なまこサバイバル(12)


 

(病院は出口だ)

 

病院は出口だ

欲望の流れに沿って

さざ波

鈍色のさざ波のように

老人たちが出てくるわ出てくるわ

ひとりは胆石破砕室を抜け

青汁スタンドを抜け

自身もきらきらしい抜け殻となって

歓楽街の入口で

幟のようにはためく

ひとりは息子からパソコンを奪い取るや

市中の煉獄

みたいなカフェにこもり

猛烈なブラインドタッチで

七色の自伝を書く

するとその自伝から

さらにひとりの老人が出て

欲望の流れを池に導き

水の女を得るのだ

おやこんなところにいたのか

中国で愛を注いだときは

白蛇に姿を変え逃れていったものだが

いまは兎だな

と老人はつぶやき

彼女を抱く

抱きながら

うつらうつらの世界に入ると

さながらぼろぼろの

種字曼荼羅一枚

そのなかにまた兎がいて

兎を抱く老人がいて

抱きながら

またうつらうつらの世界に入る

と思いきや

世界は出口だ

欲望の流れに沿って

なおもさざ波

鈍色のさざ波のように

老人たちが出てくるわ出てくるわ出てくるわ

空では雲がもふもふ笑って

少年よ少女よ

六十年後の春のようではないか

 

 

2014.4.4

 

カテゴリ: シーズン1, 野村喜和夫
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