兄弟の共同作業で映画を撮る小林兄弟とは


日本の同族経営企業を舞台にしたクライムサスペンス映画『フローレンスは眠る』が2016年3月5日より劇場公開されます。この作品を監督した小林兄弟にお話を伺いました。

 

小林兄弟(映画監督)
兄の小林克人はディレクターとして200本以上のテレビ作品を制作。弟の小林健二は俳優座で役者として活動後、兄と旗揚げした劇団で俳優とプロデューサーを歴任。2009年に『369のメトシエラ』を兄弟で共同監督。最新作、『フローレンスは眠る』が2016年3月5日より劇場公開

 

──本作の企画から実現までの経緯を聞かせて下さい。

 

小林健二(以下、弟)「もともと兄と僕がオリジナル脚本で映画を作りたいと言うことが原点になっています。この作品の企画には、僕たちの世代が色濃く反映されているんです。僕が昭和41年、兄が昭和35年の生まれで、両親は戦前・戦中・戦後を知っている世代ですから、昔からよく戦争中・戦後の話を聞かされていました。うちの父が高度成長期を支えた世代なんです。もう亡くなってしまいましたが、そういう親父の背中を見てきて昭和の高度成長期を支えた人たちの脂っこさみたいなものを肌で感じながら育ったんです。そんな背景があって、いわゆるザ・昭和というものをテーマに映画を作りたいというのが、この企画の発端でした。昭和の高度成長からバブル崩壊に至るまでの男たちの善と悪のような部分、山一証券の倒産をはじめ大企業の問題もいろいろありました。昭和が良いとか悪いとか言うのじゃなく、昭和という時代を舞台にしたい。自分たちの中での結論は出せていませんが、そんなテーマを描きたかったんです」

 

小林克人(以下、兄)「日本には独特の雇用形態があります。その中で、同族経営、終身雇用がある。それが悪いことだったのかという投げかけも含め、描いてみたかったんです」

 

──映画の製作にあたり、全てを自力でということに拘られたのは、何か理由があったのでしょうか?  

 

弟「お金を出していただいて、出資していただき、映画を作るという手段もありました。でも他人の手を借りてしまうことで自分たちがやりたいことがやりたいようにできなくなるというデメリットもあると思いました。前作で製作から配給、宣伝と全てを自分たちでやってお客さんと触れ合っていた時に、お金がどうこうというよりも、作品の純度がお客様に伝わっているという実感がありました。そこに、僕たちも満足感を得たんです」

 

映画『フローレンスは眠る』
同族経営である中堅化学工業会社の次期社長が誘拐された。誘拐犯は次期社長の命と引き換えに、幻の巨大ダイヤモンド「フローレンスの涙」を要求する。このダイヤと会社の未来を巡り、様々な人々の思惑が交差して、暗闘が繰り広げられるのだった。
(c)2016 Junglewalk Co.,Ltd.

 

──犯罪映画、サスペンス映画として本作で心がけた事は何ですか。

 

兄「シナリオ上で言うと、各シーンごとに大雑把に起承転結があります。そしてシーンが分割された時にも起承転結を作ったんです。そして、起承転結という流れを、シーンごとに承転結起で終わらせていきました。シーンごとに『次はどうなるの?』という繋がりを大事にしながら物語を構成していくとスピード感が出るんです。シナリオ上では、そういった作業を意識しながらやっていました」

 

──同族経営の企業内の権力闘争を誘拐と絡める。これは今まで邦画であまりみられなかった図式ですが、何か参考にされましたか?

 

兄「参考というか影響を受けているのは、黒澤明監督の『天国と地獄』ですね」

 

弟「日本では、大体三代で潰すと言われてますが、同族企業の性は、常に誰が後継者になるかなんです。同族と言う設定を起用すると決めてから、実際に同族を調べ始めたときに、『林原』という岡山にある会社を知ったんです。倒産してしまった会社なんですが、その会社の社長と副社長である弟さんの手記が、結構参考になりました」

 

──乖離しているように見えるこの2つの題材をあえてミックスさせた理由を教えてください。

 

弟「それは今回のタイトルにもある『フローレンスの涙』というダイヤモンドに象徴されています。いわゆるダイヤと言うのは本来の形を変えずに所有者が変わります。そして、所有者の業と欲を見続けるわけです。それに凄く想像力をかき立てられたんです。フローレンスの涙の片割れは、実際に存在するホープと言うダイヤなんですが、このダイヤも350年間所有者が変わり、いろんな人間の栄枯盛衰光を見続けているんです。そんな考えを思いめぐらして、そこに誘拐という事件を絡ませたら面白いのではないかと思いついたんです。長い年月存在するダイヤとその年月に埋もれていた事実をあぶりだす誘拐、という感じでしょうか」

 

──ご自身の映画製作スタイルを大作映画に対するアンチテーゼとして意識しているような部分はありますか?

 

兄「僕はもともとテレビの世界にいまして、ドラマはやった事がないのですが、先輩のディレクターやプロデューサーから『バラエティーやドキュメンタリーは、誰にでも解るように作れ』って言われていました。『ナレーションを足せ! 視聴率が大事だろ!』と。確かにテレビというのはそういう宿命を背負っていますから、そのやり方も解ります。でも、僕たちが十代の時に見た映画は決して解りやすくなかったのですが、未だに何かが残っているんです。良くわからないけど感動して、大人になってまた見たときに、『あぁそういう事だったんだ』と思うわけです。TVと違って映画にはアートとしての要素があります。アンチテーゼとは言わなくとも、その時に面白いということだけではなく、観る人の記憶に残るものを作ってもいいんじゃないかと思っています。3日経って、まだあのセリフ頭に残ってる、あの一言どういう意味だったんだろうとか。自分が映画を作る時には、そういった感情を観る人に残したいと思いました」

 

──これからどのような作品を作っていきたいですか?

 

兄「映画には色々なジャンルがありますが、描くべきは人ですね。人間の普遍性というものに対して、作品が残り続けていると僕は思うんです。『源氏物語』なんか、今はあんな暮らしはしていないけれど、男と女の気持は今も変わらないから残ってる。そういった、普遍性を持ちながら同時代に向き合った作品を作りたいんです。作品のジャンルやスタイルを変えてSFでもいい。エンターテインメントとしてオブラートに包むけれども、この同時代に生きる、悲しみ喜び、人間とは自分は何故こういう風に生きているのだろうという事に真剣に向き合えるような作品を作っていきたいですね」

 

──おふたりの役割り分担を教えてください

 

兄「企画を2人で出しあって、そのアイディアを僕が脚本という形にしていきます。出来上がった脚本をもとに、また2人で話し合いながら、調整したり修正したりという作業です。現場では暗黙の了解というか、特に役割分担を決めているわけではなく、自然にお互いがやるべきことをやっているという感じですね。唯一役割があるとすると、健二は、プロデューサーとしての役割を担ってくれています」

 

──最後に、兄弟監督であることのメリットやデメリットを教えてください。

 

弟「デメリットは感じたことがないですね。兄弟3人で僕の下にもう一人弟がいますが、3人本当に仲がいいんです。お互いによく喋りますし。映画の企画なんかも、いつも時間があればお互いの思いを喋っているって感じなんです」

 

兄「むしろ他の監督の皆さんは一人で全てをやられているわけで、それは凄いと思ってしまいます。兄弟でやっていてよかったと思うことの方が大きいですね」

 

映画『フローレンスは眠る』は2016年3月5日より全国順次公開です。

 

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