イタリア人ADEの提言「iBooks Authorをもっと使うべき!」|MacFan

教育・医療・Biz iOS導入事例

イタリア人ADEの提言「iBooks Authorをもっと使うべき!」

文●神谷加代

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

イタリア人のValerio Alberizzi講師は、日本のADEのひとりである。同講師が大切にしているのは、学習者に向けて効率的に、正しく伝わる「教材づくり」。“教育のプロ”としてのこだわりが凝縮された取り組みの数々を紐解いていこう。

 

出会いは“VAIOの故障”

日本のADEは、なにも日本人ばかりではない。原則として、その国の教育機関で働いている教師であれば、誰でもADEに応募することが可能だ。そのため、日本のADEコミュニティにも日本の大学やインターナショナルスクールに勤務する外国人教師らがいる。今回は、そんな外国人ADEのひとり、イタリア人のValerio Alberizzi講師(以下、ヴァレリオ講師)を紹介しよう。ヴァレリオ講師は早稲田大学をはじめとした多数の大学・教育機関でイタリア語や言語学を教えており、ADEには2013年に選ばれた。日本の在住歴も20年を超え、非常に流暢な日本語を話す。

ヴァレリオ講師は1995年に、日本語の言語学を研究するために初来日した。日本に興味を持ったのは高校生のときで、ミラノの駅に張り出されていた東アジア言語学校の広告に惹かれたのだという。しかし、東アジア言語学校は夜間学校だったため、高校生の入学は認められず、ヴァレリオ講師は国立ミラノ大学の電気工学部に進学。その後、ヴェネツィア・カフォスカリ大学へ編入し、本格的に日本語や日本文学を専攻した。

「高校生のとき、日本へ旅行したばかりの親戚が日本の品々を持ち帰ってきたんです。そこから日本に対して少しずつ興味が出てきて、日本の文化を知っていくことで一気に惹かれていきました」

その後、日本へ留学したヴァレリオ講師は、やがて東京大学や早稲田大学などに勤務し、イタリア語の講義を受け持つようになった。

そんな同講師がアップル製品に出会ったのは意外にも遅く、2010年頃になるという。それまでは当時ソニーが販売していた「VAIO」シリーズを15年間使っていたが、たまたまマザーボードが故障し、修理に出した。その間、代替機として大学のコンピュータ室にあったMacを使うことになり、これが大きな転機となったという。

「Macを初めて使ったとき、なんて使いやすいマシンだ!と思いましたね。VAIOが壊れてしまって当時は困りましたが、Macと出会うきっかけになったので今では感謝しています(笑)」

2011年にMacBookプロを購入し、大学の授業でもiPadの導入を積極的に進めた。そうしていく中で、自然とADEへの応募が頭に浮かんできたという。

「ADEの存在はもともと知っていて、ICTを語学教育にどのように使えるのか勉強してみたくて応募しました。もっと詳しい人に教えてもらって、自分のスキルを伸ばしたいと思ったんです」

 

 

Apple Distinguished Educator Valerio L. Alberizzi講師

ヴェネツィア・カフォスカリ大学にて博士号取得。カフォスカリ大学、ボローニャ大学の任期付准教授を経て、2007年に来日。現在は早稲田大学などで講師を勤める。2012年から2017年、早稲田大学グローバルエデュケーションセンターのイタリア語プログラムコーディネーターとして在勤中に、iBooks Authorで作成したマルチタッチテキストブックを中心に、iPadを活用したアクティブラーニングの語学学習環境を構築。2013年にADE認定。

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。世界45カ国で2000人以上のADEが、 Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。

 

 

こだわりが詰まった自作教材

ヴァレリオ講師は、自身のイタリア語講座の中でオリジナルのデジタル教材を使用しており、全30回の講座で使う教材をすべて電子書籍作成ツール「iBooksオーサー(iBooks Author)」で作成している。そのクオリティの高さには脱帽だ。作り始めた当時は、いわば“デジタルテキストブック”という見た目であったが、最新版は絵巻物のように美しいデザインで仕上がっており、教師が作った域を超えている。「1年かけてレイアウトを勉強しました」とヴァレリオ講師は話しており、デジタル教材へのこだわり、徹底ぶりはADEの中でも群を抜くだろう。

「2012年にiBooksオーサーが出たとき、“これは教育が変わる!”と思いました。これによって学生がいつでも、どこでも、個々のレベルに応じた教材で学習できるからです。デジタル教材では、シームレスな体験が提供できるよう、意識して作成しています」

