“1500台を超えるiPadを運用するための裏舞台|MacFan

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“1500台を超えるiPadを運用するための裏舞台

文●神谷加代

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

昨今、iPadを導入する学校が増えている。直感的な操作性、充実した教育アプリなどが選ばれている理由だが、一方で教育現場ならではのトラブルや課題もある。iPadの教育活用を支える裏舞台には、どのような苦労があるのだろうか。1500台のiPadが稼働する立命館守山中学校・高等学校と、同校のiPad運用を支える教育産業株式会社に話を聞いた。

 

iPadに多いトラブルは…

—iPadを導入する学校が増えていますが、そもそも現場ではどのようにiPadを管理・運用されているのでしょうか。また、どんなトラブルが発生しているのでしょうか。

山口(教育産業)●立命館守山中学校・高等学校(以下、立命館守山)は、伊藤先生を中心に情報準備室を設置され、助手の方3名が端末管理を、SEの方1名がサーバネットワーク管理をされています。ICT運用の体制としては、かなり充実した環境ですよね。

伊藤(立命館守山)●そうだと思います。現在、本校では生徒と教員用のiPad合わせて1500台が稼働しているのですが、はっきり言って、この台数を1人の教員で管理するのは無理です。日常的に行うのはiPadの紛失や破損対応、アプリ配信やパスワードの管理、アップデートの対応などですが、年間を通して見ると、卒業時の年度末処理、次年度の端末選定、それに伴うアプリ選定、予算確保、入学者向けガイダンスなどやることはとても多く、サポートしてくれる助手さんがいてくれて助かっています。

山口●特に、3月から4月にかけての作業が多いですよね。新入生の端末キッティング、新クラス編成に伴う授業支援アプリの変更といった年度更新手続き、iPad配付後はアップルIDの設定や情報モラル教育など、授業で使うためには短期間でこれらの作業を済まさなければなりません。もちろん、我々もキッティングなどでお手伝いさせてもらいますが、そもそもこの時期は先生方も新学期の準備でお忙しいですし。

伊藤●そうです。新学期でいうと、IDとパスワードに関するトラブルが多いですね。特に中学生はパスワードを忘れる生徒が多く、情報準備室の前に行列ができます。助手さんの話では、中学生は複数のパスワード管理ができなかったり、キーボード操作が不慣れなのでアルファベットの大文字、小文字をタイプミスしてパスコードがロックされてしまうトラブルが多いです。

山口●パスコードロックは、どこの学校でも起きるトラブルですね。アップルIDの取得に関してはどうですか?

伊藤●本校は中学生の場合、アップルのアプリを一括購入できるVPP(Volume Purchase Program)を利用し、アップルIDなしでアプリを配信しているのですが、高校1年生は春にアップルIDを取得します。当然、そうした操作に慣れている生徒ばかりではないので、登録のために1時間を設けています。一番多いトラブルは「アップルIDが取得できた」と思って、実は手続き最後のところで登録手続きを自己判断で終わらせてしまっていること。毎年、アップルIDが未取得状態の生徒が出ますね。

山口●でも、当初よく起きていたiPadの画面割れトラブルは、ずいぶん減ったのではないですか?

伊藤●そうですね。iPadを購入してもらうときに画面割れを防ぐカバーを買ってもらうようにしたので、そのトラブルは減りました。バッグの中で水筒にぶつけて割ってしまったり、教科書の下敷きになって曲がってしまったりといったトラブルが当初はありましたね。これも高校生よりも中学生のほうが多かったです。

山口●アプリの選定はどうされていますか? 生徒からも「このアプリを使いたい」といった要望があるかと思います。

伊藤●全体で必要なアプリは、教員会議にかけて承認が取れたら導入、という流れになります。有料アプリも保護者の方に負担していただいていますが、使っているサービスに対して費用対効果のチェックはきっちり行います。また、教科で使用するために学校予算で購入したアプリがあるのですが、1つの学年でしか使わないので、進級するときに一旦削除して次の学年にインストールするという使い方もしています。生徒からのアプリ要望は紙に書いて提出してもらい、審査したうえでインストール可能アプリとして公開します。基本的に即日審査で行っていますね。

 

 

伊藤久泰教諭

立命館守山中学校・高等学校 情報科教諭。2014年度に初めてiPadを導入して以来、学内のiPad管理運用の担当教員として携わる。現在では約1500台のiPadの管理を、所属する情報準備室全体で対応している。

 

