教育・医療・Biz iOS導入事例

“高校の成功体験を小学校にも”ICT先進校のiPad導入シナリオ

文●神谷加代

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

“君たちを信用していない大人はiPadに規制をかける、でも、そうさせてはいけない”そう言って生徒たちの意識を高めたのは、当時の近畿大学附属高等学校ICT教育推進室長・森田哲氏だ。同校を一躍ICT有名校へと躍進させたその手腕を、2017年度から校長に就任した同附属小学校でも存分に発揮している。

 

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1954年に創立した近畿大学附属小学校。すべての教科をとおして、子どもたち自らが問題を発見し、必要な解決策を考える問題解決型学習を取り入れており、自分で考える力の育成に取り組んでいる。

 

 

ICT先進校の自覚

近畿大学附属高等学校(以下、近大附属高)といえば、全国的にも有名なICT先進校だ。2013年に1人1台のiPadを導入し、中学校を含め現在も教師と生徒合わせて4000台もの端末が稼働している。

同校のiPad活用でもっとも注目を集めたのは、生徒のiPadに規制や制限を設けず、自由な使い方を認めたことだ。今も、iPadを導入する多くの学校では、“何かトラブルが起きては困る”と生徒の端末を規制する学校が多いが、近大附属高は当時から、授業に限定しない使い方を実現するために生徒の自由を認めていた。こうした同校のiPad導入を指揮した1人が、今回紹介する森田哲氏だ。同氏は当時、近大附属高のICT教育推進室長としてiPad導入に携わり、現在は近畿大学附属小学校(以下、近大附属小)の校長を務める。

森田校長は当時を振り返り、生徒たちの意識を高める“語りかけ”を大事にしていたと述べる。

「当時は1人1台を実施した学校も珍しく、これから日本全国に同様の取り組みが広がっていく段階にありました。そんな時期に、先に導入した我々が生徒のiPadに規制をかけては、それが日本のスタンダードになってしまうと考えました。だから、生徒たちには、“今の高校生がiPadをきちんと使えると示してほしい。君たちを信用していない大人は規制をかけたがるけど、それは間違いだとわからせるんだ”と伝えました」

幸い、生徒たちは森田校長の期待に応えた。もちろん、近大附属高は生徒数が多いため、中には不適切な使い方をする生徒もいたというが、その場合はその生徒に対して個別指導をする形で、残りの生徒たちの自由を守った。

「iPadは生徒の世界を広げてくれるツールだと考えていました。だから、当初から授業に限定した使い方ではなく、生活全般で便利に、自由に使ってほしいと思っていました。長年の教師経験で、生徒たちは面白くなければついてこないこともわかっていたので、iPadを使うならそこは譲れないと。そんな気持ちで取り組んでいましたね」

こうしてiPad活用の土台を築いた結果、近大附属高からは新しい教育の在り方や、さまざまな学習スタイルに挑戦する教師たちが多く登場し、同校はアップルが世界で認定するADS(Apple Distinguished School)にも選ばれた。

 

 

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Apple Distinguished Educator
森田哲校長

大学の卒業研究でApple Ⅱと出会い、それ以来Apple好きに。1983年より近畿大学附属高等学校に勤務し、学校に初めてワープロを導入。iPad 2を手にしたとき、教育への大きな影響を予感。2013年、ICT教育推進室長として同校の新入生1048名全員にiPadを導入する。2017年、近畿大学附属小学校校長に就任。2019年、5年生と6年生が1人1台のiPadを導入。

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。世界45カ国で2000人以上のADEが、Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。

 

 

“小学校の1人1台”への葛藤

近大附属高でiPad導入の手腕を発揮した森田校長は、その後、2017年度から近大附属小の校長に就任した。教育分野は依然、プログラミング教育の必修化や情報リテラシーの育成など、現場でのICT活用が求められていたが、意外にも当初、森田校長は小学校でのICT導入には消極的だったという。

「高校と違って、小学校のiPad導入は慎重になりましたね。そもそも、うちの小学校は古き良き文化がたくさん残っていて、先生方もとても熱心でした。本当に良い学校なので、この文化を壊してはいけないという思いがありまして。だから、本当に小学校でiPad1人1台は必要なのかと、悩んでいました」

たしかに、発達年齢の違いは森田校長を悩ませたであろう。高校生であれば、何かトラブルがあっても自己責任を問えるが、小学生の場合はそうはいかない。大人の見守りは必要であるし、その責任も問われる。健康面だって心配だ。

そうしたこともあり、森田校長は最初の1年は静観し、すでに導入されていた学校共有のiPad 120台でICT活用を進めていたという。

ところが、久々に参加したADEのミートアップで、森田校長の想いは一転。若いADEたちの発表を聞いて、iPad活用の進み具合に驚いたというのだ。“自分が決断をしないと、こんなに魅力的な授業を子どもたちが受けられない”、そんな危機感を持ったそうだ。

