人と人とをつなげるFaceTime|MacFan

教育・医療・Biz iOS導入事例

人と人とをつなげるFaceTime

文●牧野武文

3G回線でも安定したビデオ通話が可能なiOS標準の「フェイスタイム(FaceTime)」。そこに着目し、iOSデバイスと結びつけることで世界に類を見ないサービスを展開している企業がある。アールシステムの「テルテルコンシェルジュ」は通訳サービスの枠を超えた無限の可能性を秘めている。

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アプリを起動して、言語ボタンをタップすればオペレーターにフェイスタイム経由で接続される。あとは日本語または選択した言語で話しかけ、通訳をお願いすればいいだけだ。通訳だけでなく、カメラを切り替えることで回りの風景を映し出し、オペレーターと視覚的に情報を共有できる。もちろん、フェイスタイムがつながる場所であれば、海外から利用することも可能だ。
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テルテルコンシェルジュ
[開発業者]Rsystem Co.,Ltd [価格]無料



通訳ではなく〝コンシェルジュ〟



アールシステムの「テルテルコンシェルジュ」は、iOSに標準搭載されているビデオ通話機能「フェイスタイム」を利用した通訳サービスだ。iOSデバイスで同アプリを起動するとフェイスタイム経由で日英、日中、日韓の通訳オペレーターに接続でき、フェイスタイム通話をしながら通訳サービスを受けられる。
2011年10月にアップストアで公開された同アプリは、東京メトロや東急電鉄をはじめとする電鉄会社、アパホテルなどのホテル、家電量販店、インフォメーションセンター、各種公共施設などで採用されている。その目的は、顧客サービスの満足度の向上だ。同アプリをインストールしたiOSデバイスを設置しておけば、英語、中国語、韓国語ネイティブの客が訪れたときに、iPadから通訳オペレーターを呼び出してもらうことでスムーズな接客や案内などが可能となる。
さらに、テルテルコンシェルジュには日本語手話のオペレーターも用意され、手話通訳も可能だ。
ところで、このような通訳サービスは電話を使って行うものがいくらでもあり、「それで十分なのではないのか?」と思われる方もいるだろう。ところが、電話による通訳とフェイスタイムによる通訳ではサービスの質に大きな違いが出てくる。ここが、テルテルコンシェルジュのポイントだ。
「オペレーターがお客様の状況を自分の目で確かめることができるというのが大きいのです」(アールシステム代表取締役・田中良二氏)
通訳が必要なのは人と人との会話だけではない。言葉がわからない国に行くと、看板や案内看板の類も読むことができないはずだ。例えば、海外の空港やバスターミナルに行くと、どこで切符を買って、どこで搭乗をすればいいのか迷ってしまう。このようなときテルテルコンシェルジュに接続すれば、オペレーターは「カメラを切り替えて周りを映してください」と教えてくれる。そして、チケットカウンターの看板を見つけて「右手に進んでください。そこがチケットカウンターです」と答え、チケット購入時には間に入って通訳をしてくれる。
iOSデバイスではカメラをフェイスタイムカメラ(正面)からiSight(背面)に簡単に切り替えることができるので、オペレーターが顧客の置かれた状況を見ることができ、通訳を含めた適切なアドバイスをすることができるのだ。ここが、商品名が「テルテル通訳」ではなく、テルテルコンシェルジュである理由だ。

品質を決めるオペレーターの力



テルテルコンシェルジュの質は、オペレーターの優秀さに支えられている。レベルの高い通訳が可能なだけでなく、コンシェルジュとしての状況判断の能力も持ち合わせる。それでいて法人の利用料は初期費用が1IDあたり2万円、サーバ/システム利用料が年間3万円、そして月額1万9000円で使い放題だ。自社で通訳を4人(英中韓、手話)を待機させることを考えたらコストは決して高くなく、iOSデバイスさえあれば導入できるという手軽さもある。
「原則として、オペレーターには日本語能力の高いネイティブを採用しています。外国語ができる日本人では通訳能力にどうしても限界があります。さらに、通訳業務以外にも状況判断ができるトレーニングなども行っています。おかげさまで、試験導入していただいた企業様には、ほぼ100%正式導入をいただいています」
どうして、テルテルコンシェルジュは質の高いサービスを低価格で提供できるのだろうか。コールセンターは、神戸の本社にあり、この神戸という立地がポイントなのだそうだ。
神戸は国際都市で、居住している外国人が多い。また、関西にはレベルの高い教育機関が多く、優秀な留学生もたくさんいる。そして、東京や大阪に比べて生活物価は安いので、優秀なネイティブを人件費を抑えながら雇用することができるのだという。


