砂洲、旅の瞳(石田瑞穂)


言葉のロードムーヴィーを

撮りたくて、

 

影のタールを塗りこんだ

冬のウッドデッキをのぼると

 

下からの舐めるようなアングルを迎えたのは

女の体から浮揚するドレス

 

いや清掃中の窓から飛びおりかけた

白いレースのカーテンで、

 

ローファーやヒールの靴跡たちはそこから

たちまち、ばらばらの方角へと飛び去り

 

海をファックしつづける光とガラスと

鉄の洲の舳先で風のようにぶつかり恋に落ちた。

 

そんな一瞬に 自分が空っぽになるのを

感じたなら、ぼくの旅はまちがっていない。

 

消失点ちかく 極小のハレーションに

潮風と羽音の画像を記録しようとしたり

 

聖家族を思わせる 対岸のスカイラインが

とにかくきれいだったり

 

沈黙として生まれた人工芝とジョガーが

ガガをデュエットしたり

 

スタバのパーカーを着たラブラドールが毎朝

にっこり いい思い出を提供したり

 

瞬という字にも目が要る 時間には

瞳が必要なのだ。いかなる生、土地の瞬間も傷みやすい。

 

にぎやかな無人の朝。通勤者の途絶えた

人造島のボードウォークで、

 

不労で不良でflowな詩人は ベルギービールを

ラッパ飲み。酔いのさざ波をただよいながら

 

撮影したすべてのメモリを

デジカメから 消去する。

 

たぶんいま 読書に疲れ、地球の裏側の

ベッドで目をつむった あなたのことを想って。

 

2014/1/7 東京・天王洲アイルより、管啓次郎さんへ送信

 

カテゴリ: シーズン1, 遠いアトラス/石田瑞穂+管啓次郎+暁方ミセイ
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