ヴァレリオ講師が作成したオリジナル教材は、音声や映像などのメディア、リンクの埋め込み、ポップアップやクイズといったオブジェクトを巧みに配置するなど、デジタルブックならではのメリットを活かすのはもちろん、教材全体が見やすくなるよう、文章量や余白、見出しなど細部まで設計されているのが特徴だ。たとえば、地名の単語をクリックすると、その地名がマップ表示され、どんな都市なのか簡単な説明がポップアップされる。

また、発音練習では音声だけでなく、口の動きをアニメーション(キーノートで作成)を配置したり、会話文は臨場感が出るようにヴァレリオ講師などが実際に読み上げた音源を使用している(ガレージバンドで録音・編集)。ほかにも、よりインタラクティブな学びを実現するために「ブックウィジェット(BookWidgets)」というツールを使って小テストやクイズを作成。iBooksオーサーと連係して、よりハイレベルなコンテンツに仕上げている。

学生たちは、パッと教材を見ただけで何を学び、何をすればいいのかが明確にわかる。余分な説明もなく、ヒントのみを表示するようにし、学生が考える場面を多く作り出しているのだ。

「私にとって教材づくりは、とても重要なことです。iBooksオーサーを使えば、自分の教育理論をより明確に教材に落とし込める。教育のプロとして、どの情報をどのように効率的に正しく見せるのか、どのように伝えるのかを考えさせてくれる素晴らしいツールです」

 

 

Valerio講師は、iBooks Authorを使ったオリジナル教材の作り方やポイントなど、独自で学んだメソッドを無料でApple Booksに公開している。興味のある人は、ぜひダウンロードして一読してほしい。【URL】https://apple.co/2PRuLpO

 

 

Valerio講師が現在講義で使用しているイタリア語入門のテキストブック「イタリア語入門 - Ai Posti!」。見開きいっぱいにコンテンツを配置し、余計な説明はカット。イラストは有料・無料のものを駆使し、音声はGarageBandで編集したオリジナルのものを使っている。こちらもApple Booksにて公開中だ。【URL】https://apple.co/2xecn2T

 

 

教材だけではない工夫

ヴァレリオ講師はオリジナル教材のクオリティを高めるために、定期的に学生にアンケートを実施し、そのフィードバックを元に改善を進めている。学生がオリジナル教材をどのように使用しているのか、また良い点・悪い点・改善点は何か、常に学生の声に耳を傾ける謙虚さを忘れず、自身のスキルアップにもつなげているという。ヴァレリオ講師は「オリジナル教材は学生からも大変好評で、フィードバックの点数では(10点中)平均9点をもらっています」と手応えを語る。

このようにオリジナル教材を授業に活かすヴァレリオ講師だが、ほかにも動画によるロールプレイや、学習ツール「クイズレット(Quizlet)」を使った単語学習、iPadの音声入力機能を使った発音練習など、さまざまなテクノロジーを語学学習に活用している。今では、テストも先述のブックウィジェットを使って作成し、学生たちがテストを提出した時点ですぐに点数がわかるようになっているという。テクノロジーを上手く取り入れることで、学習の効率化や学生の主体性を引き出しているといえる。

一方で、さまざまな日本の教育機関で教えた経験があるヴァレリオ講師は、日本の教育ICTに対する課題を感じることもあるのだという。

「日本の大学の中には、依然としてテクノロジーを取り入れるのに抵抗があるところがありますね。ある教育機関からは『紙ベースの一斉授業で教えてもらうことはできないか』と頼まれたことがありますよ(笑)」

海外では、もはやテクノロジーを学習に活用することは当たり前であり、日本はルールに縛られすぎている。日本の教育も、世界のトレンドを取り入れていかなければいけないが、その部分が弱いと同講師は述べる。

とはいえ「ADEのコミュニティは非常に素晴らしい教諭が多い」と話すヴァレリオ講師。日本の教育を前進させるためにも、同講師をはじめとしてADEの教師たちが先導していってほしい。

 

 

オリジナル教材を使ったValerio講師のイタリア語講座は、学生からも評価が高い。“実践的に学べる”“いつでも、どこでも学べるのが良い”といったコメントが多く寄せられているという。

 

 

Valerio講師のココがすごい!

□授業で使う語学教材をすべてMacで自作し、そのクオリティが非常に高い
□教育のプロとしての意識を高く持ち、教材づくりに取り組んでいる
□学生からの評価も謙虚に受け止め、スキルアップを続けている