“6台のiPad”からスタートした多彩なICT教育|MacFan

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“6台のiPad”からスタートした多彩なICT教育

文●三原菜央

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

福島県の中央に位置する郡山市の私立郡山ザベリオ学園小学校に勤務する大和田伸也教諭は、小学2年生のクラスを受け持ち、すべての授業でiPadを活用している。福島県からグローバルに活躍する子どもたちのクリエイティビティを育む姿に迫った。

 

 

始まりは卒業記念品

福島県郡山市の郡山ザベリオ学園小学校は、1932年に創設されたカトリックのミッションスクールで、同じ敷地内に幼稚園から中学校まである幼・小・中の一貫校だ。同校では、2018年に卒業記念品として贈られた6台のiPadから本格的なICT教育をスタートした。当時の実践について、ICT担当の大和田伸也教諭は振り返る。

「私が着任した2016年の時点で、各クラスにプロジェクタやコンピュータは整備されていましたが、従来の知識伝達型の教育を行うためのICT環境だったこともあり、当初は6台のiPadをどのように活用していくか悩みました。でも、台数が少ないからこそできることに着目し、ビデオ編集アプリ『クリップス(Clips)』などを活用して、グループで1つのiPadで映像作品を作っていましたね。クリップスは文字や絵文字を入れるなど、小学生でも簡単に操作できるので、現在も多用しています。その後、2020年度には共有iPadが全校で51台となり、2021年度からは児童1人1台のiPadを整備しています」

大和田教諭は、同校着任前にアメリカの日本人学校で勤務していた経験を持つ。アメリカでは当時より小学校でICTが積極的に活用されており、その環境が当たり前だった大和田教諭にとって、帰国後に目の当たりにした日本の教育現場のICTの遅れには驚きを隠せなかった。

「アメリカではICT機器を活用した授業が日常の風景だったので、帰国して日本の学校現場を見たとき、そのギャップに驚きました。また、日本の中でも都市部との差も大きかったですね。帰国して6年経ちますが、そのギャップを埋めるために試行錯誤しながら歩を進める毎日です。GIGAスクールの波もあり、少しずつ同僚の先生方や保護者の方々に、ICTの可能性を理解してもらえるようになってきたと思います」

 

大和田伸也教諭

郡山ザベリオ学園小学校教諭。卒業記念品として贈られた6台のiPadから、ICT教育の可能性を模索し始める。福島県郡山市からグローバルに活躍する子どもたちを育むため、世界のICT教育を日本の教育にどう取り入れていくか、未来を見据えた授業づくりを実践し続けている。2019年Apple Distinguished Educator認定。

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。 世界45カ国で2000人以上のADEが、Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。

 

 

小学生だってクリエイター

1人1台のiPadが整備された現在、小学2年生のクラス担任を受け持つ大和田教諭は、すべての授業でiPadを活用し、先進的な学びに取り組んでいる。しかも活用しているのは、iPadの標準アプリや無償アプリのみ。「キーノート(Keynote)」「ページズ(Pages)」「クリップス」などで作品を作り、作品は「アドビ・クリエイティブクラウドエクスプレス(Adobe Creative Cloud Express)」にポートフォリオとしてまとめ、1年間の学びの軌跡を残している。

「小学2年生は作ることが大好きなので、いろんなアプリがあることを示して、児童たちのやりたいことを応援しています。クリエイターとしての喜びを感じてもらえるような選択肢を提示することが教員の役割として大切なことだと思います。小学校低学年でも、自身のクリエイティビティを発揮するために必要なツールを自ら選択することができます。最近は、算数の授業で分数を応用してポスターを制作したり、AR(拡張現実)が制作できるアプリ『リアリティ・コンポーザ(Reality Composer)』を使ったり、さまざまな作品作りに取り組んでいます」

