iPadで児童の学びを拡張する英語専科教員の信念|MacFan

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iPadで児童の学びを拡張する英語専科教員の信念

文●三原菜央

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

Apple Distinguished Schoolである近畿大学附属小学校に2008年より勤務する宮崎慶子教諭は、英語教育とテクノロジーの相性の良さを活かし、英語を楽しく学ぶ授業作りに取り組んでいる。英語教育をとおして、自身と児童、教員仲間の可能性を拡張し続ける宮崎教諭の多彩な取り組みに迫った。

 

 

学校でしかできない学び

アップル製品を活用して継続的なイノベーションに取り組む学校をアップルが認定する制度「Apple Distinguished School(ADS)」に、2021年から2024年の3年間、奈良県奈良市にある近畿大学附属小学校が認定された。同校では現在、小学1・2年生は共有iPadを、3年生は学校貸与のiPadを個人持ち、4年生以上は個人で購入した学校指定のiPadを使用し、1人1台環境を実現している。同校で英語科を担当する宮崎慶子教諭は、2010年からiPadを授業で活用していたそうだ。

「日本私立小学校連合会の研修会で、海外の先生方がiPadを活用されているの目にしたんです。それに刺激を受けて、すぐに私も学校でiPadを使い始めました」

双方向の授業は難しかったものの、子ども向けのアプリを活用して授業を行うと、物珍しさもあり、児童の反応は上々だった。2016年から学校に共有iPadが整備され、双方向でのやりとりが可能になると、宮崎教諭の実践は加速した。双方向型の英会話アプリ「おもてなCityへようこそ!」を使った授業や、音楽制作アプリ「ガレージバンド(GarageBand)」を活用した英語の文章練習など、児童が英語を楽しく体験しながら学べるよう工夫を凝らしている。現在は、「iMovie」を活用した47都道府県のPR動画作りや、台湾とアメリカの小学校との国際交流を目的としたプロジェクトが進行中だ。

「私は多様な子どもたちで溢れる“学校”という場でしかできない学びを作りたいと考えています。英語の上達だけを目的にすれば、正直なところ塾でも十分だと思うんです。でも、学校に集まっている仲間と一緒に作品を作り上げて海外に届けたりといった、ここでしかできない経験も大事です。『英語をもっと勉強しなさい』ではなく、子どもたちがいかに自発的に取り組みたいと思うかが大切で、そこで生まれた『面白そう!』『楽しそう!』といった感情が、その後の英語学習の土台になっていきます。なので、子どもたちがワクワクできる授業作りを意識しているんです」

 

宮崎 慶子教諭

2008年から近畿大学附属小学校に勤務。13年間にわたり、国際交流を担当。ICTを活用した小学校英語教育を研究している。2015~2017年には、日本私立小学校連合会外国語部会の運営委員を務める。2019年Apple Distinguished Educator認定。

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。 世界45カ国で2000人以上のADEが、Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。

 

 

テクノロジーと英語教育の相性

2020年度より小学校では新学習指導要領がスタートし、公立小学校では3・4年生から「外国語活動」が新たに始まり、5・6年生では「外国語」が教科化されている。教科化されたことにより、「聞くこと」「話すこと」に加え、「読むこと」「書くこと」の力の育成が求められている中、同校では、1年生から英語学習に取り組んでいる。

「公立小学校では基本的に担任の先生が英語の授業も担当しますが、本校は英語科の専任教員が全学年を担当します。1~4年生までは週に2時間、5・6年生は週に3時間の英語の授業があり、私は今年度1年生と5・6年生を受け持っています。1年生から『フォニックス』という、発音と文字の関係性を学ぶ音声学習法に取り組んでいます」

英語教育とテクノロジーの相性は良く、積極的にiPadを使用しており、その活用方法は幅広い。英語教育には、単語や発音を覚えるというインプットが欠かせないが、目や耳で楽しみながら学習できるフォニックスの学習アプリや、簡単にクイズ作成ができる「カフート(Kahoot!)」など、ゲーミフィケーションを活用し、学習を支援している。

