「Everyone Can Create」が形成する子どもたちのアイデンティティ|MacFan

教育・医療・Biz iOS導入事例

「Everyone Can Create」が形成する子どもたちのアイデンティティ

文●神谷加代

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

人が何かを表現するとき、必ずそこには自分の“思い入れ”がある。言葉ではっきり伝えられなくとも、自分のアイデアがアウトプットされたことで始まる学びがある。“教科の中に表現活動を”クリエイティブな活動に積極的に取り組む東京成徳大学中学・高等学校の和田一将教諭に迫る。

 

創造は、自分の本質をつくる

アップルが2018年秋にスタートする新しい教育カリキュラム「エブリワン・キャン・クリエイト(Everyone Can Create)」。これは、問題解決やコミュニケーション、コラボレーションなどの能力を伸ばすために、ビデオや写真、音楽やスケッチなど、クリエイティブな表現を既存の教科の中に取り入れようというものだ。昨今の研究では、クリエイティブな思考は、学習者の関心を高め、主体的な学習につながるとの報告もあるという。つまり、知識や技能を受け身に覚えるのではなく、学んだ内容をいかに創造的にアウトプットできるかが、学習効果に影響するというわけだ。

このような学習をADEになる前から積極的に実践してきたのが、東京成徳大学中学・高等学校の英語科・和田一将教諭だ。同教諭はアップルファンが多いADEの中にあって、Mac歴も2年と短いが、これまでに取り組んできた実践内容はエブリワン・キャン・クリエイトの方向性と一致している。

 「ADEの存在を知ったのは遅いほうだったと思います。自分としては留学プロジェクトの担当でニュージーランドの教育を見る機会に恵まれていたので、そこで得た知見を活かし、日本でも何かできることはないかと考えてこれまでやってきました」

東京成徳大学中学・高等学校は、全生徒が3カ月間ニュージーランドへ留学するプログラムを実施しており、和田教諭は現地校の教育に触れる機会が多い。そこで見た教育を日本で実践していくうちに、ADEの理念やアップルが目指す教育と重なってきたという。

 「以前からスマートフォンを活用して動画を交換したり、海外の教師同士がつながる『ePals』というサイトを活用して交流したりと、その単元で学んだ内容をアクティビティにつなげる学習に取り組んできました」

ほかにも、修学旅行のしおりをiBooksオーサー(iBooks Author)で作成したり、東京のガイドブックを生徒たちと作ったりと、クリエイティブなアウトプットに力を入れてきた。一般的に、こうした創作活動を授業で取り入れるのはADEになってからという教師が多いが、和田教諭は違った。

 「クリエイティブな学習活動というと、企業が求める人材が変わってきたから学校でも取り組むべきだといった意見もあります。でも私は、自分とはどういう人間なのか、アイデンティティを確立するためにやるべきだと考えています。大げさに聞こえるかもしれませんが、表現は自分をつくることの本質につながると考えているのです」

 

 

Apple Distinguished Educator 和田一将教諭

東京成徳大学中学・高等学校英語科教諭(国際交流部課長・ICT教育推進部)。2016年の春、知人の勧めでMac Book Pro(Early 2015)を購入。Mac歴2年弱。国際交流や英語の授業などを通じて、多様性を認め、多様な価値観の中で活躍できる人材を育成している。2017年にADE認定。最近の趣味はポケモンGarageBandいじり。

 

 

教科の学習に表現活動を

京成徳大学中学・高等学校は1年の準備期間を経て、2017年度に新中学1年生、新高校1年生を対象にiPad 導入し、一人1台体制を実施した。現在は約600台の端末が稼働している。

和田教諭は生徒一人1台の環境を活かして、さまざまな学習を実践している。たとえば中学1年生で過去形を学んだあとは、歴史上の人物を紹介するチラシづくりを行った。どのような人物だったのか、何を成し遂げたのかなど、生徒たちは学んだ過去形を使いながら文章を作成する。この活動において、和田教諭が与えたポイントは2つある。ひとつは、ネットで検索しても出てこない情報を盛り込むこと。もうひとつは、歴史上の人物が成し遂げた偉業は、SDGs(国連が提唱する世界を変革するための17の目標)のどれに当てはまるのかを考えるというもの。和田教諭は単に英語の過去形を使うことだけを目的にせず、生徒がよりクリエイティブに考えるための問いを用意するなど、意識しているという。

また中学2年生の英語では、名作童話『ピーターラビット』を取り上げ、本文を日本語に訳して理解するのではなく、生徒たちが英語で理解した内容を“4コママンガで表現しよう”という活動に取り組んだ。エブリワン・キャン・クリエイトでも重視されている“スケッチ(Drawing)”に値する活動で、アイデアを形にする手段として絵で表現できるスキルに価値が高まっている。和田教諭は「意外にも、中学生の男子が楽しく取り組んでいます。絵を描くことで、日本語を介さずに英語を理解する学習にもつながり、物語に対しても愛着が持てるのが良いですね」と語る。