「他校のICT活用はかなり進んでいて、小学生でも1人1台が当たり前になると実感しました。また、ちょうどその頃、学校共有のiPadの使用頻度が上がり、低学年が使えない状況になっていたので、もう5~6年生は1人1台を導入するほうがいいだろうと決断しました」

当初のiPad導入の開始予定は、2020年4月。森田校長自身は近大附属高での経験を活かし、ある程度の準備期間を設けて本格実施をするつもりだった。しかし、現場の教師たちから“早く実施してほしい”と要望があったという。

「近大附属高はiPadを本格導入するまでに2年ほど準備に時間がかかりました。そのため、小学校でも当然、準備期間は必要だろうと考えていました。しかし、現場の先生たちのほうから早く始めたいと声があり、結果的に準備期間5カ月で本格導入に踏み切りました。学校が変わらないと、授業を変えていかないと、そんな想いを持って熱心に取り組んでいる先生方に恵まれました」

ちなみに、小学校でのiPad1人1台に関しては、情報リテラシーが発達段階にあるため、規制やルールを設けるという。児童を管理するというネガティブな発想はないが、学習用ツールとして使うためにルールを設け、学校のスタンスを決めて活用を進めていく考えだ。

 

教師こそクリエイティブに

近大附属小では現在、どのようにiPadを活用しているのだろうか。森田校長は、外山宏行教諭と宮崎慶子教諭の2人を紹介してくれた。

外山教諭は、児童たちがiPadで時代比較の動画を作成し、それを友だちに見せながら交流して発表し合う活動に挑戦した。また小学校の間は、デジタルばかりではなく、手書きのノートに書き込むことも大切であるという考えから、アナログとデジタルの良さをミックスした「ハイブリッドノート」の取り組みも実践中だ。紙のノートに書いたものを写真に撮影して、ページズ(Pages)に読み込み、さらにそこに動画や写真を埋め込んでデジタルで保存するという。

「iPadを活用することで、ノートの蓄積が簡単になりました。子どもたちのポートフォリオとして残すこともできます」(外山教諭)

宮崎教諭は、ECCと共同開発した英語アプリを授業に活かしている。同アプリは、外国人観光客におもてなしをする設定で英語を学べる仕組みで、児童たちは1人1台のiPadで学習を進める。

「これまでは45分の授業時間で全員に発話機会を作ることは難しかったのですが、iPad1人1台でそれが解消されました。全員が発話し、AIとさまざまなシチュエーションでのやりとりができるので、コミュニケーションのツールとして有効です」(宮崎教諭)

森田校長は、近大附属小でのiPad活用について「発表するのが苦手な子や、おとなしい子が、iPadを使うことで自分の意見を前に出せるようになった。自信がついたような姿も見られます」と、これまでの手応えを語ってくれた。一方で、今後の活用を広げていくためには、教師のスキル向上が課題だとも指摘した。

「iPadで子どもたちのクリエイティブな活動が増えると、それを評価する教師もクリエイティブになっていかなければなりません。そのためには、先生たち自身が自分の趣味を楽しみ、自分を磨く時間が必要だと考えています。現時点で負担になっている校務の効率化に取り組んで、もっと先生たちに時間を与えてあげたいですね」(森田校長)

先生自身がクリエイティブな発想を持たなければ、ワクワクする授業は作れない。“近小だからできること”を実現するためにも、森田校長は学校全体のクリエイティビティ向上に期待している。

 

 

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2019年度から5~6年生を対象にiPadによる1人1台を本格実施している。森田校長は「今の時代、小学校の間にICTを活用していろいろな経験をすることが重要。モラルもきっちり教えていきたい」と語っている。

 

 

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外山教諭は、デジタルとアナログの良さをミックスした「ハイブリッドノート」に取り組んでいる。紙のノートに書き込んだものを写真に撮影し、Pagesに貼り付け、動画や写真を読み込んで保存する。

 

 

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外山宏行教諭(写真右)宮崎慶子教諭(写真左)。2人はiPadについて「今はもう使って当たり前の時代。ICTを活用してさらに授業を広げていきたい」と話してくれた。ともにADE 2019に選出されている。。

 

 

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近大附属小がECCと共同開発した外国語対話アプリ「おもてなCityへようこそ!」。児童は、授業の中でアプリを活用して英会話を練習し、その後、実際にフィールドワークに出かけて訪日外国人に英語で話しかけるのだという。

 

森田哲校長のココがすごい!

□近大附属高でiPadの導入・活用を指揮し、生徒に自由な使い方を認めた
□当初、小学校での1人1台には迷いがあったものの、準備期間5カ月で本格導入に導いた
□iPadを活かすための要素として、教師にもクリエイティビティを求めている



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