2015.10.28
第46回星雲賞日本長編部門を受賞したSF作家、藤井太洋氏のApple小説です。
運転手のノキアがひび割れた液晶を光らせ、安っぽいM.PESA(エムペサ)の決済終了音が響いた。
「4万シリング(四万円)、だね。ありがとうよ、ジャンボの旦那。ここから水は有料だ。カートでもやって待とうぜ」
運転手はお手軽麻薬のカートの葉をひとつまみ口に放り込んで、こちらにも差し出してきた。
葉っぱを断った俺は助手席のシートの背にもたれた。土を固めただけの道路に立つ陽炎(かげろう)が弾痕の残る建物を揺らしている。
運転手が教えてくれた。ここは十年ほど前にイスラム過激派のアルシャバブに襲われた、トゥルカナ族の村落跡地だと言った。大人は殺され、子供は兵隊か、過激派の妻にされたのだという。