なまこサバイバル(9)


 

(こねこねぱにっく)

 

こねこね、こねこね、

こねこねこねっぱ、

 

人の一生は粉で決まる、とよく言われますけど、

ほぼその通りだろうと思います、

ぼくは埼玉県西部の農家の生まれで、

ぼくという生のベースには、土の記憶が、

土の匂いが、詰め込まれています、

 

こねこね、こねこね、

こねこねぱねっこ!

 

かつて、武蔵野の畑作地帯の農家には、

なにかハレの日があると、嫁がうどんを作って

客人をもてなすという習慣がありました、

地粉で作るので、泥のような色合いになるのですが、

まだ母が元気だった頃のある日、

久しぶりに姿を見せた風来坊のぼくに、

母はうれしくなったのか、そのいわゆる武蔵野うどんを

ふるまってくれたことがありました、

塩水をまぜた地粉を捏ねて玉にしてゆくのですが、

母の額にもうっすらと玉の汗が滲み、

その汗が粉に落ちて、

 

こねこね、こねこね、

こねこねにくっぱ、

 

東京のマンションに戻ったぼくは、

ひそかにそば打ち道具一式を買い込んで、

母を真似して、しかしうどんではなく、

よりむずかしそうなそばに挑戦してみることにしました、

しかし、粉を捏ねることに変わりはありません、

それはどこか子供の泥遊び、粘土遊びに似ています、

そういえば、フランスの哲学者ガストン・バシュラールの著作に

『大地と意志の夢想』というのがあり、その第一章が、

まさしく「捏粉」というタイトルなんですね、

粉を捏ねるということが、いかにわれわれという存在の

大地的根源に結びついているかを、それは物語っています、

アダムも捏ねられました、ちなみにバシュラールにも

農民の血が流れていました、うどんに戻って、

愛の行為も、すくなくとも男性の

側からすれば、相手のからだをこねる

ようなところがありますね、

 

こねこね、こねこね、

こねこねぱにっく!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(寄る辺)

 

──寄る辺ないねえ

──うん、寄る辺ないねえ

──どこへ行こうか、夕暮れな俺たち

──夕暮れなまこだもの、どこにも行けないさ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なまこ宇宙)

 

なまこ脳梁に星きらめかせて

なまこ脳梁に星うねらせて

なまこ脳梁に星うるませて

なまこ脳梁に星きしませて

 

 

2014.3.14

 

 

カテゴリ: シーズン1, 野村喜和夫
タグ: , , ,