村学園初等部に、iPadがやってきたのは2017年のこと。このiPad導入に尽力したのが同校のICT担当である榎本昇教諭だ。

導入以前の同校のICT環境は、公立学校とほとんど変わらず、各教室に電子黒板とウィンドウズPCが40台設置されたパソコンルームがあるのみだった。そのような状況から榎本教諭はiPadの導入に向けた計画を始動。きっかけはすでにiPadを導入し、活用を進めていた先進校を視察したことだった。

「視察先の学校の先生と話しているうちに、直感的にこれだ!と思いました」と榎本教諭。

そこから導入に向けた書類作成からプレゼンまでを1人で行い、理事長を説得した結果、2017年に教員分含め80台のiPadを共有用として導入するに至った。その翌年にはさらに80台を追加し、少しずつ数を増やしながら、2020年度の途中からは3年生以上で1人1台の環境が整った。

「当初は同僚の教員から、iPad導入に対する反対の声も多くありました。そこで、まずは最初に導入した80台のうちの40台を先生たちに渡して使ってもらいながら、自ら研修などを開催し、先生方の利用を促していきました」

校舎内にはWi-Fi環境も整備されているが、野外での活用も視野に入れ、Wi-Fiモデルではなくセルラーモデルを選択したという。

「Wi-Fiでもモバイルデータ通信でも両方で利用できる、いわばハイブリッドな環境を整備しました」

iPad導入初期は、授業支援ツールの「ロイロノート」を活用した発表やプレゼンでの利用が主だったという。

「ロイロノートは意見の集約、共有ができて非常に便利です。クラス全員が積極的に自分の意見を出せたら良いのですが、どうしても上手く表現できない子もいますよね。そんな中、誰がどんなことを考えているかをすぐに共有できるツールの役割は大きいです」

さらに、1人1台の端末所有へと移行する過程で、動画編集やアニメーション制作といったよりクリエイティブな活動も盛んになっていった。

「思っていたより早くこのような活動にシフトすることができました。子どもたちは『クリップス(Clips)』や『iMovie』、『スパークビデオ(Adobe Spark Video)』を使って動画を制作しています。iMovieはクロマキー合成も使えて自由度が高く、子どもの個性を引き出すことができます」

 

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榎本 昇教諭

森村学園初等部ICT担当。160台のiPadを導入後、学校内でより活用が進むよう日々奔走中。2010年からパナソニック主催の「キッド・ウィットネス・ニュース(KWN)」映像コンテストに参加し、2018年度にサポートしたクラスの作品が最優秀作品賞を受賞。2019年度グローバルコンテストの日本代表校の指導者となる。Apple Distinguished Educator 2019。

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。 世界45カ国で2000人以上のADEが、Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。

 

 

2度の挑戦で掴んだADE認定

素晴らしい先生との出会いや、学校や子どもが好きで教員を目指す人が多い一方、榎本教諭は小学生のとき学校になじめない経験をし、もともと教員の道は志していなかった。しかし、高校卒業後に、毎日決まった時間に決まった仕事をするのではなく、新しいものを取り入れたり作ったりする変化のある仕事をしていきたいと思い、教員になることを決意。縁あって森村学園初等部に就職し、今年で勤続23年を迎えた。

「もともとICTに関する知識はさほどなかったのですが、20年前の宿泊行事が転機になりました。行事後に児童の様子をまとめる動画編集をまかせていただいたのですが、それが面白くて。そこから映像制作を子どもの学習活動にも活かしたいと思うようになり、授業実践として、映像制作を2010年頃から取り入れました」

その映像制作の実践で2017年にADEに応募したという榎本教諭だが、結果は落選。しかし、諦めずに再度挑戦し、2019年にADEに認定された。

「ADEを志した頃は、さまざまな有益な情報や話を聞けるのではないかという受け身の姿勢でした。しかし、実際にADEになってほかの先生方の話を聞いて、自分で発信する中で、今勤めている学校を超え、日本の教育全体を変えていけるのではないかと感じ始めました」

