教育・医療・Biz iOS導入事例

“アトピーの悩み”でつながる異例のSNSが患者を救う

文●朽木誠一郎

Apple的目線で読み解く。医療の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

SNS全盛の時代に生まれた、ある異例のアプリ。それがiOS唯一のアトピー患者専用アプリ「アトピヨ」だ。アトピー患者が写真で病状を投稿。患者同士は匿名で症状ごとにつながり、交流することができる。なぜ、このアプリが必要なのか。元アトピー患者で、今もアレルギーの症状を持つ開発者に話を聞いた。

 

 

旅行中に救急車で搬送

「写真を撮影してアプリで共有する」という行動は、SNSの普及によってすっかり一般的になった。インスタグラム(Instagram)やツイッター(Twitter)には、たとえば「美容垢」「ダイエット垢」として、コスメ情報の共有や肥満解消など、特定の志向や目的を持つ人同士のゆるやかなつながりがある。

Ako氏が開発するアプリ「アトピヨ」も、広義ではその1つであるといえる。しかし、このアプリがほかのつながりと大きく異なるのは、そもそもアプリを使えるユーザが「アトピー性皮膚炎の患者」に限定されているところだ。

アトピヨは、アトピー特有の皮膚の状態を画像で共有するiOSアプリ。匿名で投稿された写真は自動的に部位ごとに時系列表示され、長期に渡り見える化することが可能になる。写真はクラウドに保存され、iPhoneには残らない。

実はAko氏も元アトピー患者。アトピーは幼少期に完治したが、今も喘息・鼻炎のアレルギー疾患がある。このような背景から、アトピーの患者会でボランティア活動に従事し、後に「SNS時代の患者会」の1つの形とも呼ぶべきこのアプリを開発した。

本業は公認会計士だというAko氏。アプリのプログラミングの勉強を始めたのは、ここ数年のこと。それでも、iOSでは唯一となるアトピー専用のアプリを実際にリリースするまでになった。その熱意の源泉はどこにあるのか、本人に話を聞いた。

アトピヨ開発の契機になったのは3年前。Ako氏の家族旅行中の、あるアクシデントだった。熱海旅行で宿泊した旅館の設備は少し古く、子どもたちが遊び回るとホコリが舞うような状態だった。「イヤな予感がした」というAko氏だが、それは的中。夜にかけて顔から手まで上半身がパンパンに腫れ、呼吸が苦しいなど危険な症状もあったため、救急車で搬送された。ステロイド注射により症状は落ち着いたが、旅行は途中で中止。妻の運転で帰宅し、アレルギーが生活に及ぼす影響を改めて痛感した。

「厚生労働省などの発表によれば、日本人の2人に1人が、私のように何かしらのアレルギーを持っているとされます。そして近年、さまざまなアレルギー疾患が乳幼児の頃のアトピーの発症や肌荒れから続発するという説が有力になっていることを知りました」

「自分のような経験をする人を減らしたい」と考えたAko氏は、自身も過去に経験したアトピーに注目し、情報を集めることにした。そして、アトピーの患者会に関わるようになったことで、大人のアトピー患者の深い悩みにも触れた。

「日本アトピー協会によれば、日本には600万人のアトピーの方がいます。皮膚の状態が人目につくことでメンタル面に与える影響も大きく、また寝ている間もかゆみが続くことで、眠りが浅くなるなど、当事者にしかわからない悩みが多いことに気がつきました」

実際にアトピヨの投稿の中には、1000件につき2~3件「死にたい」というコメントがつくそうだ。「九州大学の調査では、アトピーの方の約13%が“死にたい”と思ったことがあると回答しています」(Ako氏)。そしてここに、同アプリの意義があると強調する。

「このようなコメントに対して、似た症状を持つ患者さんが、“私もそうだった”と書き込んでくれるんです。患者さん同士の情報交換が行なわれると、ほとんどの方が、最後には非常に前向きになってくれます」

 

 

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「アトピヨ」のロゴTシャツ姿で取材場所に現れたRyotaro Ako氏。このロゴは、アトピーの肌の画像を投稿しづらい女性にも興味を持ってもらえるように、意識してデザインされた。

 

 

1人で悩まず、皆で治す

Ako氏がアトピーとの新しい付き合い方|“1人で悩む時代から皆で治す時代へ”|を提唱するのは、そのためだ。アトピヨでは、画像の部位や症状ごとに患者が「つながる」ことが可能になっている。

画像だけでなく、食事や薬、「どんな石けんを使ったのか」なども記録に残せる。これらの情報を元に、アトピー患者同士が相談し、悩みの解消を図るというのは、まさに患者会などで行われていること。iPhone上でそれができることで、よりアクセスしやすくなる。

