2018.12.09
IT、モバイル、デザイン、アートなど幅広くカバーするフリージャーナリスト&コンサルタントの林信行氏が物申します。
11月のある土曜日、宇都宮駅の目の前からチャーターバスに乗った。到着したのは「岩山」。もともとは大谷石を切り出していた採掘所らしい。天然の洞窟とはあきらかに違う直線で切り取られた穴に入ると、iPhoneでも映らない真っ暗な空間にかがり火が炊かれ、無数のろうそくが延々と並んでいた。
巨大空間の突き当たりには映画館のスクリーンよりも巨大なおよそ1000インチの岩壁があり、そこと天井に、大規模プロジェクションマッピング用の数千万円級のプロジェクタで「VENT」の文字が映し出されていた。ワインやシャンパンが配られたあとイベント主催者の挨拶があり、続いてVENTが応援している研究や開発プロジェクトが紹介された。
最初のプレゼンターはバーンドノート・スミルデ。室内に雲を作り出すアート作品をつくるアーティストで、最近は岬にある灯台の灯りを特殊なプリズムに当て夜の都会(摩天楼)に虹を出現させる作品を手掛けている。
続くプレゼンターはレディー・ガガにも選ばれた生物的な見た目を持つ靴をつくるシューズデザイナー・串野真也と、上半身と下半身で違う生物を組み合わせたような合成生物学の研究をするアストロバイオロジスト・藤島皓介による開発プロジェクト。その後には世界的ゲームデザイナーの水口哲也が地下水のある巨大空間にジェスチャーで操れる巨大な光のクジラを出現させたり、研究者の落合陽一が現実空間にタッチ操作ができる光で描かれたバーチャルボタンを表示させる研究について話したり、建築家の石上純也がまったく新しい工法でつくる地下洞窟のような新しい形の建築についての話をしたりと、タイムスリップして22世紀の未来に来たかのような気持ちになる、すごいイベントだった。
まだ明日の天気ひとつすら操れず、自然災害で大勢が命を落とすか弱い存在の人類だが、その一方でかなりすごい力も備えてきた。筆者が好きなサーカス集団、シルク・ド・ソレイユは「Impossible is only a word(不可能はただの単語に過ぎない)」をモットーとして掲げているが、実際に想像力のたがを外してチャレンジすれば、AIに代表されるデジタルテクノロジーや遺伝子工学、生命科学といった人類の叡智が、それまで人間が築いてきた価値観を壊し、まったく想像がつかないすごい未来を開拓し始めている。