Mac企業導入の最善線(2/5)|MacFan

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【特別企画】企業の成功事例から探る「オフィスでMac」の最適解

Mac企業導入の最善線(2/5)

文●牧野武文

【Mac導入事例1】現場からの要請でじわじわとMacBook Airが広がる

 

 

株式会社アマナ
http://amana.co.jp/

 

アマナは1979年に広告写真制作会社としてスタート。その後10年間でデジタル画像制作とストックフォトのビジネスに進出し、1990年代にはビジュアルソリューションのリーディングカンパニーとなる礎を築く。2000年以降は広告や出版、WEBプロモーション、TVCMなど、さまざまなメディアで使用される写真やCG、動画といったビジュアルコンテンツの企画・デザインから制作、データベースでの管理・運用までのプロデュースを担い、社会のコミュニケーション活動に貢献することで成長を続けている。

 

写真を見せるのにMac

アマナは、東京都品川区に本社を構えるストックフォト事業を中心とした企業だ。ストックフォトの「アマナイメージズ」の名前はテレビや雑誌の写真素材で見たことがあるのではないだろうか。現在、アマナ全体では900台ほどのパソコンが使われており、そのうちの100台がMacである。

Macはクリエイティブなマシンというイメージが強い。アマナであれば、写真制作や映像制作などにMacが使われているのではないかと誰もが想像するだろう。しかし、実際は違う。意外なことに制作部の多くのマシンがウィンドウズだ。

「もともと制作部ではMacを使っていましたが、Macプロの性能の進化が止まっていた時期がありました。2010年あたりでしょうか。クオリティの高い作品制作のためには性能の高いマシンが求められますので、マシンを買い替えていったら結果的にウィンドウズばかりになったのです」(ICT部門・橋間司氏)

では、Macはどこで使われているのか。実は、客先に出向いて制作受注を行うプロデューサーや営業社員が近年こぞってMacBookエアを使い始めているのだという。「基幹システムはウィンドウズからしか利用できませんので、基本的にICT部門としては社員にウィンドウズPCを支給しています。しかし、どうしてもという社員に限りMacも認めています」(橋間氏)。

では、なぜMacBookエアが選ばれるのか。「一番の理由は、液晶ディスプレイの品質です。同価格帯のウィンドウズのノートと比べて、MacBookエアは自然な色でコンテンツを表示できます。ウィンドウズPCにもそうした機種はあるのですが、特殊だったり、高価だったり、本体が重かったりして、支給機種リストには入っていないんです」(ICT部門・深澤秀生氏)。アマナの商品は写真などのビジュアルだ。自社の商品を客先で見せるとき、不自然な色合いになってしまったのでは話にならない。そこで色表示に優れ、携帯性にも優れているMacBookエアが選ばれるのだという。

また、現実的な理由もある。アマナのクライアントには電機メーカーも多く、電機メーカーはだいたいウィンドウズPCを販売している。A社に打ち合わせにいくときに、B社のパソコンを持っていくというのは営業社員が嫌がる傾向にある。さらに、アップル製品の好きな役員が仕事でMacを利用する風景を目にすることで、現場でも「私も、私も」という声が徐々に広がりつつあるのも理由にあるという。

つまり、アマナのCYODは現場の社員、そして役員という上下からの挟み撃ちのような格好で社内に浸透した。「厳密にはMacBookエアは支給標準機のリストには入っておらず、購入する場合は申請して稟議を通すという多少面倒な手順が必要になります。それでも、Macの輪が広がりつつあるんです」(橋間氏)。

 

 

ICT部門/サービス&サポート部マネージャー・橋間司(左)とソリューションテクノロジー部インフラエンジニア・深澤秀生氏(右)。社員がMacを選ぶ以上、それをサポートするのがICT部門の仕事。簡単ではないが、苦労した分の成果が現場で発揮されればそれに勝るものはないという。

 

 

クライアントに写真などの制作物を見せることの多い営業職の社員はMacBookエアを利用する。同価格帯のウィンドウズPCと比べて、写真を美しく見せられるのが採用される理由だ。

 

