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詰将棋作家・藤井聡太 第5回 藤井聡太入門

藤井聡太が創作した詰将棋を本格批評!


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前回は色紙の詰将棋について触れました。その中で、特に初期の色紙作品は難易度を度外視して作られていたこと、ここ数年になって、次第に難易度調整を行うようになってきたと思われることを述べました。今回は、藤井七段が初心者向けに作った作品について触れます。

まず先に申し上げておきたいのは、作家目線では、易しい作品を作るのは決して易しくないということです。少ない駒数、短い手数、変化紛れの少ない手順、という制約の中では、完全に目新しい作品というのはまず作れないからです。その分、微妙な感覚の差でいい作品と平凡な作品とが分かれてきます。
易しい作というのはあまり紙幅を割いて解説されることが少ないものですが、今回はあえて、特にそうした感覚の部分に重きを置いてゆっくりご説明できればと思っています。もともと詰将棋がかなり解ける方には冗長と感じられる部分も多いかもしれませんが、将棋ファンの多くを占めるそうではない方向けの、詰将棋の楽しみ方入門のようなものになればと思いますので、しばしお付き合いください。

1、捨て駒のぴったり感を味わう
 

テーブルマークこども大会東京大会(2018.11)

問題図以下の手順
▲5三金 △3二玉


 
広いほうに逃げられないよう、金でおさえるのは基本。下段に落とされ狭い玉ですが、戦力不足であと一押し足りないようにも思えます。しかしここからアクロバティックな手順で攻めをつないでいきます。

▲3一角成


 
△2三玉 ▲3三角成


 
この連続角成が気持ちいい手順。ひものついていない成捨てですが、▲3一角成に△同玉は▲4二金まで。この変化で1五角の利きをきっちり使っているからこそ、次の3三角成の妙手感が増します。こちらは桂でも玉でも取れますが、△同桂は▲1三とまで。


 
△同玉は▲2二馬まで、いずれもぴったりの詰上がりとなります。


 
このぴったり感を味わうのが、まずは詰将棋の楽しみ方のひとつ。攻め駒不足に思えた局面から、3三の焦点にポンと角を空成りするだけで、どの駒で取っても1手詰になるというのは不思議ですね。特に本作ではそのぴったり感を連続技の中で表現しているので、なお印象に残ります。3三角成が取られて消えたあと、盤上に残ってとどめを刺す馬も、一度捨て駒で動いた駒であることを指先が覚えているからです。

捨て駒のぴったり感が楽しめる作品をもうひとつ。


サライ(2018.5)

さっきより少し配置が広がってとっつきづらく感じるかもしれません。また、最初から角が浮いていて不安に感じる局面でもあります。次の手が急所で駒の連結がよくなります。

問題図以下の手順
▲2四飛



まず一回目の捨て駒。捨て駒とは呼んでいますが、△同玉は▲2四金までなので、この飛車は取れません。△4三玉とかわします。

以下の手順
△4三玉


 
まだ少しぴんと来ない局面かもしれません。ここでも、前の作品同様、局面を切り開いていく鮮やかな連続捨て駒があります。

以下の手順
▲3三角成



△3三同金 ▲3二角成


 
またしても角の連続成り捨てですね。しかも本作ではどちらも焦点への捨て駒になっています。最初の▲3三角成に△同玉は▲3四金まで。また△5三玉と逃走をはかる手には▲5四金があります。このとき5一銀の後ろ足が6二をおさえているところなど、さりげないようですがぴったりした配置となっています。やむを得ず△同金ですが、動いた金の後ろに走らせる▲3二角成がぴったりの決め手。これもどちらで取っても一手詰の局面となってしまいます。
△同金には▲4四金。


 
△同玉には▲4二金まで。


 
どちらの詰上がりでも、最後に遊んでいる攻め方の駒が一枚もないことがおわかりでしょうか。このように、枝分かれしていくさまざまな手順があって、どの道筋においてもちょうどぴったり、となるように作られていると、詰将棋におけるぴったり感の味わいは一段上のステージに上がります。それぞれの駒が多様な可能性の広がりを持ちつつも、同時にひとつの目的に向かって収斂しているという印象を与えるからで、作品の完成度が高い、とはそういう意味です。

【余談】
駒の機能美のお話になりましたので、少しだけ余談を。作意だけ追った印象では、いま4五にある香は、単に▲2四飛に対して△4五玉と逃げられないための壁駒に見えますが、そうだとすれば歩でもいいはずです。なぜ香なのだと思いますか? これは相当難しいと思います。正解は末尾に。

