その街の本屋という本屋
書架という書架におさまった
本は、ページがなくて背表紙しかない。
箔押しのタイトルがしめすのは
ある一筋の忘却のかたち。
ここにいるのはみんな幽霊
春雷や野芹とおなじ存在、
「言葉、言葉、言葉」という呪詛も
この街ではむしろ好ましく響く。
『アーサー王伝説』、『言葉のない世界』
『ツバメ号とアマゾン号』
すべて架空で、
白鳥のように裂けた意味が
祈りを捧げる街。
世界にはほんのいくつか
その地下鉄駅の階段をかけあがるだけで、
幸福になれる街がある。
コンバースのスニーカーが
靴底ですり減った月の頭韻を踏んで、
2014年2月3日節分祭。本の街・神田神保町で、W・ブレイクのひそみに倣い、書いた十九行詩。
管啓次郎さんへ送信。