このようにエブリワン・キャン・クリエイトを意識した取り組みを積極的に行う和田教諭であるが、もっとも頭を使ったのが「ガレージバンド」の活用だという。エブリワン・キャン・クリエイトでは音楽表現も重視しているが、英語の単元に落とし込むのは難しいようだ。とはいえ、“やらない”という選択肢は和田教諭にはなく、中学2年生の英語で、小笠原諸島の自然環境について扱った単元でガレージバンドを利用した。生徒たちは、和田教諭が作成したガレージバンドの解説動画を見ながら、基礎的な操作方法を習得。その後、簡単なBGMが作成できる「Live Loops」という機能を使ってオリジナルの音楽を作成し、それをバックに英語の本文を音読したオーディオブックを作成した。

「初めての取り組みだったので改善点は多くありますが、生徒たちもこういう形になると、発音を頑張りたいと思うのか、必死になって音読を練習していた姿が印象的でした」

ほかにも、教育実習生に対してもアクティビティを盛り込んだ授業を担当してもらい、受動態を学ぶ単元で観光案内のビデオを作成したり、環境問題について自分が描いたイラストを使ってプレゼンテーションをする活動を行うなど、さまざまな取り組みを実践している。

 

 

和田教諭は単元の学習が終わったあとに、その内容に関わるアクティビティを多く取り入れている。たとえば、中1英語では過去形を学んだ際に歴史上の人物を紹介するチラシづくりに挑戦した。生徒がよりクリエイティブになれる問いかけも与えている。

 

 

日本の教育を変えたい

エブリワン・キャン・クリエイトのような教科の学習の中に表現や創作を取り入れた活動について和田教諭は「生徒たちが教科書の枠を超えた内容を発表したり、教師が思いもしないようなことをやる生徒が出てきたりするのが良いですね。iPadを使えば、教科書に少しのエッセンスを加えるだけで面白いことができるとわかってきました。21世紀型スキルを身につけるために、このような活動をどれだけ学校で体験できるかが、今後重要になってくると思います」と語る。

ニュージーランドの教育を何度も目の当たりにしてきた和田教諭にとって、日本の画一的な教育には問題意識を持たざるを得ない。生徒の人間力を育てるために、学校は本当に有益な学びの場にシフトできるのか。今こそ教育を変えていきたいと和田教諭は熱い想いを持っている。

「たとえば、日本の教育現場におけるICT活用をとってみても、同じカリキュラムを同じように取り組むために使われています。一方で、ニュージーランドや海外の先進校は個別学習にICTを使うのが当たり前で、自分のゴールや目的達成のツールとして活用します。つまり、学習は教えてもらうのではなく、自分たちで進めるのが前提で、ニュージーランドの教師はそれを後押しするために、小学校から『グロース・マインドセット(Growth Mindset=自分の成長は経験や努力によって向上できるという考え方)』を教えています」と和田教諭は語る。

「このような教育は、ニュージーランドにできて、日本にできないはずはないと考えています。ADEになってから、自分が目指す教育に向かって、“もっと走っていいんだ”と思うことが増えたので、どんどん新しい取り組みを実践していきたいですね」

学校は、生徒が成長できる場でなければ意味がない。和田教諭が取り組む多様なアクティビティには、そんな想いが込められている。

 

 

中2英語では、童話『ピーターラビット』を読んで、理解した内容を4コママンガで表現しようという活動に取り組んだ。上の写真は4コママンガを作成しているときの様子。アプリは「Paper」を使用。下の写真は男子中学生が作成したピーターラビットの4コママンガ。授業では作ったマンガを使ってプレゼンテーションも行った。

 

 

中2英語では、GarageBandでBGMを作り、それをバックに英語の本文を音読したオーディオブックを作成した。写真は和田教諭が作成したGarageBandの解説動画。この動画はiTunes Uで生徒たちに配信され、自学自習で基本操作をマスターした。

 

 

自分で描いたイラストを使ってプレゼンテーションを行っている様子。和田教諭曰く「ネット上の写真を貼り付けてスライドを作るプレゼンと異なり、生徒たちは非常に丁寧に取り組む姿が見られる」という。

 

和田一将教諭のココがすごい!

□ADEになる前からクリエイティブな実践に多く取り組み、Appleの教育理念と親和性が高い
□教科の学習に表現活動を加える、「Everyone Can Create」を意識した学習活動を多く実践している
□海外教育に関する知見を活かし、日本の教育の本当に足りないものを取り入れようとしている

 

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。世界45カ国で2000人以上のADEが、 Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。