また、安心して画像や心情を投稿できるように、プライバシーに配慮し、ハンドルネームを使用することも特徴だ。画像には位置情報は記録されない。「女性が肌の状態を人に見せる以上、最大限の配慮が必要」(Ako氏)。

投稿した写真がiPhoneに残らないのも、症状の写真をアルバムに保存しておきたくないという、患者の気持ちに配慮してのこと。元患者としての、そして患者会活動で当事者の声を聞き続けたがゆえの、細やかな配慮によりアトピヨは運営されている。

蓄積された情報により、病院での診察の精度も向上すると見られる。定期的に皮膚科に通う患者は、症状の変化を口頭で説明する代わりに、アトピヨのデータを医師に見せれば、より適切な治療を受けられる可能性がある。

2018年7月25日にiOSアプリとしてリリースされ、12月現在までのダウンロード数は2000を超える。アクティブユーザは約700人で、ユーザのロイヤリティが高いアプリであることが窺える。しかし、Ako氏はこの現状に満足はしていない。

「アトピーの患者が国内に600万人いることを考えると、2000というのは決して、多いとは言えない数字です。とはいえ、大々的に広告を打ってしまうと、かえって使いにくくなってしまう難しさもある。今は口コミで徐々に、広がっている状態です」

 

 

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同じ症状の患者を見つけ、互いに相談することで、アトピーの状態をコントロールすることを目的としたアプリ。現在、投稿されているアトピーの関連画像は1600枚超。2018年12月現在、無料・広告なしで運営されている。【URL】https://www.atopiyo.com/

 

 

「患者会」の課題

現在はAko氏1人が、完全にボランティアで開発・運営をしている本サービス。そもそも無料アプリであり、開発費やサーバ代なども現状はすべて持ち出しだという。誠実なサービスだからこそ、ユーザ数が増えれば、持続性が大きな課題になる。

ユーザ課金は、現時点では予定していないという。行けるところまで無料のまま走り、これ以上は無理となったタイミングでのアプリの規模感で判断するそうだ。

また、アプリ内の広告は「しない」と明言。アトピーはコンプレックスにつながることから、俗に“アトピービジネス”と呼ばれる「〇〇をすればアトピーが治る」といった広告が多く蔓延している。

このため、アプリ内広告や企業アカウントの設定はなく、ユーザが投稿したURLも直接はリンク先にアクセスできないような仕様になっている。

しかし、これだけでは「善意による誤情報の流通」を防ぐことができないのは事実だ。自分に効いた治療やケアが、ほかの人に効くとは限らない。もし、それが科学的根拠のないものや、かえって状態を悪化させるものだったらどうか。

もちろん、これはネット上に限らず、リアルの場のさまざまな病気の患者会で等しく起きている問題でもある。一方で、患者同士が支え合う場が有効であり、不可欠であることは言うまでもない。これは患者会という仕組み自体が抱えるジレンマだ。

アトピヨはその社会的意義を買われ、2018年12月の慶應義塾大学医学部主催・健康医療ベンチャー大賞で応募総数104チーム中、社会人部門の3位に入賞。協賛企業賞を獲得するなど、現在、注目度も急速に高まっている。

今後は、対面診療やオンライン診療のサポートアプリ・治験サポートアプリとして、医療や製薬会社との具体的連係も期待されている。

アトピーだけでなく、「SNS時代の患者会」として、さまざまな病気に悩む人を救うポテンシャルのあるアトピヨ。Ako氏という1人の人間の熱意から生まれたアプリを、どう守り、育てるのか。その役割は今、この社会にも引き継がれようとしている。

 

 

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アトピヨ

【開発】Ryotaro Ako
【価格】無料
【場所】App Store>メディカル

手や顔、食事、薬を撮影するだけで、自動で画像が整理され、記録できる。写真はクラウド上に保存され、アプリ内でのみ閲覧可能。部位・症状で検索でき、患者同士が交流できる。

 

 

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慶應義塾大学による日本初の医学部主催ビジネスコンテスト・健康医療ベンチャー大賞で3位に入賞するなど、注目度が高まっている。医師向け会員サイトを運営するPLAMED社の協賛企業賞も受賞し、今後は同社とも協同していくそうだ。

 

アトピヨのココがすごい!

□アトピーの状況を記録し、時系列で振り返ることができる
□同じような症状のアトピー患者を見つけて、相談できる
□開発者は元アトピー患者で、当事者の深い悩みもわかる



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