将棋情報局

詰将棋作家・藤井聡太 第6回 黎明編

藤井聡太が創作した詰将棋を本格批評!


先月号の将棋世界付録に掲載された「詰将棋創作 キッズチャレンジ」はご覧いただけましたでしょうか。現在4月末を締め切りとして第2回の募集が行われているところです。全国的な休校措置もあり、第2回の入選を目指して詰将棋を作ってみようというお子さんもいらっしゃることでしょう。未来の藤井聡太を探せ、と意気込む同企画。ではどのくらいのレベルの作品を作れば藤井聡太クラスなのでしょうか。

今回は藤井七段のキッズ時代にさかのぼります。第1回でご紹介した作品が11歳の時の作品。しかし藤井七段にはそれよりさらに前のデビュー作があります。今回は将棋世界誌に掲載の最初期作品を題材に、藤井七段の原点と成長速度について述べていきます。

 
(将棋世界 2012.4)

これが藤井七段の正真正銘のデビュー作です。発表時9歳。まだ奨励会入会前でした。まずは自然な手から試してみましょう。

以下の手順
▲5二飛成
 


この王手ですでに玉はかなり狭くなっています。たとえば自然な△2二桂合だと…
△2二桂合 ▲1三歩 △2一玉 ▲3三桂不成



以下△3一玉▲4二龍で詰みます。では、この▲3三桂不成を取れるように、2二の合駒を角にするとどうでしょうか。

△2二角合


 
▲同龍 △同玉 ▲3三歩成


 
斜め前に利く駒を合駒すると少し強すぎて、すぐに▲同龍と取られて詰んでしまいます。上図以下△1二玉▲1三歩△2一玉▲3二角がありますね。金合銀合もこれに準じます。

ではこれで全部詰みでしょうか? いえ、玉方に妙防がありました。



以下の手順
△3二桂合


 
あえてひものついていない3二に捨て合するのが妙手。取るしかありませんが…。

以下の手順
▲3二同龍 △2二桂合


 
捨て合で龍を3二に呼んでから桂合とするのが玉方の最善で、すぐに△2二桂合とされたときには打てていた▲1三歩がここでは打ち歩詰になってしまっています。ということでこの局面は逃れ。攻め方はこの前に工夫をしなければなりません。打ち歩といえば不成ということで…。

以下の手順
▲5二飛不成


 
飛車不成が正解。今までの変化でも、飛車が成っていなければ指せないという手はなかったので、見えやすいとは思います。ここで2二に合駒をすると先ほど述べた手順がそのまま同じように成立して詰み。なので、結局この手が必要になります。

以下の手順
△3二桂合


 
▲3二同飛不成 △2二桂合


 
先ほどは龍を呼んで打ち歩詰に誘導するための捨て合でしたが、飛車不成に対しても同じ捨て合が成立します。今度は△2一玉と落ちた時に、飛車を取れる形にしておいて▲3三桂不成を消す意味。表面上同じ手ですが、変化と作意とで意味づけが異なっているところがおもしろいですね。また、この捨て合によって飛車不成の回数が増えていることも見逃せません。

以下の手順
▲1三歩 △2一玉 ▲2二飛成 △同玉


 
桂の捨て合を不成で取って、それによって▲1三歩が打てた時だけ、2二の桂をむしって詰む筋に入ることができます。せっかく桂を取ったので、▲3四桂と王手をしたいですが、歩が邪魔ですね。そこで…

以下の手順
▲3三歩成 △2一玉 ▲2二と △同玉


 
押し売りして原形消去してしまいます。この3四歩はただ邪魔駒として置かれていたのではなく、いままでの変化(たとえば、△2二角合の変化)では必要な駒だったので、なおさらポイントが高いです。急所の▲3四桂が入ると以下は簡単に詰みです。

以下の手順
▲3四桂 △2一玉 ▲3三桂打 △3二玉 ▲4二歩成まで17手詰。



藤井七段が9歳のときのデビュー作でした。あえていえば、本作はやはりかわいい作品の部類に入ります。玉の頭に歩が打てる形で、一間龍になったときの対処を含みに飛車不成で王手していくのはひとつのパターンなので、詰将棋をやっている人なら驚きはないかな、という内容。この月は毎年恒例の初入選特集の月なので、初投稿も加味しての入選という面もあります。

ただ、まとめ方のそつのなさはこの当時から見るべきものがあるというべきでしょう。詰将棋の完成度を評価するポイントはいくつかありますが、ここでは「余詰消しのための駒があるか」という点を挙げておきましょう。詰将棋というのはパズルでなければなりませんので、詰む手順は一通りになるように作られています。ですから、いくら美しい手順で詰むことがわかっていたとしても、それが局面で唯一の最善でなければ詰将棋としての価値はありません。そこで、やりたい手順がちゃんと詰むために必要な駒とは別に、やりたい手順以外が詰まなくなるための駒を置くことがあります。この駒を「余詰消し」と呼んでいて、この駒が多くなればなるほど、もともと表現したかったものと、実際に実現されたものとの距離が開いていきます。それがすぐに悪いことというわけではありませんが、あまりに程度が大きくなってくると、無理作りの印象を与えることになってきます。

