★★★前回までのあらすじ★★★
編集3号は後輩から頼まれ、福岡の謎の人物と会うことになった。その道中、後輩の妹である中山詩織に待ち伏せ&強制的に同行されることになったうえ、なぜか詩織の分も交通費を払うはめになる。
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3号と詩織は羽田空港第一ターミナルに到着した。
福岡空港行きのチケットを手に入れようと、航空券売り場のほうに歩みを進めると、大空ジャパン航空の案内係に何か大声でまくしたてている男が目に入ってきた。
「ん? なんだ?」
「アジア系の方みたいですね。たぶん、中国系かしら」
「どうして、わかるんだ?」
詩織の断定口調に対して、3号はうろんげに問う。
「だって、促音が上手に発音できてませんよ。中国の方って、結構、日本語を話すとき、促音で苦労する人が多いんですよね。学校(がっこう)が、がこう、ってなっちゃいやすいんですよ」
そうだった。この中山詩織は、なぜか語学系の知識が優れているのだ。詳しく聞いたことはないが、きっと帰国子女に違いない。それも1カ国や2カ国ではないだろう。3号が知っているだけでも、こいつは英語はもちろん、中国語、フランス語、ロシア語、スペイン語を使いこなしている。
「で、俺にはよくわからないんだが、あの男は何を怒っているんだ?」
案内係に何かをまくしたてていた男は、日本語を操るのが面倒になったのか、中国語で話し始めていた。英語ならまだしも、突然、中国語で話しかけられ始めた案内係の女性は、英語で一生けん命、何かを説明している。
自慢じゃないが、3号は語学はからっきしである。
「なんか、困ってるみたいなんで、私が行って通訳してきますね」
そう言うと、詩織は3号が反応を返す前に、当事者のもとに進んでいった。
他人の妹ながら、お人よしだなあと思う。
(俺もせめて英語ぐらい使えたらなぁ)
ふと、3号はそういえば、「グロービッシュの教科書」っていう新書がうちから今度出るなぁ、と、突然思い出した。
(あれでも読んで、少し勉強してみるか……)
詩織が聞いたら無駄な努力ですね、と断言されそうな決意である。
しかし、3号にはある座右の銘があった。
(やってから、あきらめろ)
3号はなんでもかんでも、やってみたいと思ったことは、必ず挑戦してきたのだ。まあ、現実問題として、その結果、あきらめてきたものの方が圧倒的に多いのだが。
そんな思いにふけっていると、詩織が戻ってきた。
「3号さん、どうしましょう。面倒なこと頼まれちゃいました……」
★★★
つづく
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