2、合駒を動かす

捨て駒の作品と並んで藤井七段が手掛けているのが合駒を動かす作品。合駒というもの自体、本格的な詰将棋に特徴的なものであったりするのですが、藤井七段は普及用の作品においてもそのエッセンスをうまく取り入れています。しかも、合駒を出すだけで終わらず、必ずと言っていいほどその合駒を動かしています。第4回の3問目もそうでしたね。

こうした普及作のなかで、合駒を出してかつ動かす、というのはかなり珍しい部類に入ります。というのは、普及作は短編になるわけですが、合駒を動かすのは短編のテーマになりづらいからです。そもそも、基本的に合駒というのは出てすぐは動けません。玉と飛び道具の間に割って入るのが合駒の役割なわけですから、それがすぐによけたら王様が取られてしまいます。そのため、飛び道具のラインから王様を動かす手が必要になってくるわけで、それを短編の手数に収めるのはそんなに簡単な話ではありません。しかし、藤井七段の合駒作品は非常に簡潔です。


中部電力ウェブサイト(2018.11)

問題図以下の手順
▲2五飛



さて、さっそく合駒読み…の前に、△1四玉と逃げる筋を確認しておきましょう。▲1三銀成と捨てて、△同玉でも△同歩でも▲2四飛成までで詰みます。この筋は、合駒を読むときにも応用が利きます。要は、3三に逃げられない状態(つまり、1四玉の状態)のときに1三銀成とできれば、二枚の飛車が連結して詰むというわけです。ですから、並の合駒、たとえば歩合だと、次の手があります。

仮想手順
△2四歩合 ▲1四角


 
とにかく1四に呼んでしまうのが好手。それから▲1三銀成とすれば、先ほどの変化とほぼ同じになって詰みます。


 
△同玉でも△同歩でも▲2四飛成までですね。そこで、このとき役に立つ合駒は何だろう、と考えるとこの詰将棋は解けます。この▲1三銀成を合駒で取れれば…? それができる駒は銀ですね。



以下の手順
△2四銀合 ▲1四角 △同玉 ▲1三銀成 △同銀


 
こうして合駒が決まり、またその駒が流れのなかで動きました。少ない駒数と手数の中で、合駒の出現と、その合駒を自由に動かせるようになるための玉移動を最短かつシンプルな理屈で実現していることがおわかりいただけたでしょうか。
そして、合駒が適切に選ばれたときのみ気持ちのいい収束が待っている、というのも解く側にとってうれしいポイント。

以下の手順
▲1五飛 △同玉 ▲2五飛成まで9手詰。


 
銀合が選ばれたときのみ、今まで成立していた▲2四飛成が成立しなくなるので、▲1五飛の気持ちいい捨て駒が正解となります。解く側からすると、まず玉方の妙手に気づき、それを上回る攻め方の妙手に気づくという時間の流れになりますので、一粒で二度おいしいということになるわけです。簡素な構図ながら大変よくできた作品です。


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問題図以下の手順
▲1三桂 △1二玉 ▲2四桂 △同金 ▲2一桂成


 
初手、3手目の王手はこれくらいしかないところ。4手目の△2四同金で香の筋が通ります。それによって、上図の▲2一桂成に△同玉は▲4一龍まで。△1五金と香を取っても▲1三歩△2一玉▲4一龍で変わらないので、玉方は合駒をすることになります。まずはこれも歩合としてみましょう。

仮想手順
△1四歩合


 
これを▲同香は△同金で1三に金が利いてきて詰まなくなります。これがあるので、1四の合駒は基本的に取れないことに注意しておきましょう。しかし、よく見るとこの局面では合駒を相手にする必要はありません。

仮想手順
▲1三歩 △2一玉 ▲4一龍


 
結局▲4一龍まで進んで詰んでしまいました。さて、この▲4一龍に対処できる合駒はなんでしょうか?


 
以下の手順
△1四角合


 
どうせ取られない合駒ですから、高い駒で目いっぱい利かすのが正解。これで4一に玉方の利きができましたが…。

以下の手順
▲1三歩 △2一玉 ▲4一龍 △同角 ▲1二歩成まで11手詰。


 
かまわず同じ手順に飛び込みます。▲4一龍△同角で香の利きが通るため、▲1二歩成と先ほど打った歩を再活用して詰上がります。先ほどと少し理屈は違いますが、合駒が正しく選ばれた時だけ大駒捨ての収束となるのは同じ。優れた構成を簡単にまとめた作品です。

3、単純にセンスがいいとしかいいようがない作品

もう少しまともな小見出しをつけたかったのですが、思いつかなかったので仕方ありません。実戦感覚と離れた、詰将棋らしい感覚が表現されているなと感じた作品です。


BSプレミアム「一二三!羽生善治の大逆転将棋」(2018.1)