リジェクトの壁を乗り越えて



フェイスタイムを利用した世界初のソリューションとして注目され、他に類似サービスが存在しないことから(他社から展開されている同様のサービスはすべてアールシステムがOEM提供しているもの)、同社の業績はうなぎ登りだ。しかし、ここまでくるのは簡単なことではなかった。アップルからは何度もアプリをリジェクトされ、長い交渉を経てようやくサービスを開始できたという。
アップル側が問題にしたのは、「フェイスタイムを商用サービスに利用している」という点だった。
「サービスの細部に至る部分のみならず、弊社の財務状況や業務内容なども徹底的に調査されました。当初はリジェクトの連続でしたが、最終的には弊社の基盤、業務内容ともに信頼でき、最終的にはユーザにとって利便性が高く、なおかつiOSデバイスの拡販にもつながると判断していただけたのだと思います」
アップルの承認を受けてアップストアでアプリが公開されているというメリットは非常に大きい。単にサービスの信頼度が高まるだけでなく、多大なマーケティング費用をかけることなく世界中の顧客にリーチできる。実際に海外企業からの問い合わせも多く、将来的に多言語対応させる場合はアプリにアップデートを加えれば済む。アップストアに公開されているアプリは一般ユーザ向けのものだが、法人向けのアプリへも切り替えることができる。
今後、テルテルコンシェルジュは、さらにコンシェルジュ機能を充実させていくという。それによって活用の幅はさらに広がりそうだ。例えば美術館や博物館で採用されれば、来客者にiPadを貸し出し、来客者が鑑賞する絵画や展示物の説明をテルテルコンシェルジュが通訳しながら行ってくれる。あるいは旅行代理店が旅行者にiPadを貸し出し、レストランの予約や観光案内もできるサービスとしての展開も可能となる。
また、田中氏は多言語サービスをプラットフォームとした日本発のSNSに育てていきたいという。内容は「秘密です(笑)」とのことだが、言語の壁を超えた国際的なSNSを構想していることは間違いないだろう。
「弊社を起ち上げたのは、私が実際に海外に行ったときに言葉の壁から現地の人とのコミュニケーションに困ったことが理由でした。人と人とをITの力でつなげていきたい」と田中氏は語る。通訳・翻訳サービスを手がけてきた同社のノウハウは、3G回線でも安定した品質でビデオ通話を実現できるiOSデバイスだからこそ花開いた。そして世界に類を見ない同社のソリューションは、通訳という枠を超えて、iOSデバイスとともに日常生活のさまざまな場面で世界中の人々をつないでくれることだろう。



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法人向けサービスには「手話通訳」が用意されている。企業にとって、バリアフリーを実現するためにも手話通訳はもはや必須だが、通訳者を用意するコストがなかなか捻出できないという悩みがある。電鉄会社、ホテル、ショッピングセンターなどでは、この「手話通訳」に注目して、導入を決めたところも多いという。

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アールシステム代表取締役・田中良二氏。「アンドロイド端末では端末ごとにOSや仕様が異なるためアプリ開発やサポートが大変ですし、フェイスタイムのような機能も存在しませんのでテルテルコンシェルジュのようなサービスを実現するのは難しいと思います」。

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東急電鉄では東京・渋谷駅の4カ所の案内所で、テルテルコンシェルジュを導入している。「特にインバウンドのお客様に向けてサービス向上を図るために導入しました。2011年4月に導入し、利用者はまだ1カ月で20件ほどですが、導入の効果はとても高いと感じています」(東京急行電鉄・鉄道事業本部・運輸営業部・計画課 西野諭氏)。

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「これまでは切符の買い方や乗り換え案内などを聞かれたとき、係員が口頭や身振り手振りで対応するしかなかったのですが、テルテルコンシェルジュがあれば三者で会話し、即座に対応することができます。今後は、同じくたくさんの観光客で賑わう横浜などに設置できればと考えています」(同氏)。


『Mac Fan』2013年2月号掲載