近未来ディストピア映画『さようなら』 深田晃司監督インタビュー


ロボット工学者 石黒浩教授が開発した実在するアンドロイド ジェミノイドFが、アンドロイド役として出演した映画『さようなら』が2015年11月21日より劇場公開されます。ディストピアと化した近未来の日本を舞台したこの物語は、どのような意図を込めて作られたのでしょうか。Creative Nowでは、この作品を監督した深田晃司氏にお話を伺いました。

 

深田晃司 (映画監督)
1980年生まれ、東京都出身。1999年、大学在学中に映画美学校第3期フィクション・コース入学。2004年『椅子』で監督デビュー。2005年、平田オリザ主宰の劇団青年団に演出部として入団。2006年『ざくろ屋敷』でパリ第3回KINOTYO映画祭ソレイユドール新人賞受賞。2008年『東京人間喜劇』がローマ国際映画祭選出。2010年『歓待』で東京国際映画祭日本映画「ある視点」部門作品賞とプチョン国際映画祭最優秀アジア映画賞を受賞。2013年『ほとりの朔子』でナント三大陸映画祭グランプリ&若い審査員賞をダブル受賞。最新作『さようなら』が2015年11月21日より全国公開。


 
──『さようなら』は平田オリザさんの短編戯曲を映画化した作品です。
 
「2010年にこの作品の舞台を見て、すぐに映画化の許可をいただきました。死んでいく人間の女性と死を知らないアンドロイドの対話が力強い物語となっているこの作品を、最初から長編映画にするつもりでした」
 
──短編の舞台を長編映画にする際、どのような変更点があったのでしょうか。
 
「舞台が素晴らしかったので、役者とアンドロイドはそのままのキャスティングにしました。ただ、周囲の人々が主人公の女性の周りから去っていき、ふたりだけが残される過程は時間をかけてしっかりと丁寧に描きたいと思っていました。原発の爆発や難民問題などの設定は映画オリジナルです」
 

映画『さようなら』
近未来、複数の原発への爆破テロにより日本は人の住めない環境となり、難民となった日本国民は世界中に散っていった。南アフリカから日本に来た難民のターニャとアンドロイドのレオナは日本に残り、終末に向け静かに暮らしているのだった。
(C)2015「さようなら」製作委員会

 
──深田監督は前作の『ほとりの朔子』でも、原発問題を扱っています。『さようなら』では原発テロによってディストピアと化した日本や、難民となった日本国民の姿が描かれています。
 
「今の自分や日本にとって、原発事故はもちろん難民問題は無関係なものではないという意識は根底にあると思いますが、映画は自分の思想を伝えるスピーカーではないので、あくまでもその世界で起きた出来事として描いているに過ぎません。ただ、限定された小さな世界を描いたとしても、世界のどこかで起きている大きな出来事と地続きだということは常に意識して映画を撮っています」
 
──本作では、本物のアンドロイドであるジェミノイドFが、アンドロイドとして劇中に登場します。映画的には実際の役者がアンドロイドを演じるという選択肢もあったのではないでしょうか。
 
「これまでの舞台での実績から、アンドロイド役はジェミノイドF以外考えられませんでした。人間と似ているが異なる存在であるアンドロイドと人を映画で共演させることで、人間とは何かを追求したかったんです。人間とアンドロイドの対比によって、人間も良く出来たアンドロイドでしかないという見え方も出てくると思います」
 
──映画を観ていると非常に逆説的ですが、人間らしくはないアンドロイドの振る舞いになぜか心を揺さぶられます。
 
「映画では、人間が歩き、歩けないアンドロイドは車椅子に乗っています。歩いている人間は死に、アンドロイドは永遠に死にません。人間のターニャがたどたどしい日本語で話し、アンドロイドは流暢な日本語を話します。そういった設定を重ねて、人間とアンドロイドの境界をあいまいにしようとする意図がありました」
 
──『ブレードランナー』や『A.I.』のような映画に共通している「人間になりたがっているアンドロイド」という設定が、本作のアンドロイドには感じられません。
 
「人間になりたいアンドロイドという時点で、非常に人間的な欲望を持っていると思うんです。そういった作品のアンドロイドとこの映画のレオナの大きな違いは、己の欲望がないかのように見えるという部分なのです」
 
──『ほとりの朔子』を観させていただいた時、これから深田監督はメジャー志向というか大衆に向け映画を作っていくのかと思ったのですが、本作でまた印象が変わりました。
 
「その時々の撮る環境で変わる部分もあると思うのですが、ベタな言い方をすれば『さようなら』ではリミッターを振り切って日本の製作状況では難しい徹底して作家性の強い作品を創ろうという意図がありました。初期作品の『ざくろ屋敷』に戻ったような気もしています」
 
──また、深田監督の作品では、シリアスな事が描かれていてもどこかユーモアが感じられる側面があります。
 
「自分ではあまり意識していないのですが、そう言われることは多いですね。基本的に3人称で描くことを心掛けているからだと思います。誰かの感情に寄り添い共感を得るのではなく、あくまでも一歩引いた視点から物語を描きたいんです。そうすると、シリアスな状況でも笑いに見えてくる部分があるのかもしれません」
 
──これから深田監督はどのような作品を作っていきたいのでしょうか。
 
「撮影中の次作はシリアスないわゆる家族のドラマです。いつか撮ってみたいのは時代劇ですね。時代劇といってもチャンバラではなく、おとぎ話というか昔話を。ただ、どのような作品を撮るとしても、日常は意識していたいです。『さようなら』もそうなのですが、大きな問題意識を抱いていたとしても、僕たちの日常は非常にささやかでミニマムなものだと思うのです。劇的なことは人生の時間のほんの1パーセント程度で、後は何もない日常が続いていくのだと思います。1パーセントのドラマチックな出来事を描くのも良いでしょうが、僕はささやかな日常に目を向けて描いていきたいと思っています」
 
映画『さようなら』は2015年11月21日より新宿武蔵野館他全国ロードショーです。

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