現在榎本教諭は、他校の教員とコラボレーションした授業を実践したり、勉強会を開催したりするなど、越境した交流も積極的に進めている。

「ADEの先生方は自分にも惜しげなくいろいろなデータやアドバイスをくださります。私もお返しすることで、互いを高めあう環境が自然とできているように思えます。もっと『子どもの学び』を良くしていこうという気持ちは自分自身のモチベーションにもつながりますし、教育全体に尽力していく姿勢も身につけられました」

 

映像制作で育まれる力

授業実践として映像制作を取り入れる後押しとなったのが、パナソニックが主催している「キッド・ウィットネス・ニュース(KWN)」という、映像のグローバルコンテストの存在だった。そしてここ数年は、森村学園の子どもたちが制作した作品がKWNで3年連続最優秀作品賞を受賞している。

「コンテストは子どもたちが主体となって作品の脚本を書き、ビデオカメラを使って、テーマに沿った5分間のショートムービーを制作するというものです。この実践をとおして、子どもたちの主体性が発揮されることはもちろんのこと、何よりコミュニケーション能力が培われていると感じます」

子どもの動画編集スキルの習得は早く、教員だと1日がかりの研修になる内容も、子どもたちは1~2時間で理解してしまうそうだ。

「テレビでこういうシーンがあったから私たちも真似して作りたい!と子どもたちが相談にくることがあるのですが、僕もわからないので、一緒に本で調べてみたり、アプリを触ってみたりします(笑)。子どもが与えてくれる自由な発想を一緒に楽しみながら作り上げています」

このコロナ禍で、森村学園初等部には大きな変化もあったそうだ。放課後に開催していた教員向けのICT研修の参加率が向上し、ICTが苦手だった教員も積極的にiPadを活用するようになってきたという。以前のような学習活動が難しくなり、ユーチューブ(YouTube)で動画を上げることになった実技系の教員から映像制作のアドバイスを求められるなど、少しずつ教員の意識にも変化を感じているそうだ。

今後は映像制作の活動を広げつつ、もっとICT活用の敷居を低くすることが目標と話す榎本教諭。これからも子どもたちと楽しみながら、ICT活用を推進するリーダーとして、日本の教育現場を盛り上げてくれるだろう。

 

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森村学園初等部では、屋内・屋外の両方で使えるセルラーモデルのiPadを当初より導入。映像制作においては、屋外での撮影も欠かせない。

 

 

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パナソニックが主催する映像コンテスト「キッド・ウィットネス・ニュース」にて、森村学園初等部の子どもたちが制作した映像作品が、コンテストで3年連続最優秀作品賞を獲得している。下の写真は2020年度、小学生部門で最優秀作品賞、プロフェッショナル賞を受賞した「桜隠し」。URL: https://youtu.be/ZJYkeNF_UQw

 

 

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動画編集やアニメーション制作にはClipsやiMovie、Adobe Spark Videoを使っているという。iMovieはグリーンバックによるクロマキー合成も使えるため自由度が高く、子どもの個性を引き出すことにつながっていると榎本教諭。

 

 

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映像制作はチームで行うため、作業をとおして、子どもたちのコミュニケーション力が育まれ、失敗を許容する雰囲気が醸成されていると榎本教諭。

 

 

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放課後などに定期的に開催している教員向けICT研修。コロナをきっかけに参加率が向上し、ICTが苦手だった教員も積極的にiPadを活用するようになってきたという。

 

榎本昇教諭のココがすごい!

□ 世界規模の映像コンテストで、サポートした児童の作品が3年連続最優秀作品賞を受賞した
□ iPadを160台導入後、学校内でより活用が進むよう教員研修を定期開催している
□ ICT担当として校舎内でも屋外でもiPadが使えるハイブリッド環境を整備している



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