本作においては、そうした余詰消しの駒が一枚もない、というところに注目していただきたいと思います。どの駒ひとつとっても、主眼となる手順の必要最小限の枠になっており、その枠自体の力によって、自然に正解以外の手が詰まなくなっています。また、収束も主眼部分の成立に伴って自然に入っていたという印象を与えるものになっています。その分やや並べ詰みの感はありますが、全体のバランスを考えた時にはこの仕上げが最善と思われます。

こういう仕上げ方を9歳でできているというのは驚きです。力のある子どもであれば特に、「このままでは易しすぎる」と感じて、素材がもともと持っているポテンシャル以上に盤面を複雑化させたりしてしまうものなのですが、そうではなくこの構図であっさりと完成形としたところに、単に将棋が強いということ以上の詰将棋センスの片りんを感じます。

(もっとも、こういう感覚は老境に達してから身につければいいという見方もあります。ですから、キッズチャレンジに投稿しようという皆さんはまずは完成度を気にせずやりたいことを自由にやってみてください)

さて、ここからわずか8カ月後、成長の速さを見せつけたのがこちらの作品。
 

(将棋世界 2012.12)

発表は誕生日をまたいでいますが、投稿時はやはり9歳だったというこの作品。のちに年間表彰にて谷川賞を受賞しました。9歳で(10歳でも)詰将棋の賞を取るというのは新人賞ですら歴史上ほかに思いつきませんが、谷川賞は制限をつけずに選ばれる賞なので、これは当然ながらめちゃくちゃすごいことです。

初手からの手順
▲1五銀 △同銀



初手の▲1五銀に△同玉は▲1六飛△2五玉▲2六飛打で詰み。銀をずらしたこの局面が問題。飛車を打つしかありませんが、△2五玉からの逃走ルートが見えています。そこで…

以下の手順
▲1三飛


 
玉に直打ちするのが正解。△同玉は▲1二飛までなので2五に逃げますが…

以下の手順
△2五玉 ▲2四飛


 
もう一回直打ちが正解で、この連続直打ちしか詰みません。そのことを理解するために、ここで△3六玉と逃げてみましょう。すると▲3三飛成という手があってぴったりつかまっています。


 
この▲3三飛成を含みにして、最初の直打ち▲1三飛が限定になっていたわけです。ではその次の▲2四飛はなぜ限定なのでしょうか。仮に2二から打ってみましょう。



ここで単に△3六玉だと、▲3三飛成で詰みなのは同じ。しかし、玉方に妙手があります。

以下の手順
△2三歩合!


 
ひと目では効果がわかりづらい捨て合ですが…

以下の手順
▲2三同飛引成 △3六玉


 
このように進んでみると、▲3三龍と取る駒が1筋に打った飛車から2筋に打った飛車になってしまいます。そのため、▲3三龍のときに2筋の利きが外れ、△2七玉と体を入れ替えて逃げられてしまいます。こうなると全く詰みません。

別の言い方をすると、△3六玉の変化のとき、1筋の飛車は追い越し車線から2筋の飛車を追い越して3筋に移動できなければなりません。しかし、2筋の飛車を遠くから打つと△2三捨て合で飛車の車線を同じにされてしまい、追い越しができなくなるのです。そのため、あらかじめ▲2四飛と直打ちしておくことで1筋の飛車が走る空間を確保しなければならないという仕掛けです。

こういう盤面の空間処理を主眼とした超短編は、詰将棋パラダイスなどの専門誌でベテランさんたちが繰り広げる類のもので、とてもじゃないですが9歳の感覚ではありません。最近では、詰将棋解答選手権の初級戦や一般戦でもこうした工夫を織り込んだ作品が出題されることがあるので、詰将棋特有の手筋として抵抗がなくなりつつあるのかもしれませんが、それにしても、という感じです。

さて、連続短打によって△3六玉がなくなれば、飛車を取るしかなくなってぴったりの詰みとなります。



以下の手順
△2四同銀 ▲1六飛成まで7手詰。



ネタといい構図の取り方といい、トータルとして完全に現代的な超短編の作り方で、デビュー作の素朴な印象から一気にイメージを塗り変えました。

選考会のときの先生方のコメントを引用します。
谷川先生「切れ味があり、9歳とは思えない作品」
浦野先生「変化の中に妙手があるのがとてもいい。どういうものが良い詰将棋かというのがわかっています」
斎藤先生「4月と12月では作品のレベルが全く違いますね。成長しています」

さて、谷川賞作から少し経って、藤井七段は次の作品で佳作を受賞しました。


(将棋世界 2014.2)

発表時11歳。なお、時系列を整理すると、この作の4カ月前には詰将棋パラダイス誌の初入選(第1回でご紹介)を果たしており、また第3回の1作目でご紹介したものと本作が同時発表となります。

