【ミステリーは新書の中に2】旅の始まりは羽田か、成田か(前半)


★★★前回までのあらすじ★★★

出版社に勤める編集3号は、かわいい?後輩の中山誠一から、福岡県在住の謎の人物と会うよう懇願された。断ればいいものを、なぜか頼まれたらすべて受けてしまう3号は、福岡へ移動するべく、羽田を訪れる。

★★★★★★★★★★★★★★

編集3号が勤める会社から羽田空港に行くには、東西線で大手町に行き、そこから東京駅まで歩いて山手線を使い、浜松町からモノレールで空港に向かう方法が一番早い。

しかし、3号は乗換の多いこのルートを嫌い、東西線の日本橋で羽田空港行き直通の都営浅草線に乗り換える道を選択した。多少遠回りになるが、ゆっくりと座席に腰をおろして空港に向かう道を選んだのだ。

電車に揺られながら、3号がお気に入りの新書「中国人観光客が飛んでくる!」を読んでいると、急に視界が明るくなった。品川に到着したのだ。都営浅草線は京急線に連絡した品川駅で地上に出る。

ドアが開くと、一斉に乗客がなだれ込んできた。キャスター付きキャリーバックを持った女性、着替え類を詰め込んでいることが容易に判別できる、ちょっと太ったビジネスバックを持った40代のビジネスマン、背中にリュックサックを背負い、iPodのイヤホンから耳障りな音漏れを響かせている20代前半の男子学生、みんなこれから羽田空港に向かうことが一目でわかる旅じたくだ。

東京の西側から羽田空港に向かう場合、品川乗換が便利だ。品川区はもちろん、新宿区、世田谷区、調布市など、東京の西側に位置する地域の住人は、品川乗換を利用することが多い。そのため、羽田空港行きの電車は品川駅からどっと混む確率が高いのだ。

編集3号は列車の一番端の座席に座っていたのだが、空席だった隣の席に、品川駅から乗客が座った。しかもその乗客、3号のことを気に掛ける様子もなく、勢いよく腰をおろしたので、3号はちょっと眉間にしわをよせた。

最近、まわりのことを気にしない人間が増えたなぁと、しみじみ実感する。が、そんな実感は老けた証拠にも思えてしまう。

(ふう、年をとるのはいいけど、元気だけは失いたくないなぁ……)

ふと、そんな思いがこみあげてきて、3号は思わず微笑した。

「……気持ちワルぅ」

隣から聞こえてきたつぶやきに、3号の思考は一瞬停止した。

(き、気持ち悪いって、お、俺?)

「はぁ、やだやだ、最近のおっさんたちって、オタク化してんだよねぇ。まじめそうな顔して、頭ン中は何考えてんだか、おぉ、想像もしたくないわ。鳥肌たってきちゃった」

頭の中が真っ白になりながらも、3号は横目でちらりと隣の乗客を見た。

黒のモノトーンで固めたパンツとジャケットに、白いシャツがアクセントでついている、比較的シンプルな服装をしている。

3号の目線の高さに頭のてっぺんが見える。身長は低いようだ。

黒髪のロングヘアーで特にゴムなどで束ねていない。

「あら、聞こえちゃいました? でも、事実は事実ですよ」

どこかで聞いたセリフに「カチン」ときた3号は、その乗客を睨みつけてやろうと、さらに眉間のしわを深くして、体ごと女性の方を振り向いた。

「あのなぁ……」

バシッと「ほっとけ!」と言おうとして、口を開きかけた3号だったが、その女性をはっきりと視界にとらえたとき、思わず言葉につまってしまった。

「お久しぶりです。3号さん、中山詩織です。覚えてますか?」

★★★

つづく

★★★

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