生徒のクリエイティビティを広げる“実社会的”技術授業|MacFan

教育・医療・Biz iOS導入事例

生徒のクリエイティビティを広げる“実社会的”技術授業

文●三原菜央

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

京都市左京区にある同志社中学校は、2014年に生徒1人1台のiPadを本格導入。生徒の知的好奇心や探究心を感化させるツールとして、時代に合わせたICT環境づくりに力を入れている。今回は、同校で勤続16年を迎える、技術家庭科の外村拓也教諭のクリエイティブな授業実践に迫った。

 

 

転機となったADE

2021年度より中学校の学習指導要領が改定され、技術家庭科の技術分野において、小学校でのプログラミング教育の成果を活かし発展させる視点を要求されるなど、社会の変化への対応が求められている。

同志社中学校で技術家庭科を担当する外村拓也教諭は、もともとアップル製品に好意的だったこともあり、2010年頃からiPhoneやアップルTVを活用した授業に取り組んでいた。2014年に同校で生徒1人1台のiPadが整備されてからは、既存の授業内容をデジタルに代替するなど工夫を凝らしていたものの、授業デザインを根本的に進化させるには至っていなかった。そんな外村教諭の大きな転機となったのが、「ADE(Apple Distinguished Educator)」との出会いだった。

すでにADEに認定されていた先輩教諭の影響で外村教諭もADEを目指すようになり、授業デザインの変革を決意。たとえば、中学2年生の「金属加工」の単元でドライバーの製作に取り組んだときは、市販のドライバーの特徴や形、工夫点などを観察するためにiPadカメラを積極的に活用した。

 「カメラというフィルタを通すだけで、生徒たちの洞察・観察のアウトプットに面白い着眼点が増えました。文字で伝えることが苦手な生徒も、写真だと表現できることだってあります。また毎回の授業内容を写真や動画に記録すれば、いつでも振り返りができるようになります。観察の過程はポートフォリオとして『ページズ(Pages)』にまとめていきました」

そうして2019年にADEに認定された外村教諭は、オーストラリアで開催されたADEインスティチュート(研修・研究会)に大きな衝撃を受けたという。

「ADEインスティチュートで見聞きした教育は、今まで日本で経験してきたものとまったく違っていたんです。日本だとデジタルを使っていればICTを活用した教育だと勘違いされている方も多いのですが、アップルはDX(デジタルトランスフォーメーション)の先にある授業デザインや教育観の変容を強調していました」

 

外村拓也教諭

同志社中学校技術家庭科教諭。子どもとともに遊びやものづくりに取り組み、豊かな学びと生活を作り出すことを目指している。Appleのテクノロジーを積極的に取り入れた授業を展開。2019年Apple Distinguished Educator認定。

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。 世界45カ国で2000人以上のADEが、Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。

 

 

デジタルとアナログの融合

ADE認定後も積極的に実践を積み重ねていた外村教諭だが、新型コロナウイルス感染症の影響により、技術実習室が使えなくなり、ここ数年は通常教室で授業を行うことになってしまった。そこで同校では生徒の表現力や創造力を高めるため、アドビCC(Adobe Creative Cloud)を活用。なお、外村教 諭は、ADEだけでなく、アドビの認定制コミュニティ「Adobe Education Leader」の認定も受けている。

「木工作品を製作する単元では、伝統工芸品である寄木細工の模様を『キーノート(Keynote)』の図形を使ってデザインし、出来上がった作品を写真撮影して、写真も含めて作品として提出してもらいました。写真の編集には、『フォトショップ(Photoshop)』を使いました。写真の編集は技術の授業とは直接関係ないように思われますが、実社会を想定した際には、“作って終わり”ではなく、作ったものを届けるために写真を撮影して世に広める過程があります。そこも含めてものづくりだとわかってほしかったのです」

