第十週


  ボロボロのハーレー・ダビッドソンの前。

  約束の時間を過ぎても君は来ない。

  きっとこの腕時計がポンコツなんだ。

公園が真ん中にある街 希薄塩酸めいた昼空の下

 

  ドーナツ屋のことは土星。

  青い外装のベーカリーカフェのことは水星。

  お定まりの待ち合わせ場所に惑星の名前を勝手につけて呼ぶのが

  いつからか二人の習慣になっていた。

ひとりつこ同士の恋はあてのない旅と同じで寄り道ばかり

ドーナツの油かがやく指のままべたべた触れ少年画展

 

  そして二人でやっと手に入れることができたはずの

  青い海にまみれた「地球」は、

  君の体内から燃えさかりはじめ

  日々どんどん膨らんでゆく「太陽」に、

  飲み込まれだそうとしていた。

「純粋」と「無罪」に同じ語を使ふ言語のやうに笑ふぼくらは

感覚に反逆をした罪により階段で寝てゐた朝もある

 

  「太陽」を前にして僕らは呼吸ができなくなる。

  それはたとえば、

  ローマ字で書くと回文になる短歌を作らなければいけないような、

  無意味でなんの充実感もない緊張にさらされることだった。

「う、寝起きか?」はつなつ込めて息の野に消えて木炭、歌は聞こえぬ

(UNEOKIKAHATUNATUKOMETEIKINONONIKIETEMOKUTANUTAHAKIKOENU)

 

  君はやはり来ない。

  ハーレー・ダビッドソンはどんな惑星だったんだろう。

 

 

2014.3.17

 

カテゴリ: シーズン1, 山田航
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