教育・医療・Biz iOS導入事例

声と映像で"現場"のコミュニケーションを変える「Buddycom」

文●牧野武文

Apple的目線で読み解く。ビジネスの現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

iPhoneをトランシーバのように使うことができるIP無線アプリ「Buddycom」が、Appleのモビリティパートナープログラムに認定され、さまざまな現場の業務を変えようとしている。音声を軸に、テキストや映像、翻訳などを加えた新たなチームコミュニケーションの形に迫る。

 

 

「1対N」のコミュニケーション

株式会社サイエンスアーツが開発したIP無線アプリ「バディコム(Buddy com)」は、iPhone/iPadなどのスマートフォンやタブレットをトランシーバ(または無線機やインカム)として利用可能にするものだ。空港や鉄道駅、バスターミナル、物流基地、プラントなど、さまざまな現場に導入されている。iPhoneやiPadは、電話やフェイスタイム(FaceTime)、テキストなどでコミュニケーションを行えるが、こうした現場ではトランシーバ的なものをなぜ必要とするのだろうか。

たとえば、プラント内で異常を発見した場合、それを瞬時に関係者全体に伝える必要がある。大事故につながりかねない異常であった場合、秒単位の遅延も許されない。このときに使われるのが「同時発報」だ。発見者が関係者全員に向けて音声で異常を伝え、「全員が確実に情報を共有する」ことが重要となる。原則1対1の電話や、相手に即座に伝わったかの確認が難しいテキストではなく、トランシーバによる音声を使った1対Nの情報伝達が欠かせないのだ。

「バディコムは同時発報の人数制限がなく、たとえ数千人でも遅延なく音声情報を伝えることができます。JR東海様では東海道新幹線車内で乗務員、パーサー、指令員が同時に情報の共有をし、コミュニケーションの迅速性、確実性向上を図るために活用いただいています」(営業本部 加納佐有子氏)

多くの現場では、iPhoheなどを腰などにつけたホルスターに納め、インカムを使って音声をやりとりする。この方法であれば、歩きながらでも、作業をしながらでも情報交換ができる。通信はSSL/TLSで暗号化されており、セキュリティも安心だ。また、ネット回線を利用しているので、災害時に電話回線が輻輳してつながりにくくなる状態であっても回線を確保しやすい。このような理由から、災害時の復旧活動、事業継続のための通信経路の二重化といった視点で導入をする企業も増えているという。

 

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(左から)株式会社サイエンスアーツ 代表取締役 平岡秀一氏。CTO 横道克己氏。営業本部 加納佐有子氏。Art Director / 広報 伊藤恵氏。ITリテラシーの高い低いや、年齢に関係なく、誰でも使いこなせるコミュニケーションツールを作りたいというところからBuddycomの開発は始まった。「誰でも使いこなせるIT、それこそがITが目指すべき到達点である」という。A https://www.buddycom.net/ja/index.html

 

 

押して、話すだけ

バディコムが注目されている理由は、それが単なるトランシーバの置き換えにとどまらない点にもある。

「お客様が理解しやすいように『IP無線アプリ』と呼び、『トランシーバやインカムのスマホ版です』とご紹介していますが、バディコムの本質は『未来型チームコミュニケーションツール』だと考えています」(代表取締役 平岡秀一氏)

なぜなら、バディコムで行った会話はクラウドサーバに保存され、聞きたいときにいつでも再生できるだけでなく、自動でテキスト化される。そのため、音声を再生しなくても内容を確認することができ、聞き逃しなどのミスが生じにくい。

また、通話音声をリアルタイムに翻訳することができたり(14カ国語に対応し、グループ内で複数の言語に翻訳可能)、ライブキャスト機能を使ってLIVE動画を配信することで声+映像で意思疎通を図ることもできる。そのほか、スラック(Slack)のチャンネルにリアルタイムに文字化して共有したり、特定のLIVE映像をクラウドストレージ(Boxなど)に保存したり(今後リリース予定)など外部サービス連携も可能となっており、音声を軸とした新しいチームコラボレーション/ビジネスコラボレーションを実現する。

それでいてバディコムは、使い方が極めてシンプルであるのが素晴らしい。基本的には、アプリを起動して画面中央に大きく表示されているボタンをタップして話すだけ。これで事前に設定しておいたグループへ情報共有が可能となる。

「私の父はパソコンを使いこなしていて、年齢にしてはITリテラシーが高いほうだと思いますが、それでもスマートフォンの入力には苦労をしている。それを見ていて、ボタンを押してしゃべるだけで伝わるコミュニケーションツールが必要だと感じたのです」(平岡氏)

