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Engagement First!

第1回:エンゲージメント・マーケティングとは?  (1)エンゲージメントの定義

マーケティング1.0が商品を大量に生産し、マス・メディアで多くの人に認知してもらい、あらゆる場所で購買してもらう手法だとすれば、2010年ころから広がっている「マーケティング3.0」は、企業がその価値を顧客や関係者と共創し、共感した顧客とともに広げていく手法だと言えます。1940年代よりワークしてきたマス・マーケティングからの大きなパラダイムシフトだと思われます。
電子書籍『Engagement First!』はマーケティングにおけるエンゲージメントを掘り下げ、その重要性を論ずるとともに、実践的な活用に活かせるよう、最新かつ普遍的なエンゲージメントマーケティング論を展開しています。その一部を4回にわたって掲載していきます。

 

エンゲージメントの定義 ─アメリカ広告調査財団

ソーシャルメディア・マーケティング関連で「エンゲージメント」という言葉が使われだして久しいですね。やはりFacebookが使いだしてからだと認識していますが、この「エンゲージメント」という言葉がマーケティング関連で使われだしたのは、実は2004年アメリカ雑誌協会が広告接触の深さを表す指標としてエンゲージメントという言葉を指標化しようとしたり、2006年4月アメリカ広告調査財団(ARF)ではGRPに代わる広告指標として検討したり、定義したりと意外に古いようです。(日経BP社LAP Aug.2006)

"Engagement is turning on a prospect to a brand idea enhanced by the surrounding context.“
(関係する文脈の強化により、潜在顧客をブランドアイデアに自発的に向き合ってもらうことをエンゲージメントと定義する)

背景には「メディアの細分化と『物申す生活者』の登場とにより、広告を受け手に届けるには今までとは全く異なる発想が必要だ」(全米広告主協会のシニアVP、Barbara Bacci-Mirque) などの発言にあるように従来のGRPを主とした広告管理指標での効果測定に限界があるのだと思われます。
更に言うとエンゲージメントは、言うまでもなくマーケティング用語ではなく、英語の意味は「理解しようとの意図を持って誰か/何かに関わること」(Oxford Advanced Learner's Dictionary, 6th edition )とあり、その語源の一つは、ユダヤの法律「Torah」で結婚を表す言葉、とのこと。日本語では、婚約、約束、契約、債務、雇用、雇用契約、(歯車などの)噛み合い、グループ活動への参加、交戦、とあります。この「理解しようとの意図」がマーケティングでは最も重要なことだと思います。
ここ数年、マーケティング用語としてのエンゲージメントが定着してきた要因の一つは間違いなくFacebookの普及でしょう。友人とつながり、好きな企業やブランドとつながり、更にその投稿に「いいね!」「シェア」などの口コミ機能を通じて広げていくアクションは、「理解しようとの意図を持って誰か/何かに関わる」行為そのものだと言えます。企業やブランドもFacebookページでの「いいね!」「シェア」を重要視しており、顧客とのエンゲージメント強化を目的におき、KPI(Key Performance Indicator 重要管理指標)をエンゲージメント率に設定する企業も多いようです。前述したように、2006年にARFが指標化しようとした段階ではなかなかその効果的な測定手段はなかったのですが、現在は最も分かりやすく、可視化されたブランドと顧客の関係性指標としての「エンゲージメント」だとも言えるでしょう。エンゲージメントは単なる商品のデザインやスペック、ましてや価格だけの話ではなく、企業とブランドとの共通の価値観が一致したときに深いエンゲージメント状態になるものと思われます。そういう意味では2010年頃からグローバルのリーディング企業、例えばネスレなどで採用されているCSV(Creating Shared Value):共通価値概念にもつながっているものと思われます。CSVは本書でも取り上げていきたいと思います。

 

