異色英語教師が取り組む「iPad×英語×クリエイティブ」|MacFan

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異色英語教師が取り組む「iPad×英語×クリエイティブ」

文●神谷加代

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

iPadとクリエイティブな活動を組み合わせて、子どもたちの表現力を掻き立てる。そんな教育を実践しているのが立教小学校の天野英彦教諭だ。当初は「iPad活用のイメージが持てなかった」と話す同教諭だが、何をきっかけに変わったのだろうか。

 

 

一度見た授業が人生を変えた

「まさか、小学校の英語の教師になるとは思いもしませんでした。もともとイギリスにある全寮制の中高で政経倫理の教師をしていたんです」

そう話すのは、ADE2017に認定され、現在は立教小学校(東京都豊島区)で英語を受け持つ天野英彦教諭だ。同教諭は大学卒業後、イギリスにある全寮制の立教英国学院に赴任。政経倫理の教師として数年勤めたあと、立教小学校の英語教師になった。

 

 

Apple Distinguished Educator
天野英彦教諭

立教小学校英語科主任。小学校1年生から6年生までの英語科授業を担当。日本では3校しかない私立男子小学校で、日々、子どもたちの屈託のない笑顔と好奇心から元気をもらっている。英語を教えることよりも、英語をもっと学びたくなるような仕掛けを教科の枠を越えて創り出すことを楽しんでいる。2017年にADE認定。好きな言葉は「セレンディピティ」。

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。世界45カ国で2000人以上のADEが、Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。

 

 

「大学時代はインドの政治思想史が専門で、アメフトをやりながら座禅を組んでいるような人間でした。イギリスの全寮制の学校で政経倫理の小論文を教えていたときに、世界観としての言語の面白さに気づいて、自分はやっぱり“言語の先生”でいたいなと思ったんです」

ところが、イギリスから日本へ帰国した天野教諭は、たまたま訪れた母校、立教小学校の英語の授業を見て、考えが一転。“小学校の先生になろう”と決意したというのだ。

「たまたま見学した英語の授業では、子どもたちが英語で歌ったり、踊ったりして、とても楽しそうに学んでいました。英語の発音もすごく良くて、音として耳に入る英語の学び方は素晴らしいなと。こういう形で子どもたちと一緒に英語を学べたらさぞ楽しいだろうと思い、小学校の教師を目指そうと思ったのです」

それからというもの、同教諭は立教小学校で非常勤講師をしながら、通信制の大学で小学校教師になるための勉強に取り組み、晴れて免許を取得した。

その後、英語教師となった天野教諭は精力的に英語教育に取り組む。先輩教員が起ち上げた英語教育のワーキンググループの座長を引き継いだ天野教諭は、教員の世代間の壁や、小・中・高・大の間に横たわる壁を取り除くべく奮起。座長となり現在4年目、この取り組みは立教学院の英語一貫連携教育における新たな方向性を展望する貴重な存在となっている。

「英語教育としては、この20年間ほど、『コミュニケーション能力の育成』『異文化理解と対応』『発信型の英語』という3つの柱を軸に取り組んできました。しかし、時代も変わり、テクノロジーもさらに進化し、社会で求められる力も変化しています。こうした時代において、より英語教育の質を高めるためには、変えてはいけないものは変えず、変えていいものはどんどん変えるといった見極めで、教師の世代間ギャップを埋めながら進めていくことが非常に大切だと感じることが増えました。若い力とベテランの知見がうまく融合できればと思っています」

 

 

小学6年生の英語の授業。パラリンピックをテーマにグループでPBLに取り組む。子どもたちは書籍やネットで調べた情報をまとめ、スライドを作成して発表。発表後は、授業支援ツールを活用して、相互評価を行い、互いにフィードバックを送る。

 

 

英語の授業で、「Swift Playgrounds」を活用した英語のプログラミング学習を実施。「英語の苦手な児童もパズル感覚で楽しく取り組めた」と天野教諭。

 

 

英語は教わるものではない

立教小学校は2014年度から、3~6年生を対象にiPadミニによる1人1台を実施している。しかし、天野教諭は最初からiPad活用に積極的にはなれなかったという。それ以前には、iPodを授業に取り入れてリスニング教材として使用していた時期もあったが、iPadに関しては、当初何ができるが見えなかったというのだ。

  「iPadを使った授業のイメージができなかったのです。テクノロジーは面白いと思っていましたが、当時は英語の授業でやらなければならないことが多く、新しいことに取り組む時間も足りていませんでした」