このシンプルさが、200社以上を超える人に使われるという成果に結びついている。働き方改革や業務効率の改善などを行うため、さまざまな「現場」にIT化の波が押し寄せているが、たとえ新しいITツールを導入しても現場の人々が使いこなせず利活用が進まないというケースも散見される。その点、バディコムはトランシーバよりも簡単な操作で扱うことができ、同時にITツールの多機能さを現場に提供することに成功したのだ。

 

 

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使い方はこれ以上ないほど簡単。グループを選んでおけば、あとはボタンをタップして話すだけ。これでグループ全員に音声が伝わる。

 

 

真似できない高い技術力

バディコムのもう1つの優れた点は、通信の遅延が起こらないことだ。もちろん厳密には光の速度を超えることはできず、ミリ秒単位での到達時間を必要とするが、人間の体感レベルでは遅れがなく、話している声と同時に聞こえる。

「私たちは、iPhoneアプリをスウィフト(Swift)、アンドロイドとサーバをJavaで開発しています。さらに、Nettyというオープンソースの音声ライブラリを使っています。Nettyは非常に優秀なのですが、資料がまったく存在しない。自分たちでソースコードを読み解いて使いこなしていくしかありません」(CTO 横道克己氏)

通常、たとえば機械学習などで使われる「テンソルフロー(TensorFlow)」などのライブラリは、開発元であるグーグルが膨大な資料を提供しているし、多くの人が使用レポートや事例をネットで公開している。こうした資料を読み込んで開発に活かしていくのが常套手段だ。しかし、Nettyの場合は特殊なライブラリであるため、このような情報がほとんど存在しない。ソースコードを読み込んで、理解していくには、エンジニアに高い能力が要求される。

また、バディコムの場合、プログラムの排他制御を非常に高いレベルで実現しているという。今では、iPhoneの性能も上がり、同時に複数のプロセスを走らせるというのは難しいことではない。しかし、高速に並列処理を行うにはボトルネックになる部分がある。たとえば、新幹線の座席予約を行うとき、複数の予約プロセスを走らせることは可能だ。しかし、座席表の台帳は1つであり、そこに複数のプロセスが同時に書き込みを行うと台帳が混乱をきたしてしまう。そのため、書き込みを行うプロセス以外はブロックをするという排他制御を行う必要がある。この排他制御のやり方がまずいと、レジが1つかしかないスーパーのように大渋滞を起こしてしまうことになる。バディコムはこの排他制御のやり方が優れ、大きな技術的優位性になっている。

一般的に、ITエンジニアには明快なアルゴリズムをイメージでき、それをコードで表現するスキルが求められる。しかし、バディコムの開発には、それよりもさらに一段階深い能力が必要になるという。

「プロセッサがどのような命令を実行しているか、どのメモリに何を書き込みに行っているか、そういうプロセッサレベルの動き全体をイメージしながら、コーディングをしています」(横道氏)

たとえば、メモリ上でデータをコピーするというは、バディコムの時間軸ではものすごく時間のかかる動作なのだという。そのため、バディコムの開発チームは「ゼロコピー化」を目指している。この努力こそが、バディコムの応答性のよさを生んでいる。

2020年1月、アプリの先進性や使いやすさ、そして技術力の高さなどが評価され、バディコムはアップルのモビリティパートナープログラムに認定され、サイエンスアーツとアップルは協働してバディコムの展開活動を行っている。アップルがパートナーに選んだのは、バディコムが社会的意義の高いサービスであり、今までITが入りづらかった「現場」をITの力で変えていくポテンシャルを持っているからだろう。その実、サイエンスアーツの公式WEBサイトには、さまざまな企業における画期的な導入事例が多数掲載されている。バディコムの力で「現場」がどのように変革されているか、ぜひ確かめてみていただきたい。

 

 

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話した音声は自動的にテキスト化される。そのままテキストを入力してテキストチャットをすることも可能。音声・テキストは自動的に変換され、混在させたコミュニケーションをとることもできる。また、テキストは14カ国語に訳され、翻訳されたテキストはその言語の音声も再生される。

 

 

 

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音声、テキストだけでなく、ライブ動画も1対Nで流すことができる。iPhoneで撮影している映像をライブ配信できる。音声だけでは伝えづらい状況を伝えることができる。

 

 

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グループはあらかじめ設定しておくが、グループ数は無制限に設定できる。また、マップ上から一定範囲にいるユーザをグループ化することも可能。

 

 

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Buddycomは、iPhone/iPad、Androidに対応。iPadの場合は、音声画面とテキスト画面が並列表示される。

 

 

Buddycomのココがすごい!

□ 単なるIP無線アプリとしてだけでなく、新たなチームコミュニケーションを生み出す
□ Appleのモビリティーパートナーとして、iPhone/iPadの現場を変える
□ 使い方は「ボタンを押すだけ」とシンプル、人に寄り添ったITを提供する



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