この作品、6手後にこうなります。


 
持駒の香を犠牲にして、3四にあった角を消しました。そのことによって以下▲1四龍までの詰みとなります。こういうふうに、「角を消すパズルですよ」とメッセージがはっきりしている作品は、解くのが易しくてもやはり印象に残ります。そのための手順にも詰将棋らしい一工夫が施されていますので、もう一度初形に戻って見ていきましょう。
 
問題図以下の手順
▲1五香


 
香の打ち場所は二か所しかないので考えずに打つ方も多いかと思いますが、これは一応限定打。それは以下の手順と関係してきます。

以下の手順
△2四玉 ▲2三角成


 
懸案の角をここで捨てます。このとき、△2五玉と上に逃げる手がありますが、それに対しては▲1四馬と引いて詰み。初手で1四に香を打っていると、それが邪魔になって詰みません。では、次のような手はないのでしょうか。

仮想手順
△1四桂合


 
安い駒を1四に捨てて、香を釣り上げておいてから△2四玉と逃げようという狙いです。実際、▲同香と飛びついてしまうと先に書いた通りにこの香が邪魔になって詰みません。そこで、この妙手を食らった時だけ炸裂する手段があります。

仮想手順の続き
▲1二角成


 
遠くに成り捨てる▲1二角成が妙手。△同玉に▲1四龍とすれば、ブースター付きのロケットができあがっていて合駒が利かない仕掛けです。


 
以下△2一玉▲1一龍と追って詰み。というわけで後手の妙手△1四捨合にはそれを上回る妙手があって詰む仕掛けになっており、玉方もこのルートは結局選びません。解いてみてもこの変化に気づかない方も多そうに思えますが、かなり奥深い変化が潜んでいるのでした。なお、この筋は詰将棋作家の若島正さんが開発した通称「若島手筋」と呼ばれている手筋。若島さんの著書を愛読しているという藤井七段のことですから、その点は当然念頭にあるでしょう。さて、本手順に戻りましょう。


 
以下の手順
△2三同玉 ▲1三香成 △同玉 ▲1四龍まで7手詰。



本手順では、役割を終えた香を成り捨ててあっさり詰み。上記のいろいろな変化を内包しながら、結局やっていることは角の消去につきる、という潔さがこの作品のいいところ。マニア受けする手順を変化に隠して、一見こぢんまりとした短編にまとめており、センスがいいとしかいいようがありません。

いかがだったでしょうか。普及用の作品だからといって、藤井七段はいささかも手を抜いていないことがおわかりいただけたのではないかと思います。むしろ、難しいことを簡単そうに表現する、という詰将棋センスが存分に味わえる作品群となっています。
今回は初心者の方にもわかりやすい作品を特集しましたが、しばらく藤井七段の創作はこうした普及用の作品が中心になると思われますので、本稿を読んで興味がわいた方はぜひ自分でも解答に挑戦してみてください。本稿がそのための一助になれば幸いです。

【余談の続き】

 
なぜ4五の駒が歩ではなく香なのか、おわかりになったでしょうか?
4五の駒が歩だと、初手から次の手順があります。

▲3五金 △4三玉 ▲4二飛 △5四玉 ▲5二飛成

 

並の人なら大海に逃げられて捕まらないと判断する局面です。専門的な呼び方では「検討用の紛れ」というやつで、これはつまり、この紛れを実際に読む解答者はいないのだけれど、作品の完全性に責任を持つ作家としては読んでおかなくてはならない筋ということです。

ところがこの筋が意外と強力。▲5二飛成に△6五玉は▲5五龍△7六玉▲6六龍△8五玉▲8七香以下詰み(一度8六に中合が利いたりいろいろありますが省略)。そこで△6四玉と逃げますが、▲5五龍△7三玉▲6二角成△8二玉▲8九香として、△8三合駒は▲同香成△同玉▲8五龍以下変化はあるもののすべて詰み。そこで△9二玉とかわしますが、4五の駒が歩だとこのとき▲4七角の応援が利いて詰みます。


 
というわけで、この▲4七角を△同香成と取る手を見越して、4五の駒は香でなければならなかったというわけです。
冒頭で書いたことと少し意味は違いますが、これも「易しい作だからといって作るのが易しいわけではない」の一例。解く方は正解手順さえ読めばいいのですが、作るほうは全部の筋を読まなければならないというわけですね。ということで、易しい作の中にも藤井七段の深い読みの一端が内包されているということをご紹介したところで今回はここまで。ありがとうございました。


 
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