第2回:エンゲージメント・マーケティングとは?  (2)エンゲージメント・マーケティングの背景|Tech Book Zone Manatee

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Engagement First!

第2回:エンゲージメント・マーケティングとは?  (2)エンゲージメント・マーケティングの背景

マーケティング1.0が商品を大量に生産し、マス・メディアで多くの人に認知してもらい、あらゆる場所で購買してもらう手法だとすれば、2010年ころから広がっている「マーケティング3.0」は、企業がその価値を顧客や関係者と共創し、共感した顧客とともに広げていく手法だと言えます。1940年代よりワークしてきたマス・マーケティングからの大きなパラダイムシフトだと思われます。
電子書籍『Engagement First!』はマーケティングにおけるエンゲージメントを掘り下げ、その重要性を論ずるとともに、実践的な活用に活かせるよう、最新かつ普遍的なエンゲージメントマーケティング論を展開しています。その一部を4回にわたって掲載していきます。
第2回目はエンゲージメント・マーケティングの背景を分析します。
  では何故、今エンゲージメント・マーケティングなのでしょうか? 大きく分けると6つのポイントが考えられます。

 

 1. テレビ及びテレビ広告を見る人たちが減ってきている
 2. 信頼する広告は知人の推奨
 3. 商品のコモディティ化に伴い、機能やデザイン以外の企業やブランドが提供する価値が重要になってきた
 4. ソーシャル・メディアの普及で口コミがパワーを持ってきた
 5. 従来型マーケティング・リサーチだけでは限界
 6. 若年層を中心に社会的課題意識が高まり、社会的課題解決に取り組む企業やブランドを選ぶ傾向が高まっている

すなわち、効率的に消費者にモノを買ってもらう企業理論でのマーケティング手法であるマスマーケティングが万能で無くなったということです。背景を少し掘り下げてみましょう。

 

背景1:テレビ及びテレビ広告を見る人たちが減ってきている

2014年はメディア史上に於けるターニングポイントの年でした。次は博報堂DYの調査ですが、ネットの視聴時間がわずかではありましたがテレビの視聴時間を抜いたのです。

無論、テレビを見ながらのスマホ活用は、若年層においては普通の閲覧態度なので行動としてはかぶっている訳ですが、いずれにしろネット利用の拡大がここまできたという感じです。スマホの伸長とともにこの傾向は一層強まるものと思われます。

 

背景2:信頼する広告は知人の推奨

次は調査会社ニールセンのグローバルでの調査「Global Trust in Advertising (信頼する広告)」です。

この調査は、Paid Media のみならず、Earned Media、Owned Mediaという三つのメディアでの広告という観点から信頼度を調査したものです。上位4つはEarned Media とOwned Media で、5番目にテレビ広告が入っています。下位はデジタル有料メディアになります。昔から口コミは購買プロセスに於いてはパワフルなコミュニケーションだとは言われていましたが、SNSなどで生活者の声はよりパワフルに拡大し、可視化される時代になり、マーケティング・コミュニケーション上でも重要な「広告媒体」になってきたわけです。

 

背景3:機能やデザイン以外の企業やブランドが提供する価値が重要になってきた

商品のコモディティ化が進み、生活者は一見しただけでは商品機能の違いは分からなくなってきています。しかし企業は、従来のマーケティングのテーマである「差別化」のための差別化を行い、生活者をよそに競合との小さな差別化で凌ぎを削っているのが現実です。
無論、商品そのものが重要であることは基本ではありますが、生活者はそれ以外どんな要素が重要なのでしょうか?

 

筆者の会社が2016年1月に実施した調査(「社会課題と消費」n=4,847)では前図のような結果が出ています。これによると生活者は商品やサービスを購入する際に、企業の考え方や姿勢を重要視していることがわかります。

更に商品やデザイン以外で重要視する企業姿勢としては下記が挙げられました。(複数回答)


背景4:SNSによる口コミパワーの拡大、可視化

SNSなどでオープン化された社会において、生活者は透明性の高い、真摯なコミュ二ケーションや前述したCSVにもつながる企業の社会的課題解決姿勢が重要だとして掲げられています。
背景2のニールセンの調査でも明白なように、情報過多の現代において知り合いの口コミほど重要なものはありません。そしてその口コミがSNSにより拡大し易く、かつ、可視化されるようになりました。少し前の数字になりますが、筆者の会社のWebサイトでの実績を共有することにより説明しましょう。

 

2013年筆者の会社(www.members.co.jp)上で配信したコンテンツにはFacebookの「いいね!」「シェア」、言い換えるとサイト来訪者の共感、そして推奨が2,667回されました。そして、その2,667人(延べ人数)の共感、推奨がFacebook上での口コミとなり1,556,000回の表示がなされました。その表示を見た方の内26,730人(延べ人数)が筆者の会社サイトに訪問しました。すなわち延べ2,667人の共感、推奨が延べ26,730人の方の訪問を誘因したのです。筆者の会社の場合広告費は原則掛けないので、これは顧客との共創によって創出された実績になります。

 

背景5:従来型マーケティング・リサーチの限界

これは定量的なものはありませんが、亡くなった Apple のCEOスティーブ・ジョブズ氏がリサーチを信用しておらず、基本的には彼が主導のプロジェクトではマーケット・リサーチを行わずに商品開発をすすめたという逸話があります。リサーチにもいろいろとパターンはありますが、一般的に行われている、なるべくバイアスがかからないように、代表性を持った母数をそろえたアンケート調査では、競合も同様のことをやっており、結局競合と同じような商品ができるわけです。我々は、他も考えないユニークなアイデアは、実はそのブランドや商品の一番の顧客(エンゲージメントが高い顧客は喜んで意見を出す!)に聞くことだと考えます。スティーブ・ジョブズの場合は自身が最も自社製品のエンゲージメント・ユーザーだったので、マーケットで一般的リサーチで出てくることを期待せずにすんだのでしょう。彼に取ってはむしろ、それはノイズだったと思われます。

 

背景6:社会的関心の高まり

前述したコトラーのマーケティング3.0では、消費者を「より成熟した生活者」としています。すなわち、単なる消費をするばかりの「受動的な消費者」ではなくなり、社会的な意識の高い「生活者」という位置づけです。近年社会的課題は様々な形で起こっており、我々日本人は神戸や東北での大震災や食料問題などが身の回りで起こっており、社会的な課題を意識しない人はむしろ少数派だと思います。これら意識の高い生活者に対しては従来型のマスマーケティング発想=差別化、価格での訴求は通じないでしょう。次のチャートは前述した筆者の会社の調査ですが、72%の方が社会的な課題解決に興味があると答えており、また、49%の方が社会的課題に取り組んでいる商品を購入していると答えています。

今後このような生活者に共感していただくためには、企業も社会的な課題を一緒に解決するという競争活動が重要になるものと思われます。

 

著者プロフィール

原 裕(著者)

原 裕(はら ゆたか)

株式会社エンゲージメント・ファースト 代表取締役CEO

株式会社メンバーズ 執行役員



1961年生まれ。1984年にアメリカン・エキスプレス・インターナショナル 日本支社に入社、加盟店営業、加盟店マーケティングを経て、1996年にJ.W.Thompsonのインタラクティブ事業会社Dialogue に入社。取締役ジェネラル・マネージャーを務める。その後1999年に株式会社メンバーズに入社、営業・マーケティング担当執行役員として、大手企業のマーケティングにおけるネット活用の コンサルティング、サイト構築、運用業務を行い、2012年にCSVコンサルティングを目的とした子会社エンゲージメント・ファーストを立ち上げる。

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