初手からの手順
▲3八角


 
まず香の利きに角を打つのが意表をつく限定打。△同香成は▲1七香△2五玉▲3六龍までなので取れないことはすぐわかるのですが、それでも味のいい手です。意味としては、5六の桂にひもをつけておかなければならないというもの。それは手順を進めていくとわかります。

以下の手順
△2五玉 ▲2六香


 
△2五玉と逃げる手に対し、▲2六香と短く打つのが正解。▲2八香と打つと、△2七桂合▲同香と馬の利きを消されてから△3六玉と逃げだされてしまい、詰まなくなるのです。先ほど▲3八角に△同香成の変化では、香の足の長さを活かした手順で詰ませるだけに、作意のほうでは歩として使わなければいけないというところに対比的なおもしろさが見いだされてきます。

以下の手順
△2六同玉 ▲2七馬 △1五玉 ▲1三龍 △2五玉 ▲4七角


 
軽く追って舞台を整え、ハイライトとなる局面。▲4七角と態度をたずねますが、△3六歩合は▲1六馬まで。といって△3四玉では次の手があります。

以下の手順
△3四玉 ▲4五馬!
 


これが気持ちのいい飛び込みで、以下△同玉の一手に▲4三龍まで、合利かずの詰みです。


 
このとき桂にひもをつけておくために、初手の▲3八角は限定なのでした。しかし、これだと攻め方に持駒があまってしまいます。実はこれは変化で、玉方が最善を尽くしていないのです。ここで考えるべきは、「3五の香がいなければ、上の図は詰んでいないのではないか」ということ。実は、▲4七角の局面でこんな手がありました。
 


以下の手順
△3六香!


 
合駒を打つのでもなく、さりとてかわすのでもなく、詰上がりで壁駒になってしまっている香をそっと差し出すのが正解。玉方が退路を開けるために邪魔駒をわざと取らせるのは珍しい筋で、発表当時注目を集めました。ただし、香が手に入ったことで改めて3五をふさぎ直す手段が生じ、以下想定通り詰上がります。

以下の手順
▲3六同馬 △3四玉 ▲3五香 △同桂 ▲4五馬 △同玉 ▲4三龍まで17手詰。



こちらも選考委員の先生方のコメントを引用しておきましょう。
北浜先生「初手の限定打の意味が最終手で分かる作品で、△3六香の移動合からの収束も完璧です。狙いの△3六香に至る手順も素晴らしいです。作図技術は相当高いです」
浦野先生「12歳(注:選考会時点)で奨励会初段なのもすごいけど、12歳でこの詰将棋ですか。ただ、この収束は前例があります。それがなければもうちょっと強く推すのですが。初入選の頃と比べると、急によくなりましたね」

浦野先生がご指摘の前例はこちら。


有吉弘敏作(詰将棋パラダイス 1985.5)

▲1七銀 △同と ▲4八角 △3七香成 ▲同馬 △3五玉 ▲3六香 △同桂 ▲4六馬 △同玉 ▲4五飛まで11手詰。

藤井七段が生まれる17年前の作品ということもあり、間違いなく知らずに作ったと思いますが、ふつう11歳が作った詰将棋にわざわざ類作を指摘する必要が生じることがないので、その点でむしろ感心したという意味でやはりご紹介しておきます。しかも有吉さんは看寿賞作家ですからね…。

以上、将棋世界誌に発表されたデビュー以降の最初期作品群をご紹介してきました。
この連載では一貫して藤井七段の詰将棋センスというものについて語ってまいりましたが、そのセンスはデビュー作からすでに萌芽を見出すことができるといっていいでしょう。今回ご紹介した作品に限らず、藤井七段の作品には余詰消しのためだけの駒がほとんどありません。それはつまり、素材のポテンシャルを的確に見抜いて、ちょうどぴったりの装飾で仕上げているということで、その手腕はきめ細やかそのものです。そのことによって、結果として生み出される作品はどこを切っても必然の形をしていて、ややもすれば簡単に作り上げられているような印象すら与えるのですが、優れた職人というのは作業の跡を残さないものです。その匠の技は最初期から一貫して見受けられると言えると思います。

一方で、その手腕でまとめられる作品のスケールは、小学校高学年の期間で急速に大きくなっていったことが見て取れます。実は最近になって発表されている作品も、そのいくつかは小学生の時に作られていたというお話もあり、このあたりは今後調査が求められるところかと思いますが、同じ時期に将棋も急速に強くなっていったために、創作活動が抑えられていくことになったのは詰将棋ファンとしてはジレンマというほかありません。

キッズチャレンジを目指す子どもたちのために、本稿が参考になったかはわかりませんが、まずは浦野先生がおっしゃるように「どういうものがいい詰将棋か」わかるようになるということ、そして実際に自分の頭で考えてみるということ、それをコツコツと続けていれば、藤井七段のように爆発的に成長するときが来るかもしれません。

第二回の応募締め切りは4月30日。A部門課題は3手~9手で「飛車を捨てる」、B部門は~17手の自由課題です。親御さんと相談しながら作ってもいいので、挑戦してみてください!


 
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