「アプリなどを使えば、1年生から無理なく学習を積み重ねていくことができます。どうしても個人差は生まれてしまいますが、児童一人ひとりの習熟度に合わせて最適な問題を出してくれる学習支援教材『キュビナ(Qubena)』なども活用して、個別指導と合わせて対応しています。英語に慣れ親しませるだけでなく、着実に英語を使う力を高めていくことが課題とされる中、iPadさえあれば発信力や表現力を培うことができるので、デジタルとの組み合わせの相性がとても良い教科だと思います。最近では『AR Makr』というAR(拡張現実)技術を使ったアプリを使って、前置詞クイズにも取り組みました。個人的にARを活用した授業作りに可能性を感じています」

 

誰かのための学びへ

自身の小学校時代の担任の先生に憧れて教員を志した宮崎教諭は、子どもたちの学びを進化させるため、自己研鑽を重ねている。2015~2017年には、日本私立小学校連合会外国語部会の運営委員を務めてICTを活用した実践を積み重ね、2019年にはADE(Apple Distinguished Educator)に認定された。応募のきっかけは、ADEの先生方が講師を務めるワークショップに参加したこと。その後の懇親会で、ADEの英語科の先生から応募を薦められたのだという。そして、見事ADEに認定された宮崎教諭だが、2019年に参加したオーストラリアでのADEインスティテュート(研修会)が大きな転機となる。

「英語が話せることもあり、言葉の隔たりなく海外の先生方とコミュニケーションを取ることができたので、深い質問もできましたし、『一緒に何かやろう!』と、具体的な話がすぐにできました。考え方が大きくアップデートされるくらい衝撃的な体験でした。現在も海外のADEの先生たちとのやりとりは続いています。特に台湾の先生とは積極的に交流していて、クラスの児童と台湾の子どもたちをコロナ禍の学校休校中にオンラインでつないで交流しました。自由参加ながら、多くの子どもたちが参加してくれて、英語で自己紹介をし合ったり、一緒にアクティビティをしたり、私にとっても思い出深い交流でした」

ADEとの交流は海外に留まらない。国内のADE同士で定期的に勉強会を開いたり、一般の先生向けのワークショップをADE仲間と共催するなど、積極的だ。校内でも「クリップス(Clips)」をはじめとしたアプリの活用法や、授業アイデアを広げる研修の講師を務めることもあるという。

「ADEになるまでは自分のために学びを深めていましたが、横のつながりが増え、自分の実践がほかの先生方にとっても役立ち、また交流のきっかけにもなるとわかりました。ちょうど今、GIGAスクール構想で全国の小中学校に端末が整備されていますが、どうやって授業で活用していこうか悩まれている先生方へ、iPadを使った授業デザインのコツを発信していきたいです」

英語教育をとおして、自身と子どもたちと教員仲間の可能性を拡張する宮崎教諭の挑戦は、まだまだ続く。

 

宮崎教諭の担当クラスでは今年、47都道府県の紹介ビデオを英語で制作するというプロジェクトを行っている。児童は自分たちで用意した英語のスクリプトを練習し、「iMovie」で撮影・編集した。

 

 

自己紹介の単元では、「GarageBand」アプリを使って録音した自分の声音を変え、「who am I?」クイズを行った。

 

 

英語のモジュール学習では、目の前にいる相手と会話をしているかのような自然なコミュニケーションが疑似体験できるアプリ「おもてなCityへようこそ!」を活用し、英語を聞く力、話す力を培っている。

 

 

英語の授業にて、アプリ「AR Makr」を使った前置詞クイズに挑む子どもたち。たとえば、「The dragon is on his hand」というお題に対して、そのセンテンスに合ったポーズを撮影する。

 

 

校内研修では、宮崎教諭が講師を務めることもしばしば。たとえば、動画の撮影から編集までできるApple純正アプリ「Clips」の使い方をレクチャーした。

 

宮崎慶子教諭のココがすごい!

□ iPadアプリをフル活用し、児童がワクワクできる授業をデザインしている
□ 海外のADEと積極的にコラボし、コロナ禍での休校期間中も国際交流を実現
□ 英語教育×テクノロジーの実践で、児童と教員仲間の可能性を拡張し続けている