自主性を重んじる管理手法でIT機器の活用を促す|MacFan

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自主性を重んじる管理手法でIT機器の活用を促す

文●牧野武文

「メガネのパリミキ」では、全国の700店舗以上&海外10店舗以上にMacを導入して接客に利用している。そのすべてのMacは、「アップルリモートデスクトップ」によって本社にある数台のMacで管理されているが、その手法は「管理」というより、むしろ「マネージメント」と呼ぶに近く、それが功を奏している。

遠隔地のMacを管理


「アップル・リモートデスクトップ(Apple Remote Desktop)」(以下、ARD)は、Macアップストアから6900円で購入できるアップル純正ソフトだ。主にビジネス/教育用途に利用されるため、一般コンシューマーには馴染みがないが、実によくできた実用的なソフトである。
ARDは、インターネット経由で別のMacを管理するために利用される。この技術の一部はOS Xにも内蔵されており、システム環境設定の[共有]から設定可能な「画面共有」がそれに当たる。画面共有の機能を利用すると、遠隔地にある別のMac(例えば、自宅にあるMacから会社にあるMac)の画面を手元のMacに表示し、あたかも手元にあるかのように操作することができる。
ARDはこれを大規模に拡張できるソフトウェアと考えるとわかりやすい。1台のMacにARDをインストールしておけば、インターネット経由で自宅や同一オフィス内のMacだけでなく、遠隔地、海外に設置しているMacを台数無制限で管理できる。例えば、遠隔地の(クライアント側の)Macの調子がおかしくなった場合、手元のMacから修復作業をすることが可能なのだ。
ARDは豊富な機能を備える。ソフトウェアを一斉に遠隔地のMacにインストールしたり、遠隔地のMacのデスクトップ画面を一覧表示したり、システムをスリープ/再起動したり…。クライアント側のMacを呼び出して、チャットすることも可能だ。

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アップル・リモートデスクトップ(現在はバージョン3)は、Macアップストアから6900円で入手できる。これは台数無制限の「Unlimited」マネージドシステム版であり、別途クライアントMacごとの費用はかからない。

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パリミキの店舗に置かれているMac。1994年に開発された「ミキシムデザインシステム」は、最適なメガネデザインの提案ができる同社独自のソリューションだ。自分の顔にもっとも合うメガネを選べるため、顧客の満足度が高い。ARDを利用すれば、操作で手間取ったとき、またはMacに支障が生じたときに、画面共有によって指示や問題解決のサポートが得られる。
 

導入費用とサポートの負担を軽減


このような「管理ソフト」というと設定や操作が難しく、専門知識がないと使自主性を重んじる管理手法でIT機器の活用を促すいこなせないというイメージがある。しかし、ARDはアップル純正ソフトとしては当然のことながら、Macを使ったことがある人であれば、ほぼ問題なく使いこなせてしまう。“管理”という言葉とは裏腹に、ある意味“気軽でカジュアル”に使えるソフトなのだ。
このARDを業務で利用しているのが、メガネストア「パリミキ」(または「メガネの三城」)で知られる株式会社三城ホールディングスだ。同社では全国約950店舗のうち700店舗以上にMacを導入し、接客ツールとして利用。そして国内700店舗以上、海外10店舗程度に配備したMacをARDを使って情報システム部のMacから管理している。
そもそも、Macを店舗に導入することになったきっかけが面白い。2002年に発売されたiMac G4を覚えている方も多いだろう。初のフラットパネル採用、モニタアームは可動式というもので、その愛くるしい姿から「首振りMac」「大福Mac」などと呼ばれたモデルだ。三城ホールディングス社長の多根弘師氏は、そのiMac G4を見た瞬間に「これはいい! こんなデザイン性の高いコンピュータをパリミキの全店舗に置いて、お客様との接客に活かしたい」と導入を決断したという。
パリミキではそれ以前からリナックスパソコンを店舗に導入し、その上で「ミキシムデザインシステム」という自社開発のソフトを動かしていた。これは顧客の顔写真をカメラで撮影して取り込み、その上にさまざまなメガネフレームを合成、顧客の顔に一番合うメガネを提案するというものだ。
しかし、ここで問題となるのは、店舗のコンピュータを誰が管理するかだ。店頭スタッフはITのスペシャリストではない。日々の業務中にコンピュータに何らかのトラブルが起きたとき、従来は本社から電話で各店舗に対して問題解決のサポートを提供していたが、意思疎通が難しく、問題解決までに時間がかかった。また、場合によっては本社の情報管理部の人間が出張して対応したり、業者を依頼しなければならないこともあったという。全国、そして海外にまで店舗があるパリミキでは、その出張費用、人件費とも無視できない金額になる。
当初はUNIX上で動くシステムを導入したが、高額であるうえにメンテナンスも大変だった。そのため、Mac導に併せてARDも導入したのだ。
「UNIXでシステムを組んでいたときはパソコンやカメラ、管理ソフトウェアなども含めて導入費用に一店舗あたり300万円ぐらいかかっていました。今は、iMacにカメラが付いていますし、周辺装置を一式揃えても20万円は越えません。もちろん、ARDによって日々の管理コストも大幅に削減できました」(株式会社三城ホールディングス河村和典氏)
 






