教育・医療・Biz iOS導入事例

教員全員が工夫する! iPadが“自然に溶け込む”学び

文●神谷加代

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

多くの学校では、iPad活用を校内で広げるために、ITに強い教員がリーダーとして先導する。しかし、必ずしもそうした教員がいるとは限らず、いない場合は教員全員で進めていくしかない。2019年秋にADSに認定された洗足学園小学校も同様の境遇にいた学校。いったいどのようにiPad活用を進めたのだろうか。

 

 

名門校の1人1台活用

教育分野は今、文部科学省が掲げる「GIGAスクール構想」という施策で急速にIT化が進もうとしている。これは、児童・生徒に1人1台の学習用端末と、全国の学校に高速大容量の通信ネットワークを整備する構想で、2019年度補正予算案に2318億円が盛り込まれた。今後、学校現場には大量のタブレットPCが導入されるだろうが、何度も本連載で書いているように、IT機器を入れることがゴールではない。

導入後の活用を推進するためには、どうすればいいか。2019年秋にADS(Apple Distinguished School)に認定された洗足学園小学校(神奈川県川崎市)の事例を紹介しよう。同校は、首都圏でも有数の名門小学校で、中学受験に力を入れる学校として知られている。

そんな洗足学園小学校がiPadを導入したのは2016年。初年度は教員に1人1台と、学校共用として45台のiPadを整備した。同校の赤尾綾子教頭にiPad導入の理由を聞いた。

「子どもたちの荷物が重く、なんとかしたいと考えていました。iPadを導入すれば、通学の荷物が減らせるのではないかと考え、教員用と学校共用のiPadを整備し、1人1台の検討をスタートしました」

ほかにも、カリキュラムが多い同校では、iPadを使うことで、授業をスマートに進められるのではと考えていたようだ。

導入から1年後の2017年頃から、教員のiPad活用が盛んになってきたと赤尾教頭。導入初年度から、教員たちは外部の研修会や展示会に足を運び、情報を収集するとともに、校内では情報共有や使い方を学ぶ研修会も開催するようになった。

加えて、2017年の秋にアップルTVを設置し、教員や児童のiPadを簡単に映写できる環境にしたことも活用に拍車をかけた。これは洗足学園小学校に限った話ではないが、教育現場では、「大きく見せる」「カラーで見せる」「書いたものを見せる」という具合に、デジタルで映写する機会が多く、アップルTVがあるのとないのとでは、iPadの稼働率も変わってくる。

「先生方のiPad活用が盛んになってきたとき、アップルTVがあればもっとフレキシブルに授業ができるので設置してほしいという意見が上がったのです。先生方のこうした希望はできる限り叶えるようにしているので、購入し、実践してみたところ、さらにiPadの授業活用が広がりました」(赤尾教頭)

その後、同校では2018年度から小学3年生を対象に1人1台を実施。さらに2019年度の秋からは、3年生になるまでに慣れてほしいという狙いで、2年生より1人1台をスタートした。現在、2年生から4年生まで、計3学年で約320台が稼働している。

 

 

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神奈川県川崎市にある洗足学園小学校。小学校は共学、中学・高校は女子校になる。洗足小学校は、首都圏でも人気の高い私立名門校で、中学受験に力を入れる学校として知られており、卒業生の多くは難関の国立・私立中学へ進学している。「謙虚・奉仕・犠牲・愛」を建学の精神に掲げており、社会にあってリーダーの役割を果たす人材の育成を目指す。

 

 

然に溶け込むiPad

洗足学園小学校では、多くの教員がiPadを使う授業を行っているのが特徴だ。取材時には2年、3年、4年生と教室を渡り歩きながら、その様子を見ることができた。

4年生社会の授業では、冒頭でクイズアプリ「カフート(Kahoot!)」を活用し、子どもたちが作成した復習問題に挑戦。「麦の生産量、第3位はどの国でしょう?」「たまねぎの生産量、第3位はどこでしょう?」などの問いに対して、制限時間内に4択で答える。正解が発表されると「やったー!」など歓声が上がり、誰が早く答えたのか、ランキングも表示される。子どもたちは心から授業を楽しんでおり、食いつきもすごい。

続いて、4年生理科の授業へ。この授業では授業支援ツール「ロイロノート・スクール」を使ってノートをとっていた。月の形の変化について学んでいたが、iPadにアップルペンシル(Apple Pencil)で書いているせいか、どの子もささっと月を書いて、色を塗って、スピーディにノートを仕上げていく。

