Mac企業導入の最善線(3/5)|MacFan

SPECIAL

【特別企画】企業の成功事例から探る「オフィスでMac」の最適解

Mac企業導入の最善線(3/5)

文●牧野武文

【Mac導入事例2】コスト削減と差別化を図るためMac全社導入に踏み切る

 

 

安井家具株式会社
http://www.yasuikagu.co.jp

 

2014年に創業100周年を迎えた安井家具株式会社。名古屋大須の裏門前町に「安井タンス店」を創業して以来、タンスの製造から家具の卸業へ、卸業から家具小売業へと時代に合わせ事業を変化・進化させながら、地域の皆様に支えられ、成長してきた。現在は、家具だけでなくホームファッションや生活雑貨を取り入れた小売業として「デスティネーション・パワフル・エンターテイメント・ストア」をコンセプトとする「ファニチャードーム」を愛知・岐阜・三重の3県下に店舗展開を進めている。

 

切り札としてのMac

安井家具は名古屋地区で有名な家具とホームファッションの販売企業で、「ファニチャードーム」という名称の郊外型大型店舗を中心に、東海地区に9店展開している。今年、創業100年を迎えた老舗家具店だが、その経営は岐路に立たされている。

その理由の1つには、ニトリやイケアといった低価格家具店の進出がある。こうした家具店では自社で家具を大量生産することで大幅なコストダウンを図り、全国展開で大量に販売する。一方、安井家具は協力企業に家具を生産してもらい販売するモデルなので、全国展開、世界展開する低価格家具店に価格面で太刀打ちすることが難しい。また、高級家具に絞って展開する家具販売企業もあるが、長年一般消費者向けに「品質の良い家具をリーズナブルな価格で」販売してきた安井家具にとって、そちらに転換することも難しい。

では、何で勝負するか。安井家具が目指したのは、徹底したコストダウンと顧客満足度という商売の基本に立ち返ること。そしてそれを実現するために「アップルデバイスの全社導入」に踏み切ったのだ。現在、同社では250台ほどのパソコンが使われており、そのうちの40台ほどがiMacまたはMacBookエア。5年のリース期限が切れ次第、順次Macに置き換えていき、3年ほどでほとんどをMacにする予定だという。

 

 

取締役経営企画部部長・杉浦秀文氏(左)と、経営企画部主任・大山里江氏(右)。経営企画の観点から社内のIT化を積極的に推し進める。

 

iPodタッチで接客に変化

「コストダウン」と「顧客満足度」の両者を見事にまで実現している例が、ファニチャードームの販売員全員に支給されている400台のiPodタッチだ。伝統的な家具店の接客法は「尾行販売」と呼ばれるもの。お客が店内に入ってくるとすぐに販売員が張りつき、お客について回り接客をする。高級家具店ではこれが上質の接客方法として採用されているが、一般の家具店ではかえってお客にうるさく感じられ、「あそこの家具店は入りづらい」と思われるだけになってしまう可能性がある。

「私たちはゾーンディフェンス方式の接客をしています」(経営企画部・杉浦秀文部長)。ベッドならベッド、カーテンならカーテンという売り場ごとに深い専門知識を持つ販売員を配置し、その販売員は自分の売り場を中心に接客を行う。家具というのは「お持ち帰り」はきわめて少なく、販売時に在庫の確認と配送車の空き情報を確認する必要がある。以前は売り場で型番などを伝票に記入し、販売員はお客を待たせたままカウンターか売り場の中に設置されたパソコンの所に行き、在庫と配送車を確認し、お客の所に戻るということをしなければならなかった。

これがiPodタッチでがらりと変わった。ベッド売り場で買い物をすると、お買い物カードが渡される。それには連番管理のバーコードが付いていて、これをスキャナでiPodタッチに読み込むと、これがお客の仮番号となる。次にお客が選択した商品のバーコードを読み込む。これで「誰が何を選択したか」が基幹システムにWi│Fi経由で自動的に送信される。また伝票発行時にはiPadを利用してiPodタッチで選択した商品情報を取り込むことでスムースにクロージングができる。売り場でお客を待たせることなく、支払い精算以外の接客ができるようになり、同時に接客時間も短縮することでコストダウンを図ることができた。

 

 

Macから基幹システムへとアクセスしている画面。配車情報や在庫情報、顧客情報など、IBM i(AS/400)の基幹システムの情報を閲覧できる。

 

付属サービスを徹底活用

安井家具では、販売管理や在庫管理、勤怠管理などに「IBM i」(AS/400)上で動く基幹システムを利用している。「25年前ぐらいから使っていますが、とても優秀で満足しています。基幹システムを変える気はまったくありません」。ところが問題は、基幹システムの端末だった。今どき、時代遅れの黒い画面に緑の文字で表示されるというもので、操作法も難しい。「新人研修では基幹システムの操作だけに2日間かけますが、それでも入力ミスや操作ミスが起こるのです」。

