目指せ「Apple認定校」! 学校全体で取り組むiPad1人1台|MacFan

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目指せ「Apple認定校」! 学校全体で取り組むiPad1人1台

文●神谷加代

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

iPad1人1台を実施する学校は増えているが、学校全体の活用に広がらない課題を抱える教育者は多い。どうすれば教師全員が同じミッションを持ち、iPadを学びに活かせるのか。2019年12月にADSに認定されたばかりの、北鎌倉女子学園中学校・高等学校の取り組みを見ていこう。

 

 

教師全員が取り組む改革

私立学校を中心に取り組みが進むiPadの1人1台導入。言うまでもないが、デバイスを入れることが目的ではなく、重要なのは導入後の活用だ。今の学習を変えるために、いかにiPadを活用できるか。現場の教師たちがそのミッションを共有し、全体で取り組まなければiPadの活用は進まない。しかし実際は、一部の教師しか使っていないケースや、導入したはいいもののどう授業に使えばいいのかわからず、活用が進まない学校もある。

学校全体で取り組みを進めるためには、どうすればいいのだろう。北鎌倉女子学園中学校・高等学校(以下、北鎌倉女子学園)の事例を紹介しよう。同校は2018年の新中学1年生と新高校1年生からLTEモデルのiPadを1人1台で貸与し、本格的なICT活用をスタートさせた。2年目を迎えた現在は、中学1年生から高校2年生まで導入を広げ、約300台のiPadが稼働しているという。同校のICT教育推進委員長の三室哲哉教諭に話を聞いた。

「1人1台を導入する前から、学校全体として、iPad活用を広げていくためにはどうすればいいのかを考えていました。そのときに『ADS(Apple Distinguished School=アップル認定校)』の存在を知り、ADSになることが学校のiPad活用を進める目標に合っていると考えました」

勉強のためにカナダのADSにも訪問したという三室教諭。アップルの教育理念が同校の建学の精神にも合っていると実感したことから、アップルのテクノロジーを活用して、もう1度教育を見直そうとADSをひとつの目標にした。

とはいえ、学校の教師全員がiPadに慣れているわけではない。そこで三室教諭は、まずは教師全員がiPadを使いこなせるようにと、教育機関向けクラウド学習ツール「Gスイート・フォー・エデュケーション(G Suite for Education)」を活用して、職員のポータルサイトを作成した。

職員会議などの紙の資料をペーパーレス化して共有し、保護者からの出欠連絡や連絡事項の伝達もメールで対応できるシステムに変更。学校生活のさまざまな校務をデジタル化して、教師たちがiPadを日常的に使う環境を生み出した。授業だけのiPad活用に留まってしまうと、汎用性の高いテクノロジーのメリットが活かされないからだ。

一方で、同校は思い切った授業改善も進めた。なんと、すべての教科で1カ月の授業時間をPBL(Project-based learning)に使い、新しい授業スタイルに挑戦したのだ。

「それくらい思い切った挑戦をしないと、教育を変えていくことは難しいと思ったんです」(三室教諭)

また、管理職も含めた教師全員が、アップルが提供する教師向けのオンライン学習プログラム「アップルティーチャー(Apple Teacher)」の認定を受けるなど、全員でiPad活用に取り組む体制も整えた。その結果、同校の取り組みが評価され、2019年12月にADSに認定された。

 

北鎌倉女子学園中学校・高等学校(神奈川県鎌倉市)は、創立80周年を迎えた全日制の私立女子校。「健康で科学的な思考力を持った心豊かな女性の育成」を教育理念に掲げ、「笑顔のあふれる学園」として古都鎌倉の地で女子教育を実践してきた。中学と高校にはそれぞれ音楽科が設置されているとともに、普通科では英語教育やICTの取り組みにも注力する。

 

 

2019年12月にはApple Distinguished Schoolに認定。校長を含め、全専任教員が「Apple Teacher」の資格を持つ。

Apple Distinguished School(ADS)…Appleが認定する革新的な教育機関。世界31カ国で515校のADSが、 Appleのテクノロジーを活用しながら継続的なイノベーションに取り組んでいる。

 

 

生徒たちの違う一面が見える

iPad導入2年目を迎えた北鎌倉女子学園では、あらゆる教科でiPadを使う場面が見られる。同校を見学した際にも、高校の理科、英語、中学の数学、家庭科、音楽科の英語の授業など、どの教室を覗いても、iPadが当たり前のツールとして活用されていた。授業支援ツール「ロイロノート・スクール」を使って、教師と生徒が双方向性でやりとりしたり、学習管理ツール「グーグル・クラスルーム(Google Classroom)」を活用して授業で使う資料を配布し、宿題やレポートを提出するなど、1人1台の環境を活かしている。ほかにも、授業ではキーノートやiMovieなどのアップル純正アプリをうまく組み合わせながら活用しているという。

