ペーパーレス会議を実現した秘訣はiPadという“道具”|MacFan

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ペーパーレス会議を実現した秘訣はiPadという“道具”

文●牧野武文

iPadを打ち合わせや会議に使う企業が増えている。手書きメモを取るのに使っているケースが多いが、iPadを活用すべき場所はそこなのだろうか? メモを取るだけなら紙でもいいのではないか? NTTデータSMSでは、iPadを「会議の道具」として合理的に活用している。この事例に学ぶべきポイントは多い。

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NTTデータSMSにおけるアイミーティングの活用方法。会議資料をサーバに登録しておくことで、会議中は専用アプリからログインして閲覧できる。発表者は、その資料を大型モニタやプロジェクタに表示。会議資料や個別にメモ、マーキングを入れた資料は、あとで自分のPCから閲覧できる。
 

単なる紙の置き換えではない




NTTデータSMSでは、NTTデータジェトロニクスのiPad向けペーパーレス会議システム「アイミーティング(iMeeting)」を日常の会議で使用している。会議が始まる前に、まず発表者はプレゼン資料を専用サーバに登録。参加者は専用iPadアプリからログインするとプレゼン資料を手元のiPadで閲覧でき、メモやマーカーを書き込んだりできる。会議終了後には、自分のノートPCからメモを書き込んだプレゼン資料を閲覧することも可能だ。
これは、従来紙資料で配っていたものを単にiPadに置き換えただけに過ぎないかもしれない。しかし、それで必要十分だ。なぜなら、会議の効率を大幅に改善できたのだから。同社におけるiPad導入の成功の秘訣は、iPadを無理に120%活用しようとしない点にあった。
 

「ノートPCで会議」の非生産性




NTTデータSMSでは、以前からペーパレス会議を行っていた。しかし、それは参加者人数分のノートPCを用意し、ネットワーク経由で電子資料を配布、発表者はノートPCを大型モニタやプロジェクタに接続して電子資料を表示し、説明するというものだった。
この方法には大きな問題があった。それは会議前の準備、会議後の片付けに時間が取られること。発表者は自分のノートPCとモニタ、プロジェクタへの接続を行わなければならず、長時間にわたる会議の場合は電源ケーブルも接続しなければならない。もちろん、参加者用のノートPCもネットワーク接続、電源確保が必須だ。これに最短でも15分程度、会議終了後も10分程度はかかる。つまり、時間の会議でも約30分近い準備時間が取られるのだから、効率は極めて悪い。紙ベースで会議を行っている場合でも、紙資料の印刷や整理、接合、配布に時間がかかる(もちろん紙や印刷のコストも)。
これが、iPadとアイミーティング導入後は限りなくゼロに近づいた。発表者は事前に発表資料をサーバにアップロードしておくだけでよく、会議の準備としては人数分のiPadを席に並べておけばいい。iPadは専用の保管庫(保管中に充電が可能)に置いてあるので、適当に人数分を取り出し、会議終了後はしまうだけだ。
さらに、機器のメンテナンス時間も大幅に短縮された。ノートPCを使っていたときはセキュリティ上の問題から、OSやセキュリティソフトを常に最新状態にしておかなければならなかった。60台のノートPCをアップデートするとなると大変な作業量となる。iPadの場合は、そもそもウイルスなどのセキュリティ上の問題が少ないうえ、(そう頻繁には必要のない)iOSやアプリのアップデート作業も「MDM」(モバイルデバイス管理)サービスを使えばさほど時間がかからない。
「会議の準備や片付け、アップデート作業というのは、生産性のある時間とはいえません。そこに社員リソースを使うのはもったいない。以前から問題だと考えていました」(経営管理部事業企画担当課長・三谷浩之氏)
 

iPadは個人支給しない




この事例で特徴的なのは「社員全員にiPad1台」ということではなく、会議専用に60台を導入し、会議のときだけ参加者にiPadを貸し出すという点だ。
「社員は普段ノートPCを使って仕事をしています。仕事の性質上、文書作成をする機会が多いですからiPadだけでは仕事になりません。もしiPadを配布したら、社員はノートPCとiPadの2台を持つことになり、逆に混乱するでしょう」(経営管理部長・栗原悦夫氏)
この事例に学ぶべきポイントはここだ。確かに「社員全員にiPadを支給」のほうが聞こえがよく、スマートなIT企業っぽい。しかし、iPadは薄くて軽いために社外に簡単に持ち出すことができる。さらに、ドロップボックスなどの便利で革新的な情報共有アプリも簡単に使える。そうしたメリットを享受するには、情報漏えいやセキュリティ対策が求められ、なおかつ適正な社内教育なども必要となる。闇雲に支給してしまうと、かえって組織全体と社員個人の負担が増え、iPad導入がスムースにいかないケースが多い。
 

