機上のジーニアス|MacFan

アラカルト Tales of Bitten Apple

機上のジーニアス

文●藤井太洋

《──をお持ちのお客様。いらっしゃいましたら、至急、前方ファーストクラスのギャレーまでお越しください》

アテンダントの切迫した声が飛び込んできた。慣れない機上、それもビジネスクラスの席の袖から出したトレイで細かい作業をしていたので、聞き漏らしていたようだ。俺はトレイに顔を戻して、iPhone6のネジを規定のトルクで締め上げた。発売から一〇年経つモデルだが、美品は西海岸の好事家に一五〇〇ドルで売れる。

一ヵ月前に黒海沿岸の漁師が引き上げた三〇〇枚のiPhoneを俺は一〇枚買い取って、レストアしながら運んでいるところだった。マネーロンダリングの受け渡しに失敗して沈んだ端末だろうが、豊富なジャンク部品と技術を持つ俺にとっては、今も金の延べ棒だ。

アナウンスが再び流れた。

《Appleストアのジーニアスご経験者様、または同様の経験をお持ちの方、いらっしゃいましたら、名乗り出てください》




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