教育・医療・Biz iOS導入事例

教師と生徒とiPadで作り上げる「級友との練磨」

文●神谷加代

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

iPadを活用した反転授業や協働学習で教育者の注目を集めた近畿大学附属高等学校の芝池宗克教諭。その授業スタイルは、目の前にいる生徒の声を頼りに、試行錯誤を重ねたものだった。どのような想いで芝池教諭は教育に向き合ってきたのか。それを知ることは、教育の本質にも通ずるはずだ。

 

高校生こそ協働学習を

今でこそ日本の高校は、コミュニケーションや協調性を重視し、グループ学習や協働学習を取り入れているが、以前は決してそうではなかった。むしろ、大学受験に関係ない学びは軽んじられていた節もあっただろう。そんなときから生徒の学び合いにこだわって授業を作ってきた1人が、近畿大学附属高等学校(以下、近大附属高)の芝池宗克教諭だ。数学を受け持つ同教諭は、授業の中でなんとか生徒同士の協働学習を増やして理解が深まらないかと長年、試行錯誤を続けてきた。芝池教諭は当時を振り返る。

「最初は、机をくっつけて生徒同士が教え合う『グループ学習』から始めたのですが、生徒からも管理職からも、“そんな授業はやめてほしい”と言われました。“高校生になってまで小学生みたい”とか、“生徒同士で教え合うよりも先生が教えたほうが理解が早いでしょ”とかね(笑)」

たしかに、大学受験が目的で勉強に励む生徒や、その目標をサポートする教師から見れば、“何のためにグループ学習をするの?”と疑問を持つのは当然かもしれない。しかし、芝池教諭は「高校生の間に協働学習を体験しておくことは学び方のカードを増やすという意味で重要だ」という信念から、授業の中に取り入れていた。一方的に教師の話を聞く授業では生徒は受け身のまま。これから先の人生において必要な力を身につけるためにも、数学の授業でできることがあるというのだ。

とはいえ、授業の中でグループ学習を行うのは、時間的にとても厳しかったと芝池教諭は語る。そこで同教諭は近大附属高がiPadを導入したタイミングで反転授業を導入。反転授業とは、生徒たちが動画などを用いて自宅で予習を行い、授業ではグループ学習や演習問題に取り組む授業スタイルであり、この方法ならば授業時間内にグループ学習の時間をもっと増やせると芝池教諭は考えた。

「反転授業については、全容が見えてスタートしたわけではありません。授業の中で生徒にこう変わってほしい、こんな風に動いてほしいと考えていたときにiPadが導入され、これによって発想を広げることができました」

その後、反転授業と協働学習を組み合わせた芝池教諭の授業は多くの教育者の関心を誘い、学校視察や講演、書籍化などの依頼も舞い込むようになった。IT先進校である近大附属高においてiPad活用の取り組みにも貢献し、同教諭は2015年のADEにも選ばれた。

 

 

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Apple Distinguished Educator
芝池宗克教諭

近畿大学附属高等学校教諭(数学科)。2013年から、同校のiPad導入に伴い反転授業を開始。反転授業×協働学習で生きる力を育む授業を目指し、2016年から「級友との練磨」と名付けている協働的な学びの授業展開を行っている。2015年にADEに認定。

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。世界45カ国で2000人以上のADEが、Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。

 

 

教育は教師が汗をかくもの

芝池教諭がiPad導入をきっかけに始めた反転授業とは、どのようなものか。大まかな流れとしては、生徒たちが自宅で動画教材や教科書を見ながら「予習ノート」を作成し、授業では演習問題やグループ学習に取り組むというスタイルだ。演習問題は予習した内容がきちんと理解できているかを確認するためのもので、この部分は芝池教諭が主導となる。グループ学習では「ジグソー法」と呼ばれる生徒同士の教え合いや、生徒による問題集や解説動画の作成にも取り組む。こうした一連の学習を、1~2カ月のスパンで行い、最終的には生徒が個人で振り返りできるような個別学習の時間も設けている。

芝池教諭はこのような授業デザインに至るまで、試行錯誤の連続だったと振り返る。たとえば最初の数年間は反転授業の予習として、動画教材を見ながら予習ノートを作成するようにしていたが、実際に動画を観てくる生徒は3割程度。

「当時は教師が動画を作り、予習ノートを課題にすれば、生徒たちは当然観てくるものだと思い込んでいました。しかし、生徒によっては“動画を観なくても、教科書を読めばわかる”と話す者もいて、そのとき初めて自分が動画を押しつけていることに気づきました。本来は予習をきちんとすれば良いのであって、私自身が自分の作った動画に縛られていた。そんなことも反転授業をやってみるまではわからなかったのです」

