教育・医療・Biz iOS導入事例

“See-Think-Wonder”から始まる、ワクワクに溢れた学びの入り口

文●神谷加代

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

子どもたちの知的好奇心を刺激する“ワクワク”を与えることは簡単なことではない。 しかし、教育者である以上、このチャレンジングな難問に貪欲に挑んでみたい。 そうした想いで教育を追求し続けているのが、千代田インターナショナルスクール東京の箱根かおり教諭だ。

 

学校内で終わらせない

東京都千代田区の千代田インターナショナルスクール東京で日本語を教える箱根かおり教諭は、前職であるアメリカンスクール・イン・ジャパンの高等部在籍時に2011年度のADEに認定された。本業である教師の仕事とADEの活動を継続するのは簡単なことではないが、7年間もADEとして活躍している。

2011年といえば、日本ではまだアップル製品を導入する教育機関は少なかった。そんな中、箱根教諭はアメリカンスクール・イン・ジャパンで3週間ほどMacを借りる機会に恵まれ、そのときに初めて触ったという。

  「もう新しいおもちゃをもらったように面白くて、面白くて。ADEの募集を聞いたときも、すぐに“やります”と応募しました」と同教諭は当時を振り返る。

箱根教諭は自身が起ち上げた「ブックトレーラー」プロジェクトを提出し、ADEに応募した。ブックトレーラーとは映画の予告編を意味する「ムービートレーラー」をもじった造語で、テクノロジーを駆使して「本の予告編」の動画を制作する活動だ。

当時、高校生を受け持っていた箱根教諭は、生徒たちに日本語の勉強に対する価値を見い出させることに課題を抱えていたという。生徒たちが自分から日本語を読み、それを分析するモチベーションを上げるためにはどうすればいいのか、と悩んでいたときに出会ったのがブックトレーラーだった。

  「デジタルネイティブ世代の生徒にブックトレーラーを作成させてみたところ、自ら日本語の本を読み込み、授業で学んだ文学の分析に応用し始めました。創造力も養うことができるうえ、答えもひとつではありません。すぐにこれは使えると思いました」

その結果、この取り組みは文学のクラスのプロジェクトの1つとして、インターの生徒から好評を得ることができた。

箱根教諭がすごいのはここからだ。どうせなら学校内の取り組みで終わらせず、学校外でつながって生徒同士が作品を交流できるほうが面白い。そう考えた箱根教諭は、それから数年かけてブックトレーラーを複数のインターナショナルスクールが参加するコンテストへと発展させた。その名も「さくらメダル ブックトレーラーコンテスト」。現在はインターナショナルスクール間の年次コンテストとして定着している。

  「作品公開後、違う学校の生徒同士がフェイスタイムで交流すると、彼らは“なぜあのシーンを選んだの?”“あの動画はどうやって作ったの?”と話し合うんです。また、自分が選んだ作品と同じ作品の動画を見て、もう一度書籍を読み直して登場人物の行動を追いかける姿も見られました。私が“主人公の気持ちを考えなさい”と問題を与えるよりも、日本語を好きになって、文学も深めていけるのではないかと感じました」

 

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Apple Distinguished Educator 箱根かおり

国内外で教員および、教員への指導研修、各分野との教育関連の共同研究に尽力するほか、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州教育省管轄の試験作成などに従事。2011年ADE 認定後、APACアドバイザー理事を歴任。現在、千代田インターナショナルスクール東京の日本語科主任の傍ら、 IB試験官を10年以上務める。またオリンピックでの国際映像収録の経験をブックトレーラーコンテストなどに役立てている。

 

 

“ワクワクな学び”の入り口へ

根教諭は現在、千代田インターナショナルスクール東京で小学校高学年を受け持っている。同スクールは2018年4月に小学校を開校したばかりで、2019年に中学校と高校の開校を予定している。小学1年生からiPadを導入し、1年生は共有で利用するが、2、3年生は一人1台のiPad、4年生以降はMacBookを一人1台で使うという。

オーストラリアでの教員経験もある箱根教諭にとっては、このような環境も当たり前のようで、「いろいろな教科でテクノロジーを使いますが、学習の目的によっては使わないこともあります。子どもたちが選べること、何のために使うのかが大切だと思います」と同教諭は語る。

現在の小学3年生のクラスでは、ページズ(Pages)を使ったポスターづくりや、あいうえお作文、デザインツール「スケッチ(Sketch)」を活用したプレゼンテーションなど、さまざまな活動にテクノロジーを活かしている。