必要最低限の管理

しかし、Macからは同社の販売管理、経費計算、勤怠管理などの基幹システムにアクセスすることはできない。そこはどうしているのだろうか。「部課ごとに1台の共有ウィンドウズPCを置いていて、Macを使っている社員にはそこからアクセスしてもらっています。また、中には、Macとウィンドウズを2台持つ人もいます」(橋間氏)。Macからも同社の基幹システムへアクセスできるようにするには技術面やコスト面から難しい。よって現状ではウィンドウズの共有端末を置くことで解決している。

また、端末の管理に関しては、ウィンドウズもMacも一元管理できるクライアント管理ソフトを導入し、デバイス管理やセキュリティ対策を行っている。Macを社員へ配付する際には端末にエージェントソフトをインストールし、必要なセキュリティソフトなどのインストールやネットワーク設定を施すことで必要最低限の管理は行えているという。

ただし、実際には、いくつかの問題点もある。中でも、Mac向けの管理ソフトの対応が遅いのは最大のネックだと語る。Macはほぼ1年ごとにOSのバージョンが上がるが、そのたびに管理ソフトもバージョンアップしなければならない。しかし、新しいOS Xがリリースされて半年後にならないと管理ソフトの対応バージョンが出ないこともあるのだそうだ。

「社員にはOSのアップデートを控えるようにしてもらっています。アップデートされてしまうと、そのMacは野放し状態になってしまうからです」(橋間氏)。また、Macは古いバージョンのOSを入れた状態では出荷されず、現行製品には必ず最新のOSがインストールされていてダウングレードできない。よって、新OSに対応した管理ソフトが整わないうちに新規にMacBookエアを購入すると、そのMacは管理側からは“見えない状態”となってしまうことも問題だという。

それならばOS Xへの対応が素早いクライアント管理ソフトへ乗り換えればいいように思えるが、「Mac用の管理ソフトには現状あまり選択肢がありません。将来的に投資に見合うものができればもちろん考えますが、現時点では難しいですね。膨大な作業時間が必要となりますから」(橋間氏)。新しい管理ソフトを使うには900台の各パソコンにエージェントソフトを1台1台インストールする必要がある。現在アマナのユーザーサポート対応部門は10人。通常業務をしながら、そちらの作業もしなければならないとなると数週間はかかってしまう。

管理者の乏しさも問題

「Macの企業導入が進まないのは、Macを理解する、もしくは理解しようとする管理者/エンジニアが多くの企業で少ないことも原因ではないでしょうか」(橋間氏)。アマナのICT部門はMacとウィンドウズの両方をサポートできる体制が整っているが、「管理者の中にはMacを未だに異質なものと見る人が多いような気がします。よって、Macでもウィンドウズの知識があれば解決できる問題でも時間や手間がかかってしまい、面倒だと感じる人が多いのだと思います」。(深澤氏)

それに加え、アクティブディレクトリへの対応が十分でないこと、最新のOS Xでは特定のドメインを持ったイントラネットへアクセスできないこと、アカウントがスーパーユーザかゲストしか設定できないことなど、運用面ではMacならではの問題も確かに存在し、アマナでもそうした問題に直面するたびに管理上の手間が増えるという。

ではなぜ、、アマナは事実上のCYOD制度を実施し、Macの稼働を認めているのか。「管理側から言えば、当然ウィンドウズだけにしてくれたほうが仕事は楽です。しかし、現場が要求するのですから、それに応えるのが私たちの仕事。私たちが苦労した分以上の成果が、現場で発揮されることが重要だからです」(橋間氏)。

 

 

制作部で利用するのはウィンドウズ端末がほとんどというが、フォトグラファーのいるカメラスタジオなどではMacがメインマシンとして今でも選ばれ続けている。

 

 

アマナの基幹システムへは部署内にあるウィンドウズの共有端末からアクセスする。または、図のようにリモートソフトを用いてMacからアクセスすることも許可している。

 

【管理】
「Macは良くも悪くも、同社のOS Xサーバで管理することを前提として設計されています。ただし、ウィンドウズがメインである日本でOS Xサーバに置き換える企業は少ないでしょう。Macを含めたマルチプラットフォームの管理ソフトの充実が望まれます」(橋間氏)

 

【権限】
Macをスーパーユーザに設定すると、ソフトを自由にインストールできるなどセキュリティのリスクが高すぎる。一方で、ゲストに設定してしまうとローカルにファイルが保存できないなどの制限が強すぎて仕事にならないという問題がある。