打球解析アプリでナイスショット! ゴルフ練習に革命来たる|MacFan

教育・医療・Biz iOS導入事例

打球解析アプリでナイスショット! ゴルフ練習に革命来たる

文●牧野武文

Apple的目線で読み解く。ビジネスの現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

レーダーで打球を捉え、飛距離や速度などをアプリに表示する「トラックマンレンジ」。世界のトップゴルファーが利用するこのシステムを、神奈川県のゴルフ練習場がアジア初導入した。感覚だけに頼らずデータを見ながら上達を目指す、利用者目線のイノベーションに迫る。

 

自分のショットを即データ化

神奈川県相模原市にあるゴルフ練習場「フルヤゴルフガーデン」は、昨年の12月、アジア地域で初めて「トラックマンレンジ(TrackMan RANGE)」を全打席に導入した。

トラックマンレンジとは、2台のレーダーで打球を追跡して高精度でデータ化するシステム。デンマークのトラックマン社が開発し、世界のトップゴルファー800人以上が個人で導入している「トラックマン4」と同じシステムを用いている。それが一般のゴルフ練習場で、誰でも気軽に利用できるようになった。

使い方はいたって簡単だ。専用アプリを起動して練習場のWi-Fiに接続したら、打席の番号と使うクラブを選ぶだけ。あとは通常どおり、ボールを打つ。1球打つごとに、アプリ内に正確な打球の軌跡が表示され、ショットデータとして「キャリー(飛距離)」「トータル(ボールの転がりを含めた距離)」「ボールスピード」「最高到達点(高さ)」「打出角」「左右打出角(打出角の左右のずれ)」「サイドキャリー(目標との左右のずれ)」「目標距離(目標とのずれ)」なども数値で表示される。打球の履歴はすべてアプリ内に保存され、練習場を離れてからじっくりと振り返ることができる。

今まで、自分の記憶と感触だけが頼りだったゴルフ練習が、精密なデータで検証できるようになったのだ。

 

ゴルフ人口減でのしかかる課題

ゴルフは2016年のリオ五輪から正式種目となったにもかかわらず、日本の競技人口は急速に減少している。1990年台は1400万人を維持していたものの、2000年台から急降下、現在は600万人を割り込むところまできている。

当然ながら、ゴルフ練習場も厳しい経営環境にある。「ゴルフ経営研究所」の統計によると、ゴルフ練習場の数は25年連続で減り続け、2017年には3126カ所になった。ピーク時である1992年度の5420カ所から比べると4割以上減少している。

ゴルフ練習場の多くは常連客が主体で、年齢層が高い。新規顧客をつかむための努力も効果は限定的で、打てる手の選択肢が非常に狭くなっている。これがゴルフ練習場経営の最大の課題であると、トラックマンレンジ導入を手助けした大蔵ゴルフスタジオ・市川雄一郎氏は語る。

「よく言われるのが、ゴルフ練習場は〝待ち〟のビジネスだということです。基本的にはお客さんが来てくれるのを待つことしかできない。でも、それでは将来がない。ゴルフ人口が激減する中で、ゴルファーを呼び寄せる一手が必要だったんです」(市川氏)

一方で、米国では「トップゴルフ」という新しいゴルフ練習場が話題になっている。練習というよりもエンターテインメントの領域に属するもので、夜間は芝生の上にLED電飾を光らせ、ノリノリの音楽を流し、お酒を飲みながらボールを打つ。ナイトクラブのような雰囲気の中、ゲーム的なノリで楽しむというものだ。米国ではこの練習場が50カ所を超えるほど人気になり、日本にも近々上陸する予定だ。

しかし、トップゴルフの話を聞いたフルヤゴルフガーデンの古谷誠康代表は、面白い試みとは思ったものの、日本の練習場には向かないとも感じたという。

「日本のゴルファーはものすごく真面目で、黙々と練習する方が多い。お酒を飲んだり、騒いだりしながら練習するなんてとんでもないという雰囲気です。皆さん、ゴルフが上手くなりたくて練習場に来ているのです」(古谷氏)

ゴルフはエンターテインメントである以前にスポーツ。いわゆる「会社ゴルフ」が衰退し、ゴルフ産業は苦しい状況になっているが、結果として「純粋なプレイヤー」ばかりになっていることはある意味健全なことだといえる。真面目に上達したいという日本のゴルファーに適したテクノロジーを導入する必要がある。それが、トラックマンレンジだった。

 

 

フルヤゴルフガーデン・古谷誠康代表(右)と、大蔵ゴルフスタジオ・市川雄一郎代表(左)。市川氏からの紹介をきっかけに、「トラックマンレンジ」の導入が進んでいったという。