以前から箱根教諭が力を入れていることのひとつに「考える力を伸ばす」活動がある。例として挙げるのは「See-Think-Wonder」だ。これは、簡単にいうと論理的思考力を伸ばすディスカッションで、たとえば、ひとつの写真を提示し、「何を見て、何を考え、何に疑問を持ったのか」を系統的に述べていくというもの。一例として、箱根教諭が見せてくれたのは、着物を来た人が茶室に入る写真だ(下部図版参照)。インターに通う子どもたちに「この写真は何が行われていると思う?」と聞くと、日本料理店じゃないか、ペット小屋の入り口ではないか、男の人が掃除をしているのではないかなど、さまざまな意見が出てくるという。そこから、いったいこれは何の写真だろうと考え、疑問を持つように導いていく。そんなディスカッションを行うことで、子どもたちの“ワクワク”が始まり、調べたくなるモチベーションを刺激する。

  「これは、子どもたちに日本の“”がどのようなものなのかを教えたくて、取り入れた活動です。教師が“道とは~である”と教えてしまうことは簡単ですが、学ぶときは最初に“ワクワク”することが大切だと思っています。その点、この活動は決まった答えがない問題を出して、皆で“なんで?”と言いながら話をするので、ディスカッションも広がります。子どもたちが自分で気づく場面も作ることができるし、何年やっても違う答えが出てくるので面白いですよ」

子どもたちがワクワクすることを考えることが教師の仕事。箱根教諭の原動力はここにある。

 

 

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箱根教諭が始めた「ブックトレーラー」プロジェクトはやがてコンテストへと発展した。今では全国のインターナショナルスクールが参加している。生徒たちの作る作品は多様で、コマ撮り、アニメ、家族が登場する動画、GarageBandを使った音楽など個性豊か。他校の生徒を含め、さまざまな人が自分の作品を見てくれるということが、参加した生徒の励みになるという。【URL】https://sites.google.com/view/booktrailercontest/

 

 

やってみたいことを形に

そんな楽しい学びを追求する箱根教諭であるが、教師としてのキャリアも独特だ。同教諭はオーストラリアの大学を卒業したあと、そこで教員になった。そのあと、持ち前の語学力を活かして教師だけでなく、シドニーオリンピックでカメラマンのアシスタントとして働いた経歴を持つ。箱根教諭は「昔から写真や映像に興味がありました。だからMacに初めて触ったときもiMovieが楽しかったです」と語る。

そして日本のインターナショナルスクールに移った箱根教諭は、精力的に活動を展開。オーストラリアとの交流授業を実施したり、東北の公立小学校とつながって英語の遠隔授業をボランティアで行うなど、学校以外の場でも生徒たちが学びをとおしてつながる環境を作った。

箱根教諭の言葉からは、自分のアイデアベースに“ワクワクな学び”をつくりたいという想いが伝わってくる。実際に箱根教諭自身も「ADEとして海外研修に行くと、海外の先生たちの事例を聞いて“自分もやってみたい”と思います」と語っている。

ADEとして長く活躍する箱根教諭は、日本のADEコミュニティについて「お互いのプロジェクトを知って、フィードバックできる仲間“クリティカルフレンズ”になってきた」と語る。当初は自分が意見を言っていいのだろうかと思うこともあったというが、今ではADE同士が校種を超えて、互いに高め合える仲間になってきたというのだ。

“ワクワクな学び”のためなら、貪欲に挑戦する箱根教諭。そんなアクセルを持つ教育者に子どもたちがブレーキをかけるはずがない。

 

 

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See-Think-Wonderの活動で、箱根教諭が使用した写真の一例。子どもたちはこの写真を見て、何を表し、何が起こっているのか、何を考え、疑問に思うのかを述べるという。箱根教諭曰く、「教師が子どもたちに何を見せるか、それを選ぶのが非常に難しい」とのこと。今も試行錯誤中で、うまくいかないこともあると話す。

 

 

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生徒がPagesで作ったポスター(上)と、Sketchで作った歌舞伎に関する調べ学習のアウトプット(下)。特徴的なのは、絵や写真を多く使っていることだ。「日本の学校は読んだり、書いたりが多いですが、文字をたくさん書いてしまうと、それを読みながら発表してしまいます。絵や写真を見ながら話すことでプレゼンテーションの力を伸ばします」(箱根教諭)。

 

 

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箱根教諭のティーチングや取り組みを知りたい教育者は海外にもいる。写真はアメリカ・ネバタ州の公立の高校で箱根教諭が研修している様子。ほかにもアメリカ・ネブラスカ州やオーストラリア・タスマニア州の小学校からオンラインの交流授業の依頼が来たりするなど、海外との接点が非常に多い。

 

箱根かおり教諭のココがすごい!

□学校内のプロジェクトに終わらせず、 ほかの学校を巻き込んでひとつのコンテストを作った
□欧米で研究された思考法で学びの入り口を作り、 子どもたちの自発的な学びにつなげている
□海外の教育者の事例を積極的に取り入れ、 新しい学びの形を貪欲に追求している



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