3年生の社会では、社会科見学で学んだ「昔の家」についてグループで「キーノート(Keynote)」にまとめていた。子どもたちはキーノートの共同制作機能を使ってリアルタイムにスライドを共有しながら編集を進めていく。アップルが提供する学習管理アプリ「スクールワーク(Schoolwork)」を使えば、教員と生徒が同時に同じファイルで共同制作ができる。グループ内の作業を見ていると、「奈良時代のことを書いていないから、ここにテキストボックスを作っておいたので、あとで入力してね」と友だちが作成したスライドを見てアドバイスし合う姿も。

個人用のiPadを使い始めて3カ月の2年生は、生活の授業でキーノートを使って、かるたづくりに挑戦していた。かるたの文章を書き、それに合う絵を書くのだが、上手くコマの絵を書けない子がWEBサイトで画像検索し、それを見ながら絵を書いていたのが印象的だった。

また、隣の2年生のクラスは、「ページズ(Pages)」を使って将来の夢をテーマにした作文に挑戦。言いたいことを文章でいくつも書き出したあと、[選択ツール]で囲み、それらを動かして文章の構成を考えるという具合だ。なるほど、こうすれば話の構成もスマートに考えられる。

 

 

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クイズアプリ「Kahoot!」を利用した復習問題。授業の冒頭10分ほどを利用して、子どもたちが作成した問題を出し合う。農業に関する問題を出し合っていたが、作物の生産量を問いにする子、農業で使う機械を問いにする子、さらには農業の歴史について問題を作る子など、出題範囲も難易度もさまざま。子どもたちが友だち相手にいろいろ考えて作問したのが伝わってきた。

 

 

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4年生理科の授業。授業支援ツール「ロイロノート・スクール」を使って、ノートテイキング。Apple Pencilを使ってささっと色を塗って、イラストを書き込む子どもたち。紙に書くのと異なり、色鉛筆を変えたり、消しゴムで消したりの作業もない。その分、書く時間が短縮できるのがメリットだ。

 

 

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3年生の社会。社会科見学で学んだ「昔の家」についてグループでKeynoteにまとめる。グループごとに共同制作できるようにSchoolworkで設定。グループでは役割分担をしながら、リアルタイムにスライドに書き込んでひとつの作品に仕上げる。

 

 

よりクリエイティブに

このように、さまざまなクラスでiPadを活用している洗足学園小学校。こうした学びを支えているのは、教員全員がiPadを活用できるスキルを持っていることにほかならない。授業の中でも、iPadのメリットが活かせるよう、使い方のポイントを突いているのが印象的だ。ある学年がインフルエンザで学級閉鎖をしたときも、授業支援ツールを通して、元気な子どもたちに向けて課題を配信するなど、活用範囲が広がっている。

さらには、子どもたちの使い方もさまざま。カレンダーやリマインダーアプリで予定を管理する子、メモアプリを連絡帳に使う子など、それぞれに工夫して使う姿が見られるという。

「OSがアップデートされたときは、子どもたちがどんな新しい機能があるかを見つけて、私たちに知らせてくれるんです。『ここが変わってるよ』と教員に教えてくれて、私たちのほうが勉強になっていることもあります」(赤尾教頭)

洗足学園小学校で教育ICTを担当する宮田好展教諭は、iPadを活用した学びの手応えを語る。

「子ども同士が良いものをつくるために、コミュニケーションを活発に行うようになりました。もっと良いものをつくるためにはどうすればいいかを話し合い、完成度の高さを求めるようになってきたと思います」(宮田教諭)

今までは、想像力、思考力を発揮する場が限られていたが、iPadを使うことでさまざまな教科でクリエイティブな場面を作れるようになったというのだ。

赤尾教頭は子どもたちの変化についてもこう話す。

「よりクリエイティブなことをしようと考えるようになったと思います。今までは何かを表現したくても、紙に書いて、間違っては消してという作業がありましたが、iPadは試行錯誤がしやすく、子どもたちのやる気を削がないのがいいですね。気になることをパッと調べたりして、子どもたちの意欲が高まってきたと思います」(赤尾教頭)

とはいえ、なんでもかんでもiPadで学習するわけではないと赤尾教頭。同校の学びの基本である「体験」を重視したうえで、アナログとデジタルの利点をそれぞれ使い分けていくという。今後は、子どもたちの学びを広げるために、iPadが“授業の中に溶け込む”文房具としての活用を進化させたい考えだ。

 

 

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教員研修の様子。「ITに強い教員はいないが、全員がある程度iPadを使えるところが本校の強み」と話す赤尾教頭。「ICTカフェ」と呼ばれる放課後20分くらいで行うカジュアルな研修会を自主的に開くなど、教員同士で熱心に取り組んでいる。

 

洗足学園小学校のココがすごい!

□ ITに強い教員がいなくても、教員全員の力でiPad活用を高めた
□ 多くの教員がiPadを活かした授業を行い、iPadが文房具のように溶け込んでいる
□ 多くの教員がiPadを活かした授業を行い、iPadが文房具のように溶け込んでいる



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