また、グループ学習の時間についても、最初は多くとるほうが良いと考えていたという。教師が説明する時間をできる限り減らし、生徒が協働で取り組める時間を長く設けるほうが学びが深まるのではないかという理由だ。

「実際にグループ学習を行ってみると、予習してきた内容を生徒たちが咀嚼できる時間が必要だと気づきました。そのため授業の中に教師主導で解説する時間を設け、抑えるべきポイントを説明するようにしました」

このように芝池教諭は生徒の学び合いの質を高めようと、反転授業や協働学習の試行錯誤を繰り返している。生徒の声や様子を丁寧に受け止めながら、決して教師のやり方を押しつけるのではなく、生徒目線に立って授業を改善し続けているのだ。

「教育は教師が汗をかくものです。自分が体感したこと、やってみたことしかわかりませんし、やった中から次のアップデートが見えてきます。生徒たちの力をどう引き出すか。そのために教師が二の足を踏むことだけは避けようと思っています」

芝池教諭がこだわり続けた生徒同士の学び合いも、2013年に反転授業を始めた当初からかなりバージョンアップされた。その最たる形が、生徒が作問し、生徒が採点および解説を行う数学演習のスタイルだ。芝池教諭はこれを「級友との練磨」と呼ぶ。

「グループ学習をしたからといって協調性が必ず身につくとは思っていません。問題を作ったり、友だちに説明したり、ひとつの問題を複数人で解いたりと、生徒たちの立場が授業の中で変わることが大切だと考えています」

 

本当に学びたいことは何?

数学以外でも芝池教諭の挑戦は続く。同教諭は2016年から、生徒が自分の好きなテーマに基づいて研究する課題探究を受け持つようになった。生徒たちは選んだテーマに対して情報収集し、深く調べたあとに仮説を立てて、自分が決めた研究手法に基づいて研究を進める。その後、内容を論文にまとめて、最終的にはポスターセッションで発表するという具合だ。こうした学びは答えが決まっているものではなく、学校で習う範囲も越えてしまうため、教師にとってはチャレンジングである。実際に、生徒たちが挙げてきたテーマも「花粉症」「脳と音楽」「本屋の生き残り」「ブルーライトの効果的削減」など多岐に渡り、教師が指導することはなかなか難しい。

しかし、芝池教諭は課題探究の手応えとして「こうやって学びを広げることで、生徒たちが学び方を体得できるのが良いと思いました」と語る。答えのない問題に対して、自分がどうアプローチするのか。これは同教諭が数学の授業で行う「級友との練磨」や反転授業に通ずる部分があるというのだ。

「生徒たちが“本当に自分が調べたいことは何か”を突き詰めることが大切だとわかりました。自分は何を学びたいのか、何がしたいのか。生徒たちは周りの意見を聞いて答えを見つけてしまいがちですが、教師が“あなたは何がやりたいの?”という問いを投げかけて、寄り添うことが大事だと思います」

こうした気づきというのは、恐らく教師全員が感じるものではないだろう。芝池教諭自身が、長年にわたり、自分は何を教えたいのかに向き合ってきた結果だといえる。

 

 

 

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芝池教諭が作った反転授業の動画教材。教科書の内容を解説する動画を芝池教諭が作成し、生徒は自宅でそれを見ながら予習する。近大附属では学習プラットフォームに「CYBER CAMPUS」を使用し、動画もクラウドで共有している。

 

 

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生徒が作った数学の解説動画。演習問題の解説だけを撮影する生徒、アニメーションやイラストで見せ方を工夫する生徒、または歌にしてしまう生徒など、表現方法はさまざま。この動画を作ったあとに、教室で教え合いの活動を行うという。

 

 

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「級友との練磨」の授業風景。作問した生徒がほかの生徒に対して解説を行い、そのあと生徒同士の学び合いに発展していく。

 

 

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反転授業ですでに予習を済ませている生徒たち。教室の中では生徒同士で学び合う協働学習にウェイトが置かれる。

 

芝池宗克教諭のココがすごい!

□高校では重視されていなかった「生徒同士の学び合い」にこだわって授業を作った
□反転授業と協働学習を組み合わせた授業で、長年にわたって試行錯誤を繰り返してきた
□課題探究を通して、生徒たちが本当に学びたいものを引き出そうとしている



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