Mac導入の投資効果は「255%」|MacFan

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Mac導入の投資効果は「255%」

文●牧野武文

Apple的目線で読み解く。ビジネスの現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

Appleが外部の調査会社に委託して行ったMacの企業導入に関する調査レポートが日本語化された。Macを導入した企業の利益がまとめられているほか、モデル企業を想定した利益やコストが数値で表されている。これからMac導入を検討している企業にとって大変参考になるリソースだ。

 

 

Macを推す根拠

個人ユーザがMacを選ぶ理由は、ユーザ体験の価値やセキュリティ、ブランドイメージなどさまざまだと思うが、企業では近年「トータルコストが抑えられる」という理由でMacを選択するところが増え始めている。

Macの価格は、ハードウェアだけ見れば、ウィンドウズPCと比べて高めだ。一方で、ウィンドウズPCのように環境設定、メンテナンス、サポートなどにかかる手間が圧倒的に少ない。しかし、本当にトータルコストが安く済むのかどうかは、導入規模や使い方によっても異なるため、今ままで断言することが難しかった。

しかし、この問題の論拠となるレポートの日本語版がついに公開された。「企業におけるMacのTEI(Total Economic Impact)」だ。このレポートは、アップルがフォレスターコンサルティング(Forrester Consulting)に調査を依頼したもの。ただし、アップルは調査対象の企業を紹介するなどのサポートのみを行い、調査、分析、結果はフォレスターコンサルティングが主体的に行っている。

調査対象となったのは、テクノロジー、金融、製造、小売、ヘルスケアなどの北米またはグローバル企業7社。従業員数は500人から2万人以上までさまざまだ。さらに、この匿名7社の調査結果から、モデル企業を想定し、そのモデル企業で投資効果がどの程度あるのかも数値で示されている。モデル企業の想定は、従業員数10万人、80%がiOSデバイスを採用、年間1万台のMacを導入というものだ。

 

サポートコストが低いMac

まず、左ページで図示した結果を見ていただきたい。3年間のハードウェア、ソフトウェア、サポート費用を1台あたりのウィンドウズPCとMacとで比較をしたものだ。Macは初期導入費用が500ドルも高いにもかかわらず、ハードウェア、ソフトウェアコストは50ドル25セント安くなっている。さらに、サポート費用と運用コストは628ドル31セント安い。合計すると、Macの導入は同等性能のウィンドウズPCに比べて、678ドル56セントも安くなる。

また、グラフを見ていただくとわかるように、Macのほうがデバイス価格が高いにもかかわらず、追加ソフトウェア、ITサポートのコストが大きく減少していることがわかる。

このレポートでは、モデル企業の場合、3年間の運用で、具体的にどのくらいの金銭的利益が生まれるのかを算出している。Mac導入で得られる利益は4つある。

①サポート費用、運用コストの削減=1160万ドル
②ハードウェア、ソフトウェアコストの削減=3650万ドル
③データ侵害リスクの軽減=150万ドル
④従業員のパフォーマンス、エンゲージメントの向上=6700万ドル

このような利益により、モデル企業は3年間で合計1・166億ドル(約123億円)もの価値をもたらしてくれる。コスト削減だけでなく、従業員のパフォーマンス向上により売上も増加をする。その合計が1・166億ドルになる。

 

ABMを使ったゼロタッチ導入

パソコンなどのIT機器を企業導入する場合、「キッティング」や「デバイス管理」、「サポート&修理対応」は情報部門のIT担当者の大きな作業負担となる。いずれも、人手が必要なものばかりで、販売会社や外部に委託することもできるが、当然コストがかかる。しかも、人件費コストが多くを占めるため、割引などはあまり期待できない。

しかし、その点、アップルは無償で「Apple Business Manager(ABM)」を提供していて、これを利用すると、ほとんどの作業が自動化できるようになる。キッティング作業とは、納品されたデバイスに対して企業ポリシーに照らし合わせた基本設定や業務に必要なソフトウェア等をインストールし、従業員がすぐに使える状態にすることだ。ABMを使えば、アップルが同じく提供する「自動デバイス登録(デバイスエンロールメント)」という仕組みや、MDM(モバイルデバイス管理)ソリューションと組み合わせることで、このキッティング作業が自動化できる。各従業員が開封をして電源を入れ、ネットワークに接続した時点で、基本設定やデバイス管理、アップルIDアカウントの登録、業務ソフトウェアのインストールなどが自動で行われる「ゼロタッチ導入」が可能なのだ。つまり、IT担当者の手を大きく煩わせない、各従業員のセルフサービスでの導入が可能になる。また、業務に必要な追加ソフトウェアを、ABMから一括購入して、対象デバイスに配付することも可能だ。

