緑の海のへりで


港で始まり、港で終わる。

北半球の港で終わり、南半球の港で始まる。

 

燃える虎のような不思議な眩しさの中で、

かもめが金星の目を光らせた。

 

彼女が見ているのは対岸の木のない山。

そこでは過去百年がゆっくりと再演されている。

 

くすんだ緑色の大きな石が撲殺を成就する。

尾が巻いた二頭の大きな犬が笑うように口を開ける。

 

ここでは知識はすべて棕櫚か羊歯の紋様をもつ。

小舟のあざやかな黄色が海面を動揺させる。

 

かもめたちは瞬きも時間も知らない。

二頭の犬はあくびをし、寝そべり、目をつぶる。

 

雲が月を宿すように妊娠した女が雲を吐いている。

この夕方の深い青空に光の置き鍼を打て。

 

ひとつの海岸とひとつの丘があれば都市がひとつできる。

だが十分に生きていない者はその境界に入れない。

 

埠頭で終わり、埠頭で始まる。

ウクレレをもった夫婦が悲しいゴスペルを歌っている。

 

亜大陸に由来する茶色い肌が喚き声を立てて

ひとつひとつの水溜まりを丹念に避けて行く。

 

波は波形を保ったまま水のない街路を進む。

その動力をうまく逆転させて雲を飛ばすといい。

 

また通り雨がはなやかに過ぎて行く。

緑の匂いが大きな天幕ですっぽり街をくるむ。

 

巨大な灰色のかもめが滑空して空の塔をめぐる。

こんなに完成された生き方は他のどこにもない。

 

すべての辞書と税関は王のため。

だがかれらは帝国の言語をもって徴税と国籍を回避する。

 

二本の亜熱帯の樹木に危険なゴム紐を張り

彼女はその上で爪先立ちで踊ってくれる。

 

彼女が踊るたびにそこには赤道が生じる。

日没が何度も終わるが日付は永遠に変わらない。

 

 

2014/1/22

一週間前のニュージーランド、オークランドを思い出しつつ暁方ミセイさんへ送信

 

カテゴリ: シーズン1, 遠いアトラス/石田瑞穂+管啓次郎+暁方ミセイ
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