授業で使用する資料の共有や配信には「スクールワーク」を活用し、児童の動画や写真などの作品は「共有アルバム」に提出してもらっている。共有アルバムを活用することで、児童はお互いの作品をすぐに鑑賞することができる。また授業以外では、大和田教諭の学年では連絡帳として「iMessage」を活用。iPadの標準機能は、多彩な授業作りから連絡帳のデジタル化など、教員の教務・校務支援まで実現している。多彩な授業を展開する大和田教諭にICTと相性の良い教科について聞いてみた。

「算数はICTによってクリエイティビティが発揮されるので、特に楽しむことができますね。たとえば小学2年生でかけ算を教えますが、通常子どもたちは暗唱して覚えていきます。でも、かけ算を視覚的に映像で表現することで児童の理解を深めることはできないかと、実際に挑戦してみました。すると、紅葉の葉で掛け算を表現したり、友だちと相談し合いながらさまざまな発想を取り入ることで、学びが深まっているようでした」

 

アップルティーチャーからADE

GIGAスクールで端末は整備されたものの、授業での活用に悩んでいる先生も少なくない。同校の先生もまさにそうだったようだ。そこで大和田教諭が提案したのが、「アップルティーチャー(Apple Teacher)」を目指すことだった。アップルティーチャーは、学校の学習や生徒指導にアップル製品を組み込んでいる教育者を支援し、その成果をたたえる無料のプロフェッショナルラーニングプログラム。iPadの操作はもちろん、授業での活用方法のアイデアを得ることができる。特に日本の教育の実践例だけではなく、ICT教育が進んでいる海外の教育者の実践例も学ぶことができるため、新しい視点も見つかる。実はこのアップルティーチャーとの出会いが、大和田教諭がADEに応募するきっかけでもあった。

「自分自身がiPadをどう授業に活用するか悩んでいたときにアップルティーチャーに出会い、それを突き詰めていく中でADEの存在を知りました。そして、当時実践していた『クリップス』を活用した国語の授業などをまとめて応募したところ、2019年に認定を受けました。ADEになるまでは勤務校のICT環境を良くすることが第一優先でしたが、自身の取り組みが国内外問わず何かの役に立つことを知り、対外に向けて発信ができるようになったことがADEになって大きく変化したことです」

今でこそ発信に力を入れている大和田教諭だが、共有iPadを活用していた2018年頃は同僚や保護者からの風当たりもまだ強かったそうだ。

「日本全体の風潮として偏差値重視の考え方は未だに根強いので、これまで存在していなかったICTがどのように子どもたちに影響を与えるかが見えない中では、活用の理解を得ることは難しい状況でした。でも、コロナをきっかけにウェビナーが日常化され、地方の先生でも良質な学びへのアクセスが容易になり、GIGAスクールで国をあげてICT教育の重要性が発信されたことで、周囲の反応も大きく変わりました。クリエイティビティの楽しさを知った先生や、改めて子どもたちに必要な教育とは何?と、従来の型を超えて考える先生が増えてきたことがうれしいです。子どもたちが場所にとらわれず必要な情報にアクセスできる今だからこそ、視野を広く持てる教育を実践したいです」

 

 

「Numbers」を使ってクリスマスまでの期間に日数を数えるために使用する「アドベントカレンダー」を作成。児童はスムースにiPadを操作するという。

 

 

AR(拡張現実)が制作できるアプリ「Reality Composer」の中でARの街を作り、クリスマスのメッセージを入れた小学2年生の作品。

 

 

「Numbers」を使ってクリスマスまでの期間に日数を数えるために使用する「アドベントカレンダー」を作成。児童はスムースにiPadを操作するという。

 

 

算数の授業で、「分数」をテーマにしたポスターを制作。作品の共有は、「共有アルバム」機能で行い、児童はお互いの作品を簡単に閲覧できるようにしている。

 

 

児童の作品はAdobe Creative Cloud Expressにポートフォリオとしてまとめ、1年間の学びの軌跡を残している。

 

大和田伸也教諭のココがすごい!

□ iICTの活用が難しいとされる小学校低学年でiPadを積極活用している
□ iPadの標準アプリや無償アプリのみで多彩な授業を展開している
□ iPadの標準機能で教務・校務の効率化にも取り組んでいる