山口宗芳氏

教育産業株式会社 ICT推進室チーフアドバイザー。教育機関がiPadを導入する際のアドバイザーとして活動。これまで導入に携わったiPadは1万台を超える。Apple School ManagerなどApple社教育向けエコシステムの知識を有し、運用に課題を抱えている教育機関へ最適なソリューションを提供中。

 

 

立命館守山中学校・高等学校(滋賀県守山市)は「個」に応じた学びや未来型の学校を目指し、2014年度から段階的にiPad一人1台を実施している。現在は中高合わせて1500台もの端末が稼働。全端末の管理や校内のICT環境整備は情報準備室が担っている。

 

 

教員を助ける存在が重要

—学校でiPadを管理するときは、MDM(Mobile Device Management)を使うのが一般的です。しかし、昨今はMDMを導入せず教員が手動でiPadの管理を行うなど、「MDMはいらない」といった意見も出てきました。これについてどのようにお考えでしょうか。

山口●数百台の導入レベルではMDMがないと厳しいですよね。iOSデバイスの集中管理ツール「アップル・コンフィギュレータ2(Apple Configurator 2)」で管理できるという意見もあるかもしれませんが、これくらいの台数ともなると、効率化という点で端末を集めて管理するアップル・コンフィギュレータでは教育現場においては厳しいと思います。教員の方の仕事はiPadの管理がメインではないので、この作業にいくらでも時間を費やすことができるわけではないですよね。

伊藤●私もMDMは必要だと思います。たとえば教育現場でよくあるのは、「明日の授業でこのアプリを使いたい」や、「今日の6時間目にこのアプリを使いたい」といった要望です。教員は直前まで授業準備をしており、こうした要望にはMDMがないと対応できません。また、授業支援アプリなども頻繁にアップデートがあり、ほかの教員や生徒から「いつアップデートできるの?」と聞かれます。MDMがあれば、端末を回収する手間なく、リモートでアップデートやアプリのインストールができるので、それだけでもかなりの負担が減らせると思います。

山口●MDMの導入については、コストの話もあるので各学校の事情によって判断が分かれるところだと思います。しかし、普段から仕事が多い先生方には、できるだけ授業に専念できる環境を優先していただきたいと思いますね。

伊藤●そういう話でいうと、学内に管理運用をサポートできる助手さんを配置しないで教員だけで端末管理を行うという話もよく聞きますが、これは本当に大変だろうなと思います。私もiPad導入1~2年目のときは、あまりに作業量が多くて1人ではできないと思いました。何よりも、それが全体のiPad運用に影響するのがよくないのです。最悪なパターンは、教員がiPadのトラブル対応を溜め込んでしまうケースです。何か生徒のiPadにトラブルがあっても、教員だけの対応では早く生徒にiPadを戻すことができず、その生徒は授業でiPadが使えません。そうなると、iPadを使えない生徒がいるからと授業で使うのをためらってしまう教員が出てきます。これが学校内でICTを広げていくときにネックになるなと1年目で気づきました。ですので、本校では、サポートしてくれる人や山口さんのように専門知識を持つ人とのつながりを大切にしています。

山口●たしかに、お忙しい先生方がiPad管理に関する情報を収集して、現場に反映していくのは難しいですよね。

伊藤●ICTに関する取り組みは、教員にとっても新しいことの連続で、誰もやったことがないことに挑戦していかなければなりません。そのときに一緒に考えてもらったり、相談できる人がいるのといないのとでは全然違うと思うのです。幸い、私の場合は、豊富な専門知識を持つ山口さんがメンター的な存在でいてくれて、本当に助かりました。わからないことも自分で調べたりしますが、業者さんが持っている情報と教員が調べた情報ではまったく違いますからね。一緒に相談に乗ってくれる人がいる安心感。これはICTに取り組むうえで大きいと思います。

山口●私たちは教育現場ファーストなので、管理運用される立場で一緒に考えて、iPadの円滑な管理運用についてサポートできればと常日頃から考えています。

 

 

立命館守山では、iPadを"文房具"として日常的に活用している。授業中はもちろん、個別学習や共同学習、学校行事、家庭学習、教員と生徒の連絡など用途は幅広い。最近は「Apple Pencilを使いたい」という教員が増え、導入を検討中だという。

 

 

立命館守山のiPad運用を支える情報準備室のメンバー。前列は教育産業・山口氏(左)と立命館守山・伊藤教諭(右)。後列は左から助手の大坪氏、山口氏、SEの中村氏、助手の川那辺氏。