たとえば、三室教諭が受け持つ高1「社会と情報」では、情報発信について考える学習で、「CMづくり」をテーマにプログラミングと動画制作を取り入れたPBLを実施していた。たとえば、ピアノやバイオリンなど自分の好きなものを選び、それを相手にどのように伝えるかを考える。CMには人型ロボット「ペッパー(Pepper)」をプログラミングで動かす場面も盛り込み、ひとつの動画に完成させるというチャレンジングな内容だ。

「このような活動は、生徒一人一人の個性が出るのが良いですね。音楽が得意な子が自分で弾いた曲をBGMに使ったり、意外な一面が見えるようになりました。動画を提出したあとも、互いに作品を共有して閲覧できるようにして、生徒同士も交流できました」(三室教諭)

ほかにも、人前で発言するのが苦手な生徒が、iPadで自分の声を吹き込んだプレゼンテーションを発表し、ほかの生徒たちから喝采を浴びたこともあった。

「iPadがなかった頃は、いつも恥ずかしい思いをしていた生徒が、iPadがあるおかげで前に出て堂々と発表できるようになりました。今までうまくできなかったこともiPadを使うことで自信につながるのではないかと思っています」(三室教諭)

 

 

授業スタイルを変えたい

このようにiPad活用を進めてきた北鎌倉女子学園であるが、最初から導入が順調に進んだわけではない。どの学校にもあり得ることだが、なぜiPadが必要なのか、現場でその理解を得ることは難しい。三室教諭も当初は、何度も外部の研修会に足を運び、ほかの学校がどのような考えでiPadを導入したのか、その考えを情報収集しては、管理職に伝えたという。

「社会はテクノロジーで変化しているにもかかわらず、教育は100年以上、授業のスタイルが変わっていません。もっと教育を変えるためにも、生徒が前を向いて教師の話を黙々と聞くような授業を変えたいと思っていました」とiPadにかける想いを語ってくれた。

教師の間でもiPad導入後は変化が生まれているという。

「教師の間で、社会で求められる力について議論するようになりました。そのために、どのような授業をすればいいか。今は、プレゼンなどで生徒が前に出る場面を作る教師が増えましたね。生徒たちを見ていると、自分なりの意見を話す力や、自分で発信することを怖がらない生徒が増えてきたと思います」(三室教諭)

来年度から北鎌倉女子学園では、中学校の普通科を「先進コース」に切り替え、探究学習やPBLを重視した新しい学習スタイルをスタートさせる。生徒たちの創造性やコミュニケーション能力の育成を目指して、iPadを積極的に活用し、学びの質を高めていくという。

「新しいコースを設置しますが、学校のためにという気持ちよりも、日本の教育を良くしたいという教師の想いが学校の成果につながると考えています。この視点を忘れずに、これからも新しい教育に挑戦していきたいです」(三室教諭)

ADSとして新たな出発地点に立った北鎌倉女子学園。大胆な挑戦で、教育の未来を拓いてほしい。

 

北鎌倉女子学園中学校高等学校 ICT教育推進委員長・情報科主任 三室哲哉教諭。1人1台の端末としてiPadを選択した理由は、故障が少なく、サポート期限が長いことだという。

 

 

iPadを活用した授業風景。北鎌倉女子学園では、生徒のiPadに対して厳しい制限を設けず、自由な使い方を認めているのが特徴。不適切な使い方をしないようにとルールで縛るのではなく、より良い使い方を教えていくという考えだ。生徒たちは、自分でアプリをインストールすることはできないが、個人のApple IDを使用すれば、インストールができる設定だという。

 

 

iPad導入をきっかけに教員専用のポータルサイトを作成。ペーパレス化を進め、教員が日常的にiPadを活用する環境を作った。現在はChromebookを教員用のコンピュータとして導入しているが、来年度からMacBookに変更するという。

 

北鎌倉女子学園のココがすごい!

□ 学校全体としてiPad活用を広げる目標として「ADSになること」を掲げ、実現した
□ 学校全体で活用が進むように、日常の校務改善と、授業改善の2本軸で進めた
□ 本格的な学びの改革に向けて、学校のカリキュラム編成も継続的に見直している