そこでウィンドウズPCからエミュレーションして使うようにしたが、それも現場の店舗では難しく感じる。しかも、マイクロソフト・アクセスを使ってさまざまなアプリをつくり、基幹システムの情報を取り込むので、プロフェッショナル版を購入する必要があり、数万円するソフトを250台すべてのウィンドウズPCに入れなければならない。また、ワードやエクセル、パワーポイントといったソフトも250台分のライセンス料を支払う必要があり、ウィンドウズがアップグレードされればその購入費用も負担しなければならない。「ものすごい額のライセンスフィーをマイクロソフトに支払っています。他社はそれを必要なコストと考えているのでしょうが、私たちは違うことをしなければ生き残っていけません」。

杉浦氏はこのようなライセンスコストを削減するために、全社のパソコンをMacに切り替える決断をした。基幹システムにアクセスする仕組みは、自社開発。基幹システムの情報をWEBに表示する仕組みをつくったことでMacからも基幹システムにアクセスできるようになり、さらにiOSアプリを自社開発することで、iPodタッチやiPadからも基幹システムにアクセスできるようにした。

Macの場合、最新OSやオフィスに相当するiWork(ページズ、ナンバーズ、キーノート)は無料。OSがアップグレードされても無料か、または数千円。OS Xサーバにいたっては2000円だ。Macにすることで、従来の膨大なライセンス料が削減できる。「基幹システムは別にウィンドウズ上で動いているわけでなく、独自のOS上で動いています。ですから、基幹システムにWEBからアクセスできるソフトを自社開発すれば、ウィンドウズPCでなければならない理由はないのです」。従来はウィンドウズPCを5年リースで導入していた。この場合、ソフト代などを含めると、トータルで1台あたり約20万円から25万円程度のコストになる。しかし、Macにすると、それが13万円程度で済むのだ。

 

 

MacBookエアを持ち込んで会議を行う社員たち。アップルTVを接続したテレビやキーノートなどで作られた資料をもとにチームごとにディスカッションを行う。

 

販売員が使い慣れた機器を

杉浦氏の発想は、アップルの提供する無料あるいは低価格サービスを徹底的に利用することだ。店舗内の内線電話はフェイスタイムオーディオ、オフィス業務アプリは無料のiWork、ファイルの共有はアイクラウドといった具合だ。

さらに、店舗の販売員の半分以上はパートタイマーに支えられている。そういう人たちにも業務のシステム操作研修を行う必要があるが、iPodタッチやiPad、MacBookという構成ならば、スマートフォンを使い慣れている人であれば機器の使い方に多くの時間を割く必要はないという。「私たちのような家具販売業は、改革できる余地がまだたくさんあるんです。たとえばカーテンを販売するときは、まずお客さんのお宅に採寸にいきます。そして販売。それからお届け。3回人が動きます。これを電話と紙の伝票でやっていたら、ものすごい人件費の無駄が出ます。逆に言えばそこにIT投資をすることで、大きなリターンが期待できます」。

経営企画の観点から組織体の経営資源をいかに配分するか。現在においてそこにITの導入は切っても切り離せない問題だ。ウィンドウズを前提とした従来の仕組みを根本から見直し、トータルな環境でコストダウンを図りながら、自分たちの業務に最適なシステムを構築して、社員と顧客の満足度の向上を図った安井家具。使い慣れた基幹システムはそのままに、Macという実は安価に活用できるプラットフォームとの橋渡しのソフトを自社開発することで、それを実現した。「取締役(杉浦氏)が自ら本を読んでソフト開発にチャレンジしたり、ルータを取り付けにいったりなどもします。そうした経営企画部としての取り組みが、他の企業にはない経営戦略として弊社では身を結びつつあります」。

 

 

店舗内では、販売員全員がiPodタッチを持つ。また、iPadやMacBookも配備さており、住所の入力、伝票発行などに活用されている。

 

【アクセス】
安井家具では、基幹システムのIBM i(AS/400)とWEBブラウザの間をブリッジする部分をHTML5+CSS+ジャバスクリプト(Javascript)を利用して自社開発することで、iPodタッチ、iPad、Macから直接アクセスできるようにした。

 

【大山氏】
大山里江氏は数年前まではカーテンの販売担当だったそうだ。しかし、経営企画部に移り、今では社内のモバイルデバイスの管理やアプリ開発の指揮を執る。同社に関連のあるITベンダーが驚くほど、アップル製品の知識に長けた人物として同社の経営企画を支えている。