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本社にある管理用のMacには、ARDによって図のように各店舗のMacのデスクトップ画面が表示される。管理用のMacから一斉に各端末のアップデートを行ったり、店舗にいる従業員に代わってMacの操作を行ったり、特定のMacの画面をロックしたりなど、さまざまな操作が行える。


 

効果を出すための手法


また、店舗側の負担も軽減された。以前はリナックスパソコンだったので、普通の人が扱うのは難しい。
「Macの使い方に関する研修は基本的に行っていません。すべてARDで本社が管理しますので、電源オン/オフ、キーボード入力、マウスでメニューを選べる程度のスキルがあれば十分なのです」
店舗のMacには管理者権限を設定せず、店員が勝手にシステムを変更できないようにしている。また、業務に使うソフトウェアはミキシムデザインシステム以外に、サファリ(WEBサイト閲覧)、iChat(情報管理部との連絡用)ぐらいだという。
Mac導入にあたって心配されたのは、「店舗にMacを置くと、店員が業務以外の用途に使うのではないか」というものだった。もちろん、使用できるソフトに制限をかけたり、サファリの設定でアクセスできるWEBサイトを限定させることもできる。
「そのような制限はあまり設けませんでした。もちろん、たまにまったく業務に関係ないサイトを見ている人もいました。しかし、ARDではリアルタイムでクライアントのデスクトップが一覧できますから、気がついたら、リアルタイムでiChatで警告を送るんですね。すると、やばい! 見られているという話が店舗内に伝わるんです。そういうことが数回あったあと、業務以外の用途でMacを使う人はいなくなりました」
このようなやり方は、一見場当たり的に見えたり、緩いやり方のように見える。しかし、河村氏の狙いは「してはいけないことは自発的にしない、してほしいことを自発的にする」というところに誘導していくことだった。つまり、パリミキではARDを「管理ソフト」としてではなく、むしろ「マネージメントソフト」として利用しているのだ。
パリミキはiPadを積極的に業務に活用していることでも有名で、現在は店舗接客用にiPadミニの全社員への導入を順次始めている。ここで興味深いのはiPadを店舗に一律に配布するのではなく、まず希望者に配布した点だ。「iPadを全店舗に配布しました。しかし、強制的に配布しても活用しない社員や店舗はでてきてしまいます。それでは、資源の無駄になりますので、現在は社内で積極的に活用したいという人を募り、フェイスブックグループに参加して意見を出し合うことだけを条件に『iPadエバンジェリスト』となってもらい、社員による啓蒙活動を促進しています。このようにすることで、社内や店舗における利活用が自然と向上していくことを期待していますし、現に効果が現れ始めています」
パリミキにおけるICTの利活用のポイントはまさにここにある。管理と称した押しつけのルールや制限を設けるよりも、社員や店舗の自主性をシステム部門との連携によって誘導していく。そうすることで、社員や店舗側にデジタル機器を活用しようという積極性が生まれ、優れたアイデアも生まれる。これを本社がうまく吸い上げることで、パリミキのMacやiPadのシステムは、パリミキならではのものに進化していくのだ。このような社員の自主性を重んじる管理手法は、多くの企業にとって参考になるはずだ。
 







株式会社三城ホールディングスにおいてデジタルデバイスに関するソリューション業務を担当する河村和典氏。「ARDは優れたツールですが、クライアント側のMacが固定IPアドレスを取得していることが前提となります。固定IPがMacに割り当てられていないと管理は十二分に行えません。この点が、便利ながらもARDがそれほど普及していない理由ではないでしょうか」

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ARDでは、各端末のOSや動作しているソフトウェア、利用状況などのレポートを取得できる。また、UNIXコマンドを送信したり、起動ディスクを設定したり、再起動や電源オン/オフなども可能だ。さらに、メッセージの送信やチャットも行える。



『Mac Fan』2013年7月号掲載