会議での議論が深まった




アイミーティングを導入した決め手は何だったのだろうか。その大きな理由は充実した基本性能と、高いセキュリティに加え、発表資料を手軽に先読みできることだという。参加者が専用アプリにログインすると資料すべてをアプリ内にダウンロードすることができ、発表の進行よりも先のページを閲覧できる。事前に資料を先読みして概要を把握しておけば、それから発表者の発表を聞いて細部を確認、疑問点を挙げることができるからだ。
また、発表資料を大型モニタではなく、手元のiPadで見られることもメリットだという。参加者は、手元のiPadに表示される資料を見る時間が多くなり、理解の難しいところだけ大型モニタを注視して、発表者の解説を聞くことになる。アイミーティングでは発表者と参加者のiPadの画面を同期でき、発表者がiPad上で指し示す位置も参加者の画面に表示される。
これにより、会議のあり方が変わった。
「以前はパワーポイント資料をモニタ表示して、参加者がそれを見るという方式だったので、例えば文字は最低でも16ポイントという不文律がありました。でも、今は手元のiPadで資料を見せるので12ポイントぐらいの文字も使えます。資料作成の自由度が広がったことを実感しています」(三谷氏)
「エクセルで表にした細かい数字はモニタに表示すると細かすぎてよく見えませんでしたが、手元のiPadなら拡大できます。会議での議論が深まっているという実感があります」(栗原氏)
 

iPadを道具として割り切る




NTTデータSMSでは、iPad+アイミーティングをプレゼン型の会議に主に利用している。このほかに、企画を練るなどのブレーンストーミング型会議では、ホワイトボードを利用する。「ホワイトボード代わりになる画面共有メモのような機能があったほうがいいとは思いますが、無理に入れることはないとも思います。ホワイトボードはホワイトボードで便利な道具なので、それを使えばいいと考えています」(三谷氏)
NTTデータSMSでiPad+アイミーティングの導入が成功した理由はここにある。つまり、初めに「iPad導入ありきで、すべてをiPad化する」という考え方ではなく、「効率的なペーパーレス会議を実現する」という考え方が先にあって、その最適なソリューションとしてiPadとアイミーティングを選んだのだ。
iPadは実に多才で、導入するだけでワークスタイルに変革が起きるのではないかと錯覚しがちだ。しかしその実は、利用目的がしっかりしていないと導入は成功しない。iPadを目的を実現するための“道具”として割り切り、シンプルな考え方&スモールスタートで導入したNTTデータSMS。その導入や活用には無理が出ず、結果的に最小のコストで最大の活用ができている。

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紙のメモも必要なくなり、電源コンセントも不要。究極の会議室は、テーブルと椅子、大型モニタとホワイトボード、iPadだけで構成される。iPadは個人に支給するのではなく、会議専用の道具。使わないときは保存庫に管理し、充電も行う。


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会議資料の登録はWEBブラウザから行える。手書きでメモやマークを付けることができるが、スタイラスペンを使えばかなり細かいメモの残すことも可能だ。IDとパスワードだけでなく、会議資料を入れたフォルダ単位でアクセス制限ができたり、特定の端末からのみのアクセスを許可できたりと高いセキュリティを確保。ファイル単位でiPadにデータを残さないようにしたり、特定日時にサーバからファイルを自動削除したりもできる。

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NTTデータSMS・経営管理部長の栗原悦夫氏(右)と、経営管理部事業企画担当課長の三谷浩之氏(左)。同社では、昨年12月に30台のiPad(Wi-Fiモデル)を導入し、まず役員会議など参加者数が30人以下の会議で利用し始めたという。「どのような結果が出るかわからなかったのでスモールスタートで始めることがカギだと思いました」。

『Mac Fan』2013年8月号掲載