しかし、それでも1人1台の環境を学習に活かそうと、子どもたちが自宅でiPadを使って学べるリスニング教材や、個別学習の教材を「iTunes U」などで作成。これをきっかけに、教師として、一人一人の子どもたちに手が届くことを実感し、個別対応できることにiPadのメリットを見出したという。

そこから授業でも、iPadの活用に取り組み始めた天野教諭。最初は、学校紹介の動画を「iMovie」や「クリップス(Clips)」で作成し、簡単な英語の説明を付け加えた作品を作った。

「子どもたちが一生懸命に動画を作成する姿を見て、クリエイティブな活動が学びの中に入ることが効果的だと思いました。自分たちが作った作品だからこそ、英語で説明するときも“伝えたい意欲”が芽生え、英語を話そうと頑張る姿が見られました」

教師が一方的に英語で話しかける授業よりも、子どもたちの気持ちがこもった英語を引き出すほうが、学びとして価値があるというのだ。

ほかにも天野教諭は、「スウィフト・プレイグラウンズ(Swift Playgrounds)」を活用した英語のプログラミング学習にも取り組んだ。この学習でも、コーディングというクリエイティブな活動に対して、英語の苦手な子どもたちが言葉の壁を越えていく姿に驚いたという。

「英語に対して苦手意識を持っていた子どもたちが、そんな姿を一切見せず、パズルで遊ぶかのように英語のコーディングに挑戦していて驚きました。もちろんコーディングといっても一番簡単なレベルなので、シンプルな英単語の羅列ですが、それでも自分の言いたいことが英語でコンピュータに通じた感覚を持てたことは大きいです。結果的に、英語が好きになって留学をした児童もいましたから」

こうしたクリエイティブな活動を学びに取り入れることで、新たな気づきを得た天野教諭。その後、授業スタイルも変わっていったという。

「“英語は教わるものじゃない、自分でできるようになるものだ”と思うようになりました。そのために教師は、子どもたちが試行錯誤できる時間や環境を用意することが大切だと考えています」

 

表現する楽しさを伝えたい

その後もさまざまな学習に取り組む天野教諭。今回、6年生の英語の授業を見学することができた。この日は、パラリンピックをテーマにしたPBL(Project Based Learning=課題解決型学習)の中間発表会で、グループごとに調べた内容を発表し合うというもの。最終的には英語を交えたプレゼンテーションを目指しているが、中間発表では日本語が用いられた。

授業では、ブラインドサッカーやボッチャなど、スポーツ種目について取り上げるグループもあれば、パラリンピックのキャラクターやマークについて発表したグループもあった。さまざまなトピックの発表を聞くことができたほか、児童たちが作ったスライドからは、表現豊かに伝えようと工夫も見られた。中でも、ガレージバンドで作った自作の音楽をBGMで流すグループが多く、良い雰囲気を演出しながら内容を伝えたい、そんな気持ちに子どもたちの“もっと表現したい意欲”を感じた。

「iPadは子どもたちがクリエイティブになって表現するのに非常に優れていると思います。今はキーノート(Keynote)やガレージバンドにしても複雑なことができるわけではありませんが、子どもたちがもっと使いこなせるようになると、より本当の自分を表現できるのではないかと思っています。だから、教師も表現する楽しさを伝えていかなければと感じています」

今後は、いろいろなものを組み合わせながら、さらに子どもたちのクリエイティビティを発揮できるようにしたいと天野教諭。多様な個性を開花させる学びの場を作ってほしい。

 

 

「Keynote」や「Clips」を活用して、静止画、動画、ポスターなどを盛り込んでひとつの作品に仕上げる。英語による説明も付け加えた。子どもたちはクリエイティブな活動が大好きで、グループではなく、1人で作品を作りたいといった声もあがるという。

 

 

大学ではインドの政治思想史が専門だった天野教諭。夏休みに開催される学校のイベントでは毎年、教師が出店するブースとして「哲学対話」を開いているという。答えのないテーマを取り上げ、小学生が真剣に話し合う。昨年は「人間の感情」について、「うれしいと楽しいの違い」ついてなど話し合った。「子どもたちにとって学校生活は忙しいが、対話する時間を大切にしていきたい」と天野教諭。。

 

 

天野英彦教諭のココがすごい!

□海外の全寮制学校で教師人生をスタート。その後、日本の小学校の先生になった
□当初はiPad活用を模索していたが、クリエイティブな活動と融合に学習価値を見出した
□英語の授業などを通じて子どもたちに「表現する楽しさ」を伝えている