エンゲージメント・マーケティングの定義

エンゲージメント・マーケティングとは、企業やブランドが顧客や生活者とより深い関係性を築き、顧客や生活者が単なる商品やサービスの消費者、購買者あるいは愛用者から、その商品やサービス、あるいは企業価値を「自分事」として捉まえ、その商品やサービスをよりよくするための企業と顧客の「共創活動」を推進していくマーケティング手法と定義します。
なお、参考までに Wikipedia にはこのように記されています(http://en.wikipedia.org/wiki/Engagement_marketing)。

“顧客との絆を築き、ブランド進化・発展(のプロセス)に顧客を招き、継続的に参加してもらうことを促進するマーケティング戦略 。エンゲージメント・マーケターは、顧客は単なるメッセージの受け手というより、積極的に製品やマーケティングプログラムの共創、ブランドとのリレーション強化・維持に参加するとの考えをベースにしている”(下線部分は筆者加筆)

Engagement marketing is  is a marketing strategy that directly engages consumers and invites and encourages consumers to participate in the evolution of a brand. Rather than looking at consumers as passive receivers of messages, engagement marketers believe that consumers should be actively involved in the production and co-creation of marketing programs, developing a relationship with the brand.

従来の視点と違うのは、顧客や消費者が企業からのメッセージの受け手ではなく、ブランドに対してより積極的な共創パートナーとして位置づけている点です。
今日のマーケティングの基礎を築いたフィリップ・コトラーは2010年の自書『マーケティング3.0』で次のようなチャートを用いてこれからのマーケティング・アプローチを記しています。この中でマーケターは機能の差別化競争から脱却し、企業/ブランドは顧客/関係者と共有できる価値を創造すべきだと説いています。そしてマーケティングの目的を「世の中をよくする(Make the  world a better place.)」こととしています。

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エンゲージメント・マーケティング・モデル

筆者の考えるエンゲージメント・マーケティングは、まさにこのマーケティング3.0の実践に他ならないのです。
ではエンゲージメント・マーケティングはどのようなモデルなのでしょうか? 次は筆者の会社とU’eyes Design社で共同開発したモデルを図にしたものです。

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我々のモデルでは、「推奨」と「参加」をエンゲージメントを高める因子として重要視しています。これらの体験が信託度を高め、再利用を促すものと考えます。
次のチャートは筆者の会社が2016年1月に実施したエンゲージメント・モデルに関する調査(n=4,578)です。筆者の会社に関わりの深い業界に於ける顧客のエンゲージメント状況を調べたものです。

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我々のエンゲージメント・モデルに基づいた質問を、実際に利用している顧客に答えていただき、エンゲージメントを構成する因子の違いを企業毎、業界毎に比較調査したものです(チャートは業界比較)。
ご覧いただいてお分かりのように、銀行、カード会社という金融は機能的な満足度は高いものの、エンゲージメントを高めるためにに重要な「推奨」や「参加」意向は弱く、ファストファッション業界はその意向が高く出ています。金融というインフラなので難しいところではありますが、一方、「推奨」や「参加」意向を高め、エンゲージメントを深めることができれば競合との差別化につながります。しかしながら競合との機能差別化を中心にしたマーケティング活動になっていることは否めません。
繰り返しになりますが、エンゲージメント・マーケティングとは、商品やサービスを積極的に推奨してくれたり、提供するプログラムやコミュニティへの参加、コールセンターへのフィードバックなどを行ってくれるエンゲージメントの高い顧客との共同のマーケティング活動ということなのです。

著者プロフィール

原 裕(著者)

原 裕(はら ゆたか)

株式会社エンゲージメント・ファースト 代表取締役CEO

株式会社メンバーズ 執行役員



1961年生まれ。1984年にアメリカン・エキスプレス・インターナショナル 日本支社に入社、加盟店営業、加盟店マーケティングを経て、1996年にJ.W.Thompsonのインタラクティブ事業会社Dialogue に入社。取締役ジェネラル・マネージャーを務める。その後1999年に株式会社メンバーズに入社、営業・マーケティング担当執行役員として、大手企業のマーケティングにおけるネット活用の コンサルティング、サイト構築、運用業務を行い、2012年にCSVコンサルティングを目的とした子会社エンゲージメント・ファーストを立ち上げる。

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