 

 

練習球とコース球の違いも換算

フルヤゴルフガーデンのトラックマンレンジは、ゴルファーの長年の悩みであった「練習ボールとコースボールの違い」の問題も解決した。練習場で使うボールと、実際のコースで使うボールは、飛距離が2割から3割も違うのだ。

ドライバーでボールを遠くにかっ飛ばすというのはゴルフの華。コースボールは素材などの研究開発が進み、毎年のように「飛ぶボール」が発売されている。しかし、コースボールは高価で、耐久性が低い。そのため練習場では、価格が安く耐久性も高い「練習ボール」が使用されている。練習ボールはその代償として、コースボールに比べて飛距離が出なくなっているのだ。さらに、コースボールは固く、手や肘に対する負担も大きい。大量にボールを打つ練習場ではそれも考慮して、体に負担の少ない練習ボールを採用している。

「ゴルフというのはボールを遠くに飛ばす競技ではありません。狙った距離に、ボールを正確に置きにいく競技なんです」(市川氏)

正確な距離が出せるよう練習するのに、コースに出ると飛距離が違う。これではゴルファーを混乱させてしまう。そこでフルヤゴルフガーデンでは、練習球の再選定、総入れ替えを行った。さらに、トラックマン社に精密な測定を依頼し、使用する練習球の挙動をデータ化。アプリには練習球をコース球に換算したデータも表示されるようにし、本番のコースさながらの練習を可能にした。

 

広い地域から新たな客層も

トラックマンレンジ導入後、フルヤゴルフガーデンには日本各地から練習客が訪れるようになったという。

「どんなものか一度使ってみたいという人が訪れることは想定していました。でも、問題は定期的に来てくださるリピーターをどれだけ確保できるかです。最近は千葉や埼玉といった車で1時間以上かかる地域から、定期的に通うお客様も増え始めています」(古谷氏)

さすがに毎日、毎週というわけにはいかないが、遠方のリピーターが着実につき始めている。また、新たな客層も目立つようになった。トラックマンレンジを体験して面白いと思ったゴルファーが、知り合いを誘ってグループで訪れたり、SNSなどを通じて仲間を募って来るケースもあるという。

そんなフルヤゴルフガーデン、驚くべきはトラックマンレンジに特別料金を設けず、通常料金のみ(入場料300円+1球10円~12円)で利用できることだ。さらに、常連客の年齢層からスマホ所有者はさほど多くないと考え、無料貸出用のiPadも30台用意。これらが功を奏し、現在では利用客の50%以上が常時トラックマンレンジを利用している状況だ。

「常連さんのことも考えて値上げはしていません。常連さんはあまり変わらずですが、たくさん打たれる新規のお客様が増えました。打席の稼働率だけでなく、客単価も上がったのです。こういうツールはほかにはありません」(古谷氏)

フルヤゴルフガーデンがトラックマンレンジを導入して2カ月あまり。導入の効果は大きいが、古谷代表はこれはゴールではなく出発点だという。

「大切なのは、練習場側の都合ではなく、お客様ファーストでイノベーションを行うこと。トラックマンレンジはいずれ多くの練習場で広まるでしょうから、私たちはさらにノウハウを蓄積し、常に先行していきたいと思っています」(古谷氏)

 

 

1球打つごとに打球速度や飛距離など詳細なデータを表示。影のラインを見れば打球のスライス具合までわかる。データは練習場内にある2つのレーダーで観測している。

TrackMan RANGE

【開発】TrackMan A/S 
【価格】無料
【場所】App Store>スポーツ

 

 

フルヤゴルフガーデンでは46打席すべてでトラックマンレンジが使用可能。iPadやiPhoneを台に置いて、練習中すぐにデータを見られるようになっている。同練習場では、スマホを持っていない人のためにiPadの貸出も無料で行っている。

 

 

利用客に好評なのが、練習球とコース球の換算機能。左が練習球を使った実際のデータ。右がそれをコース球に換算したもの。実際のコースではどれくらい飛んだかなどをシミュレーションできる。

 

 

アプリには複数人で楽しめるゲームも3種類搭載。右図は、狙ったピンにどれだけ寄せられたかポイントを競う「BULLSEYE」。

 

フルヤゴルフガーデンのココがすごい!

□「トラックマンレンジ」をアジア圏のゴルフ練習場として初導入
□練習球とコース球のギャップ改善など、ゴルファー第一のサービスを提供
□利用料の据え置きやiPadの貸出でリピーターを着実に増やしている