さらに外村教諭は、無料でポートフォリオサイトが制作できる「アドビ・ポートフォリオ(Adobe Portfolio)」を活用し、出来上がった作品をオンライン作品展として保護者向けに閲覧できるようにした。また金属加工の単元では、鋳造によりアクセサリを作成。そのあとは、簡単にWEBサイトを制作できる「アドビCCエクスプレス(Adobe Creative Cloud Express)」を活用し、生徒が作ったアクセサリを擬似的に販売する通販サイトの制作にも挑戦した。

「通販サイトを作る過程は、プログラミングの要素も含んでいます。木工作品の単元でプログラミング要素を取り入れられるのも、デジタルツールにすぐにアクセスできる環境があるからこそだと思います。また作品をつくるだけでなく、作品を発表する場を提供することで、生徒のモチベーションにもつながります。アドビのツールとiPadを活用することで、生徒の表現の選択肢を広げることができました」

2021年度になり中学3年生の技術を担当することとなった外村教諭は、「防災とものづくり」を掛け合わせた授業に取り組んでいる。技術の授業には、ラジオ製作という定番のカリキュラムがある。電子部品を半田ごてを使って接着し、製品づくりを体験する内容だが、外村教諭は、製品の特徴や施されている工夫を見つけてデッサンする過程においてiPadを活用した。

iPadで製品外観を撮影し、それをトレースしてデッサンすれば、絵が苦手な生徒も絵を描くことに注意を向けるのではなく、製品の特徴に気づくことができる。その結果、消費者として製品に施される工夫を知ることで、ものの見方が広がっていくそうだ。

 

エネルギーの源はコミュニティ

コロナ禍における授業デザインについて、外村教諭は「できることは限られてしまいましたが、逆に新しいことを生み出す大きなきっかけになりました」と語る。どんな状況下でも学びをアップデートし続ける外村教諭を支えるものは、一体何だろうか。

「サードプレイスのようなコミュニティの存在です。ADEになる以前から、全国の私学の組合活動に所属し、実践を発表し合ったり、つながりを作ってきました。学校の中だけだとどうしても閉鎖的になってしまうので、職場を越えたつながりはとても重要だと思います。ADEに認定されたことで世界全体にネットワークが広がり、ツイッター(Twitter)で授業実践を共有すると、海外の教員からもメッセージがもらえて、授業改善にもつながっています。熱量の高いADEとの交流は、情報収集の場でもありますし、発信やリフレクションの機会を強制的につくることのできる僕のエネルギーの源ですね」

技術科はテクノロジーを教える側面から、情報のアップデートが欠かせない教科の一つだが、日々の忙しさに追われて授業デザインのアップデートが難しいのも現実としてあるようだ。そのような中、サードプレイスで得た知見や情報を元に新しいアイデアを次々と形にする姿勢に学ぶことは多い。挑戦を止めない外村教諭の今後も目が離せない。

 

 

中学2年生の「金属加工」の単元では、ドライバーの製作に取り組んだ。市販のドライバーを実際に手に取り、観察し、iPadのカメラで撮影することで、生徒は見方を広げていった。技術の授業は週1回45分と限られているため、ものづくりの工程を忘れないように動画で撮影し、ポートフォリオに残すことで記憶のサポートにもつながっている

 

 

授業の中で寄木細工を製作。出来上がった作品は、「Adobe Portfolio」上に公開し、WEB上で保護者が閲覧できるようにした。

 

 

金属を熱で溶かし鋳型に流し込んで器物を作る鋳造を行った授業では、ハンドメイドアクセサリを制作。作った作品の魅力を発信するため、Adobe Creative Cloud Expressで擬似通販サイトを制作した。

 

 

ラジオ製作に取り組んだ際には、「防災グッズにさらなる性能を加える」ことをテーマに、デザイン思考を活用して生徒一人ひとりがアイデアをスライドにまとめた。

 

 

授業ではプログラミングによるデジタルアートにも挑戦。プログラミングツール「p5.js」を使って、「ジェネラティブアート」を製作した。

 

外村拓也教諭のココがすごい!

□ 実社会を想定した「iPad×技術科」のクリエイティブな授業を実践している
□ ADEとの出会いを転機に、授業デザインを根本的に進化させている
□ Adobe Education Leaderにも認定されている