青年海外協力隊の実情を描いた『クロスロード』とは


青年海外協力隊員たちの姿を描いた青春映画『クロスロード』が2015年11月28日より劇場公開されます。Creative Nowでは、この作品を監督したすずきじゅんいち氏にお話を伺いました。

 

すずきじゅんいち(映画監督)
1952年 神奈川県出身。日活に助監督として入社後、日活ロマンポルノで監督デビュー。その後、フリーランスとなり多数の作品を監督。2001年、アメリカに移住しその経験を活かし日系人3部作『東洋宮武が覗いた時代』(2008年)、『422日系部隊・アメリカ史上最強の陸軍』(2010年)、『二つの祖国で・日系陸軍情報部』(2012年)を監督。山路ふみ子文化賞、日本映画批評家大賞ドキュメンタリー監督賞を受賞。その他の監督作品に『マリリンに逢いたい』(1988年)、『砂の上のロビンソン』(1989年)、『和食ドリーム』(2015年)などがある。最新作『クロスロード』が2015年11月28日より劇場公開される。

 

──なぜ本作を監督することになったのでしょうか。

 

「この映画は青年海外協力隊50周年の記念作品で、シナリオコンクールを行い、その優勝者の作品を映画化するという企画でした。僕は協力隊のOBだったので、監督の依頼が来たのです」

 

──すずき監督が青年海外協力隊の経験者とは驚きました。お若い頃のお話でしょうか。

 

「僕が協力隊に入ったのは33歳で、当時は35歳が年齢上限だったので、かなり年上でした。すでに日活の成人映画で監督デビューしていて、長野県駒ヶ根で訓練している時期に、伊那市の映画館で僕のロマンポルノ作品が公開され皆で観にいったという記憶があります(笑)」

 

──どのような経緯でプロの映画監督が協力隊に入隊されたのでしょうか。

 

「完全に成り行き任せです。当時、ミス着物のコンテストの審査員をやった際にそこで同じように審査員をしていた陶芸家と仲良くなり、彼の家に遊びに行ったんです。彼にアフリカの写真を見せられて、『アフリカに行ってみたいなあ』と言ったら、『協力隊に入れば給料ももらえるし、アフリカに行けるぞ』と言われ、実は彼の父親が協力隊を創設した方で、そこから事務局を紹介されて参加することになったんです」

 

映画『クロスロード』
カメラマン助手として働くが目標の見えない日々を過ごしていた沢田(黒木啓司)は、自分を変えようと青年海外協力隊に応募する。フィリピンに派遣された沢田は、真面目な志を持つ同僚の羽村(渡辺大)らと対立しつつも、自分の生き方を模索していくのだった。
(C)2015「クロスロード」製作委員会

 

──『クロスロード』の主人公はカメラマンでしたが、映画監督として青年海外協力隊で活動するという道もあるのですね。

 

「技術を向こうで披露する、役立てるという意味で、本当に何でもありの世界なんです。僕は結局タンザニアではなくモロッコに行ったのですが、そこで母乳保育の大切さを伝える教育映画を作る仕事に携わりました。ただし、撮影機材やスタッフは全て現地調達だったので大変でしたね。製作費も現地からユニセフに企画書を提出して、調達したんですよ」

 

──監督のそういった経験は今回の映画に活きていますね。記念作品にも関わらず、単にボランティアというか青年海外協力隊の善行を描くような作品になっていないのが意外でした。

 

「かつて雑誌で協力隊の漫画原作を担当していたのですが、そこでも世間は感動的な目で協力隊を見ているが、隊員は自分のためやっている側面もあるということを描いていました。そういった美談だけでない実情は、この映画にも込めたつもりです」

 

──本作には若い人気タレントも多数出演しています。

 

「単なるPR映画ではなく、純粋に一般の方が楽しんでくれる青春映画にしたいという思いもありました。少ない予算で海外ロケもある作品なので、俳優さんがちょっとゴネたりしたら、企画自体潰れてしまうと心配もしていたのですが、みなさん非常に真面目でしっかりしていましたね。昔は俳優も協力隊員もいい加減で変わった人が多かったのですが、最近は本当に真面目な人ばかりです(笑)」

 

──すずき監督は2001年にアメリカに移住されています。近年、ドキュメンタリー作品が増えているのは、こういった環境の変化と関係があるのでしょうか。

 

「本当に偶然の出会いからの流れですね。たまたまアメリカに行って日系人との出会いの中で、残しておきたい物語があると思ったんです。映画監督として、単にお金儲けだけではなく、歴史に残しておかなければならない映画を撮りたいという気持ちが芽生えました。戦争中の日系人の歴史を知っている人は本当に少ないので、その実像を残しておきたいと思って日系人3部作を作ったんです」

 

──『クロスロード』は久々のフィクションですが、すずき監督にとってフィクションとドキュメンタリーではどのような違いがあるのでしょうか。

 

「僕にとって映画は映画なので、ドキュメンタリーとフィクションの違いはあまり感じていません。これは僕が日活で育ったからだと思います。ロマンポルノを監督した次の日から、子供向けの教育映画を撮ったりしていたので、映画は映画というスタンスなんです。ただ、ドキュメンタリーの場合、予算は少なくても時間は何倍もかけます。そういう意味で、個人的なエネルギーはドキュメンタリー映画のほうがかかります」

 

──これからどのような作品を作っていきたいのでしょうか。

 

「いい加減な人間なので、成り行き任せであまり考えてはいません(笑)。でも、意義のあるものはやって、意義のないものはやらないというスタンスで撮っていきたいとは思っています」

 

映画『クロスロード』は2015年11月28日より全国ロ-ドショー公開されます。

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