クリエイターインタビュー 鈴木聖史 (映画監督)


クリエイターをテーマにした映画『ホコリと幻想』が2015年9月26日より全国公開される。この作品を監督したのは会社員と映画監督というふたつの顔を持つ鈴木聖史氏。Creative Nowでは、自身の活動や立ち位置も色濃く反映した『ホコリと幻想』を監督した鈴木氏にお話を伺いました。

 

鈴木聖史 (映画監督)
1977年生まれ、北海道出身。上京後、学生時代に東映撮影所にて映画製作に触れる。数タイトルの自主制作映画を監督後、2010年『ある夜のできごと』で監督デビュー。最新作『ホコリと幻想』が2015年9月26日より全国公開される。


 
──鈴木監督にとって2作目となる『ホコリと幻想』は主演の戸次重幸さんを筆頭に、キャスト的にも非常に豪華な映画になっています。
 
「今作では、自分が色々な媒体で観てきた方に出演していただいていますが、監督としてやっていることは、大きく変わらないですね」
 
──鈴木監督は北海道出身で、作品の舞台も北海道、主演の戸次重幸さんも北海道出身ですね。
 

「今回は100パーセント北海道の旭川を舞台にした作品を作りたかったので、主演はその空気感が理解できる人にしたかったんです。戸次さんは松野のイメージにぴったりだったので、出演をお願いしました」
 

映画『ホコリと幻想』
東京でクリエイターとして活動する松野(戸次重幸)が旭川に帰郷した。同窓生たちと再開した松野は、市のモニュメント製作に立候補し、周囲を巻き込んでいく、しかし、実際のモニュメント制作は進まず、周囲は松野の経歴に疑念を抱き始めるのだった。
(C)2014 Real Scale project/DESAFIADORES

 
──今作ではクリエイティブな職業や夢を実現するということに関して、東京と地方の格差や認識の差が引き起こす問題が描かれています。
 
「日本では東京と地方という図式が根強くあり、かなり垣根があると感じています。僕自身映画に関わる活動していてその歪を実感していたので、それを描きたいという気持ちがありました」
 
──これは鈴木監督の『ある夜のできごと』から続いているテーマでもありますね。
 
「前作で決着がついた気もしていたテーマだったので辞めようとも思ったのですが、前作が公開されたことをきっかけに、急に周囲と自分が繋がったんです。それによって逆に同級生や地元とは独特の距離感が生まれました。その雰囲気を作品に反映させたいという気持ちがありました」
 
──作品を観ていて、本物のクリエイターと偽クリエイターの違いについても、深く考えさせられました。
 
「この映画の主人公は前半と後半で明らかに違います。クリエイターに憧れるだけの薄っぺらい人間が、本物のクリエイターになる瞬間を描きたかったんです」
 
──映画としては、最終的に主人公が良い人間になったり、何かを悟るような展開も有り得たと思うのですが、本作の主人公は周囲を裏切り拒絶したままです。この状況も非常にリアルでした。
 
「物語のそういったプロセスはもちろんありですし、僕も嫌いではありません。でも、この作品は松野のキャラクターを創造した時点で、松野らしいあり方にこだわったんです。たとえ観客の賛同を得られなくとも、キャラクター自身が正直に存在できる描写を選びました」
 
──『ホコリと幻想』も『ある夜のできごと』も鈴木監督自身の内から生まれたであろうと想像できる非常にパーソナルは作品です。鈴木監督は他人の企画やプログラムピクチャーのような作品を監督することに興味はあるのでしょうか。
 
「基本的に物語を創るのが好きなので、どのような企画でも興味はあります。自分のエッセンスが入る余白があればプログラムピクチャー的な作品もいいと思いますし、大きな予算の作品も機会さえあればいつかチャレンジしてみたいですね」
 
──この作品では、クリエイターという職業に対して、ある意味では非常に厳しい言及がされていると思います。これは、現在の鈴木監督の映画に対する関わり方も影響しているのでしょうか」
 
「僕は映画監督だけでなく、15年前から正社員として医療系の企業でサラリーマンをやっているので、『本物のクリエイターとは』というテーマに関しては僕自身も自問自答しています。当初は職場でも映画監督であることを内緒にしていましたし、自称映画監督と本物の映画監督の境界線が自分の中でもわかっていない部分があるんです。フルタイムの映画監督ではないので、胸を張って『映画監督です』と宣言できない曖昧さが常にあります。そんな葛藤も『ホコリと幻想』には込めています」
 
──非常に珍しいワークスタイルだと思うのですが、鈴木監督はどのようにしてふたつの仕事を両立させているのでしょうか。
 
「平日はサラリーマンとして勤務しているので、映画の打合せや準備は夜や休日に集中させています。実際の撮影などは有給休暇の範囲内で対応しています」
 
──兼業監督のメリットとデメリットについて聞かせてください。
 
「生活が成り立つという安心感の中で作品制作できるという部分は人によってはメリットと言えるかもしれません。あとは、仕事をふたつやっていると空く時間がなくなるので、良いリズムや流れが作れるんです。映画製作で煮詰まっていても、仕事が順調だったりすると、その流れに持っていけるという感じはありますね。デメリットはふたつの仕事が上手くいかないとき、圧倒的に時間が足りなくなるという部分です。サラリーマンとしての失敗や悩みを引きずっていると、映画監督や脚本家のモードに切り替えることができなくなってしまうんです」
 
──鈴木監督はこのスタイルをこれからも継続していくのでしょうか。
 
「映画監督とサラリーマンというと驚かれる方もいらっしゃるのですが、どちらも僕にとっては大切な仕事です。ただし、何をしていても映画を撮るという部分だけは維持したいと思っています」
 
──規則正しいサラリーマン生活と紆余曲折も多いであろう映画製作は、大きな隔たりがあるような印象もあります。ご自身の中で、どのように折り合いをつけられているのでしょうか。
 
「乱暴な例えですが、映画製作とは僕にとってワクワクする非日常というか学園祭の延長線上のようなものなんです。ですからサラリーマン生活と相反する部分も考えずに楽しんでいるというい感じです」
 
──今後はどのような作品を作っていきたいのでしょうか。
 
「3作目の脚本もすでに準備しています。せっかく医療系メーカーに勤めているので、医療系のお話をいつかやってみたいですね。医療サスペンスでなく病院を舞台に医者という職業に関する話をやってみたいんです。また、これまでは大人のノスタルジックな話を撮ってきたのですが、ダイレクトに子供たちのお話もやってみたいですね」
 

映画『ホコリと幻想』は2015年9月26日よりヒューマントラストシネマ渋谷他全国順次ロードショーとなっています。

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