場合によっては中堅規模の企業であれば、IT担当者1人でも導入・管理が可能となるなど人件費を大幅削減でき、より高機能な管理ソリューションを導入したり、管理以外の業務に人やお金、時間を費やしたりすることが可能となる。レポートでは、IT担当者がプロビジョニング(導入時の設定作業)に費やす時間は、Macの場合は1台あたり5分だが、ウィンドウズPCでは60分かかるとしている。

 

アップルケアのメリット

IT担当者のもう1つの大きな負担となる社内ヘルプデスク(従業員から日々伝えられる「使い方がわからない」「どうしたらいい」という問い合わせへの対応や、デバイスの不具合&故障等への対応)に関しては、アップルは有償のアップルケア(AppleCare for Enterprise)を提供している。これには週7日、24時間の電話サポート、出張修理サービスがついており、価格は台数規模に応じて要見積もりだが、社内の情報部門スタッフが対応をするのに比べ、迅速で的確なサポートが期待できる。

レポートではさらにMacの特徴として、「Macはパフォーマンスに関する問題が少ないため、ヘルプサービスの件数が減少する」「Macユーザはプラットフォームに精通しているため、サポートデスクに電話する回数が少ない傾向がある」が挙げられている。macOSはそもそもがシンプルな構造になっており、多くの作業が自動化されているため、設定エラーの起きる確率がウィンドウズPCに比べて少なく、サポートの手間は大きく減少をする。

レポートでは、年間でウィンドウズPCユーザに対しては平均で6枚のチケットが発行され、その解決に30ドルのコストがかかっているが、Macユーザに対しては3枚であり、解決のための費用は25%抑制できるとしている。また、1人の担当者が管理できるウィンドウズPCは200台程度であるのに対し、Macの場合は500台を管理できるともしている。

また、データ侵害リスクもMacであれば低下する。調査ではデータ侵害の可能性がウィンドウズPCに比べて50%に低下し、中にはセキュリティインシデントが90%減少したという企業もあった。

さらに、従業員のパフォーマンスも向上するという。起動/再起動に必要な待ち時間は、ウィンドウズPCが1日平均5分であるのに対し、Macは1分。従業員あたり、3年間で48時間分の生産性が向上し、そのうちの20%の時間を生産性の高い業務に振り向けることができるそうだ。

そのほか、Macを選択した従業員の30%は営業職だったが、営業成績が5%向上した。Macを選択した従業員の定着率も以前より20%向上した。離職をした従業員を補充するには、募集・採用・研修などのコストが必要で、これには従業員の年間人件費の50%程度が必要になる、などが示されている。

 

導入立案に参考になる数値

レポートに掲載されているモデル企業は、1年目にMac導入割合が10%、2年目に20%、3年目に30%と増えていく設定になっている。そのため、年々利益も増えるが、コストも増えていくことになる。そこで、(利益−コスト)のグラフをレポートの数値から作ってみた。これは、企業が「得をできる分」のグラフになる。Mac導入率が10%、20%、30%と上がっていくたびに、収支が尻上がりに増えていくことがわかる。この増加分はコスト削減だけでなく、従業員のパフォーマンスが上がり収入に結びつく分と、離職率が下がり、新規従業員の募集コスト、研修コストが削減できることによる。

レポートには、このような利益、コストについて、詳細な数字が掲載されている。モデル企業が従業員数10万人と大規模であるため、多くの企業にとっては直接参考にはならないものの、導入計画を立案するときの参考値、基準値として使うのには十分に詳細でオーソライズされたものになっている。また、各利益、コストはそれぞれ詳細な数値が掲載されているため、Macの導入計画を立案する際には、ぜひとも活用いただきたい。

 

 

●企業におけるMacのTotal Economic Impact
[URL] https://tools.totaleconomicimpact.com/go/Apple/TEI/?lang=ja-jp#benefitAnalysis

 

 

 

Windows PCとMacのハード、ソフト、サポート、運用コストの比較。Macはデバイス価格が高くなるが、サポートコストが圧倒的に小さくなる。3年間のトータルコストではMacが圧倒的に小さい。

 

 

レポートには4つの利益、2つのコストそれぞれについて、このような詳細な計算表が掲載されている。モデル企業での試算を参考値として使うこともできるし、この計算表を自社向けのものに修正をして、より正確な試算をすることもできる。

 

 

削減できる/増加する利益からコストを差し引いた最終的な収支をグラフ化した。モデル企業では3年目に約4900万ドルもの利益をもたらしてくれる。